峰屋 

高橋 康弘

子供の頃から、手に職をつけたいと思っていたんです。というのも家が乾物屋で、いろいろ食料品を扱っていたんですよ。だけど小さい店だから仕入れる量も少なくて、価格面で大手のスーパーなんかにどうしたって負けちゃうでしょう。子供ながらにそれが悔しくて、そういう仲介の商売でなく「自分で作ったものを売る」とか「自分の技術を売る」という商売がしたいと思っていたんです。高校時代柔道をやっていたので、針灸の道に行くか、食べ物を作る道に行くか迷いましたが、結局この道に入りました。

大学で紹介されたパン屋があったんですが、そこの主人が「若者なら若者がたくさんいる店がいいだろう」とさらに紹介してくれた『レストランジロー』のベーカリー部門でまず働きました。パンを作ったのはこの時が初めてです。小さい生地が出来上がるとふわふわ大きくなる。よくここまで膨らむんだなあ、ってパン作りは面白かったですね。

その後、都内の何店かで修業しました。そして20代の半ばで独立です。少し早いですが、まわりに「やってみたら?」といわれてその気になってしまった。この場所はもともと親の乾物屋があった所なんです。実は店を出す前に、通る人の数など調べてもらったんですが、パン屋には向かないと言う結果が出ていました。それでもはじめてしまいましたが。

店をはじめて2,3年立った頃でしょうか、ブドウ種や酒種を使い出しました。きっかけは健康にいいからとか、天然酵母へのこだわりとかではなく、発酵そのものに興味があったから。パンの歴史を学ぶと、古代からの発酵の方法が色々出てきますよね。パンの原点はここにあるなと、いろいろ試してみたんです。今でも、これらを使ったパンは店にいくつか並んでいますよ。

店をやっていたり、パンを作っていて一番良かったと思うのは、いろいろな人に出会えたこと。人との関わりなしで自分だけで進んでいくと、刺激を受けることもなかったと思う。「ガツン」という刺激を受け、「ああ、こんなことやってみよう」と思うのは、自分でもんもんと考えていたときではなく、人との出会いの中でだけですもん。人に教えてもらったり教えたり、そういうキャッチボールが、店のスタッフの中でも、関わる人との中でもあるといいですよね。だから、年をとっても、若い人の意見にも耳を傾けられるような、人を受入れられる人でいたいと強く思っています。

そして、何が売れるか考えてパンを作るより、発酵から来る美味しさを味わえる、直球勝負のパンを追求していきたい。峰屋のパン屋のおやじとして、カヌーの選手というより船の船頭という感覚でみんなを引っ張っていきたいですね。

取材日 2001年11月








峰屋
東京都新宿区新宿6-17-12
TEL:03-3351-6794

高橋さんの秘密