「商店街の非日常空間」

ラ・フーガス 仁礼 正男 氏



仁礼さんをクリックすると声が聞けます。

1962年、東京都生まれ。大学卒業後、東京・小平にある(株)あけぼのパンに入社。2年後、麹町の「ハナ・コウジ」へ。同店に6年間勤務し、製造主任、店長を務める。'94秋に「ラ・フーガス」を開店。

駅の北側には羽根木公園、そして南側には気になるお店が何軒かあって...梅ヶ丘はついつい途中下車したくなるような街。そんな梅ヶ丘の街に「ラ・フーガス」はあります。
オーナーシェフは仁礼正男さん。「大学4年になるまで真剣に進路のことを考えてなくて、このまま流されるとサラリーマンになっちゃうと思って...でもそれは自分に合ってないし、もともと物をつくるのが好きで、ケーキ屋で1年くらいバイトしてたのもあって。」と大学卒業後は製パン会社に就職し、そこから仁礼さんのパン作りが始まりました。

ラ・フーガスといえば、1日800個も売れるというプチクロワッサン(ハム・アンチョビ入り)、和風の変わり種・ごまねぎパンなどが有名ですが、それらに負けず劣らず、皮が薄くて食べやすいバタールや軽い仕上がりのプレーンなクロワッサンなどオーソドックスなパンもとてもおいしい。仁礼さんは「ちょっと変わったパンが雑誌に取り上げられるのはうれしいんですが、それがブームになっちゃうとブームの前より売り上げが下がっちゃったりするんで...」とやや戸惑いもあるよう。「作る側として、一番気をつかっているのは、やはり基本的な食事パン、パンドミとかフランスパンとかそういうところなんです。取材的には面白くないだろうけど、そういうものも取り上げてほしいですね。パンはトータルなもの。どこか手を抜いたらいいパンはできないので、最初に粉を計るところから、最後の焼き上がるところまで丁寧につくることを心がけています。」とパンに対する真摯な姿勢がうかがえます。

お店の中をぐるっと見回すと、レンズ豆を使ったパンやサワークリームたっぷりのオニオンパイなど「どんな味なんだろう?食べてみたい!」という気になる商品も。これらは、めずらしい食材をお客さんに紹介する意味も込めて商品化されたものだそうだが、なかなか心ニクイというか、お客さんの心をくすぐるキーワード(例えばレンズ豆のココ、〜プロヴァンス風など)が散りばめられているのがうまい。
さて研究熱心な仁礼さんが現在試作中なのは、ルバーブ(西洋ふき)や乾燥ブルーベリー、を使ったパン。「ルバーブは最近ジャムとして見かけますが、パンに使うには難しくて...随分試作してるんですが、なかなか商品にならないんですよ。」と完成度の高いパンを目指しています。これはぜひ味わってみたいですね。

梅ヶ丘の街に合った店、その中でお客さんに新しい提案もしていきたいという仁礼さん。「お客さんは、魚屋さん、お肉屋さんと同じようにうちにパンを買いにきてくれるわけですが、日常からちょっと離れ、おしゃれなスペースでありたい。」とこれからも語ってくれました。

最後に「梅ヶ丘はパンの激戦区、ほかのパン屋さんは気になりますか。」とちょっと意地悪な質問をぶつけてみると、「いやぁ、意識することもありますけどねぇ。顔くらいは知ってると思うので行き来はないですね。」とさらりと交わされてしまいました。
〜先走りせず、さりげなく〜 仁礼さん、そしてラ・フーガスのお店、共にバランスのよさを感じた取材でした。

取材日 1998年