モルゲン ベカライ

水野 晴久 氏

1955年、静岡県生まれ。吉祥寺「ウプサラ」で7年修業。その後、スイスのソルトーンにある「リューゲゼッガー」で研修し、スイス伝統技法を学ぶ。帰国後、卸のパン工場で商品開発を5年務め、95年に「モルゲン ベカライ」をオープン。

もともと、パンが好きでこの仕事を始めたようなものですね。吉祥寺の「ウプサラ」で修業をはじめましたが、この店が、他の店ではやっていない、低温長時間発酵というスイス製法でパンを作っていました。これに魅せられてしまいましたね。長時間発酵とは、パンの旨みを増す製法。逆に、どうしたら美味しいパンができるかというと、サワー種を使った長時間発酵でじっくり旨みを引き出すという結論に達するわけです。例えれば、お酒の寒冷仕込みと同じなんですよ。

パンのふっくらした感じを出すためにイーストを、じっくり熟成のためにサワー種、へーベルという酵母を組み合わせ、それぞれのメリットを使っています。パンの生地は、低温でじっくり寝かします。低温とは、だいたい0度。−4度から4度に設定した、いわば、大きな冷蔵庫の中で、24時間から72時間放置するんです。長ければいいということでもありませんが、2,3日置いておくのが一番美味しさが出ます。この温度だと、イーストは働きません。でも、ゆっくりゆっくり酵素の力は働いて、サワー種、ヘーベルによる熟成は進みます。これがパンとしての旨みを引き出すんですね。こうして作ったパンは、奥深い味に加え、普通の製法で作ったパンに比べてはるかに劣化が遅い。3日は味が落ちないというのは、「ここで焼けばもう普通のパンができる」という状態から、更に2日も3日も時間を費やすだけの価値があることだと思っています。

うちでしか食べられないパンを作りたいから、なるべく既製品は使いません。ガーリックトーストのガーリックオイル、クリームパンのカスタードなど、全て自家製です。菓子パンは新商品が出ると、わーっと2,3ヵ月は売れますが、安定して人気なのはやっぱり食事パン。中でも食パンです。予約しないと買えない、というのも、生地を寝かせるのに場所を取るから、作れる量に限度があるんです。一日、どんなに頑張っても3,40本しか焼けないんですよ。

お客さんは近所の方が多いと思うけれど、よく分かりません。わざわざ買いに来てくださる方も結構いるようです。「パンは美味しい」ということが食べてくださる方に分かってもらえれば充分。パンが好きで、作りたい、修業したいという人には、自分が知っている知識の全てを教えます。今も1人2人、修業に来ていますよ。
取材日 2000年4月


水野さんの秘密