「PAIN de CONA」

高橋 誠一 氏

(徹夜続きの高橋さん、お疲れ様でした。)

高橋さんをクリック。

1955年、北海道生まれ。
大学卒業後、広告代理店に勤務。
CMプロデューサーとして活躍。
35才のときにパン職人に転身される。
他店での修業も経験するが、
基本的に独学。
'93年「パン ド コナ」を開店。

かっこいいCAP帽がトレードマーク。パン屋さんらしからぬその風貌。広告業界からの転身??という情報。いったいどんな方がどんな思いでパンを作っているのか。横浜・青葉区のお店を訪ねると…

 情報どおりCAPにDKNYのTシャツ姿の高橋さん。横浜みなとみらい・クイーンズイーストに支店ができたばかりでここ数日寝ていないそう。だがそんなことを全く感じさせないほど元気な応対。「ひとことでは言い尽くせないし、説明しちゃうとこじつけになってしまうんですが」との前置きで「なぜパン職人になったか」を教えてくれた。「僕が広告代理店でCMプロデューサーをしていた頃はバブルの全盛期。時代は洗練されたもの、きれいなもの、心地よいものに向かっていたが、ロケで行ったタイや南米のペルーで感じたのは、労働とは本来、汗くさいものだということ。それはとても新鮮に映った。日本とのギャップを目の当たりにして、本当の豊かさとは何かずっと考え続けていました。」会社を辞めるにあたっては計画的で、学生時代からサラリーマンは一生続かないと思っていた。広告の仕事は面白かったが35になる前に違う仕事をしたいと考えていたという。基本的にものを作ることが好きで、食べ物・料理大好き。そしてパンは豊かさの原点。そのなかで汗を流してやってみたかったと高橋さんは言う。

 「PAIN de CONA」のパンを語るに欠かせないのは、無添加の粉と天然酵母。小麦は3種類、ライ麦は2種類を使っているが、かなり吟味して選んでいる。天然酵母はりんごと洋なしからおこした自然種で、お店を始める1年半前からつないでいるものだ。種の管理も「温度を少し高めにして乳酸菌がでてくるようにしている」と独自に研究された高橋流。「皆さん講習会とかに出すぎて、自分の作り方わからなくなちゃうんじゃないですか。答えは一つじゃないですから。」との言葉も。
しかしこれらのことも必然的にそうなっただけで、枠やスタイルにはいっさいこだわらないと言い切る。「日本で今、天然酵母というと自然食の枠にはめられてしまいがちだが、本来そうした枠ではない。」実際、高橋さんのつくるパンにはイーストを併用しているものもある。自分の中で粉と種をブレンドして、納得のいくものを作り上げていきたいという高橋さんのパンは、一つ一つの味に自身の個性や趣味が反映されている。

 お店にはオリーブオイルやバルサミコ酢などの食材も置いてあり、自分のパンをどういうふうに食べてもらったら美味しいのかも提案されている。「このパンはいいオリーブオイルをつけて食べるとうまいですよ。」「先日のバルサミコいかがでした?いちじくなんかにも合うんですよ。」とお客さん1人1人と会話して、コミュニケーションをとっている高橋さんはとてもナチュラル。「うちのパンは一般性がないので、皆さんそれを分かって買いに来てるんですよ。」と高橋流にアレンジされたパンをお客さんも楽しんでいる様子。

「今後はどういう方向に?」の質問には「表現はシンプルに。パンとワインにチーズに行き着くような。それぞれにレベルの高いものがあって、極めればとても奥の深いものですから…」との答えが返ってきた。

取材日 1997年