メゾンド・プティ・フール
西野之朗(にしのゆきお) 氏

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大阪生まれ、東京育ち。高校卒業後、「コロンバン」に入社、4年間勤務。
その後「オーボンヴュータン」で2年間修業し渡仏。パリ郊外の「メゾン・ド・ロイ」、
16区の「アルチュール」などで2年間修業後、帰国。90年に本店をオープン。


最初はコックになろうと思っていた。でも周りにもコックになりたい人が多かった。人と同じじゃつまらない。だったら菓子屋になろう。それが西野さんのお菓子屋さんになるきっかけだそうです。人とは違う特徴を作り出そうとする西野さんのこの姿勢は今のお菓子作りにも反映されているようです。今でこそメゾンド・プティ・フールは焼き菓子専門のお店というのが定着していますが、オープン当初はいずれは生菓子も作るつもりだったそうです。ではどうして生菓子ではなくてあえて焼き菓子からのスタートを選んだのでしょうか。やはりここに西野さんのこだわりがあったのです。他と同じことはやりたくない、そしてまた自分のやりたいことひとつひとつをきちんと形にしていきたい。そんな強い思いが焼き菓子だけからのスタートとなったでしょう。

オープン当初は「ショートケーキないの?」と尋ねるお客さんもいたそうです。しかし焼き菓子だけといってもフール・セック(乾き菓子)、ドゥミ・セック(半生菓子)、フール・サレ(塩味の菓子)などのその種類の充実ぶりは訪れるお客さんの心を次第に掴んでいったのでしょう。西野さんは焼き菓子だけでもやっていける手応えを感じ、そして「生菓子がない焼き菓子だけ」というのが特徴になると確信されたそうです。

西野さんの作り出す焼き菓子はとても表情豊か。味覚だけでなく視覚まで楽しむことが出来ます。コンベルサシオンもポンヌフもバスクもタルト類はホール型がほとんどです。店内の棚には常時20種類近い数のホールのタルトが並んでいます。「ワンホールという形が菓子に一番勢いが出るんじゃないかな。」と西野さん。「うちのお客さんは一人で半分ぐらい食べちゃうからね、焼き菓子だから食べられるんだ。焼き立てももちろん美味しいものもあるけど、日数をおいてさらに美味しくなるのものもあるよね。」

焼き菓子の味わい深さを出すには材料選びや作り方にも特別なことがあるのではと、お聞きしたら、「普通ですよ。」と一言。「普通どうりの仕込みをきちんとすれば、作業工程の中で注意するところはきちんと注意する。たとえばパート・シュクレ、あまり空気を抱き込ませないとか。あと釜ね、焼き加減。どこまできちんと焼いてあげるか。そういったことで食感が違う。」 普通のことをきちんと。その言葉の中に西野さんの自信がうかがえます。

これからはタルトレットでのお菓子や、季節の果物を使った半生菓子を増やしていくそうですが、やはりムースとか生菓子は作る予定はないときっぱりと変わらない西野さんの姿勢。焼き菓子の中でも古典的なもの、ずっと変わらずあるものにアレンジを加えながら作っていきたいと話ししてくださいました。取材を通して改めて焼き菓子の魅力を感じることができました。
取材日 1997年