パンの国

小原 国芳 氏

店を始めたのは平成7年の夏ですが、実はその前まで、スーパーのインストアーベーカリーで16年働いていました。だから技術についての不安は全くありませんでした。
でも、作っているパンはその頃と全く違います。スーパーでのパンやそれを作る体制に、自分の考え方とギャップが生じたのがそもそも自分の店を持とうと思ったきっかけです。

スーパーで働いている時、出張で東京に行く機会が結構ありました。そのときはじめて天然酵母パンというのを食べたのですが、まあ、その美味しかったことといったら! 出張から帰って来て、早速「天然酵母パンをやりましょう」と上司に提案しましたよ。でも、あえなく却下。天然酵母独特の、発酵時間の長さが大きな問題とされました。発酵時間中人がついているとなると、今以上の人件費がかかるというのです。いくら美味しくて健康的なパンでも、大きな会社組織となるとこういった理由で作ることができないんですね。「自分の好きなパンを誰にも遠慮せずに作りたい」、結局はこの思いがつのって独立を決意しました。




私は昭和23年生まれだから、それを決意した時、もう結構いい年でした。そんなこともあって、親戚から知人、まわりにいる人全員に反対されましたね。でもとにかくやると決めたんですから、準備開始です。最初は店での小売りは考えず、通信販売のみでやろうと思っていたんですよ。でも、たまたまいい物件がみつかったので、それならと急きょ店での販売も始めることにしました。

調度品は、なんと天井の電気のカサにいたるまで、ほとんど全てが貰いものです。オーブン一台は買いましたが、本当に、びっくりするほどお金のかかっていない店なんです。それでもたくさんのお客様が来てくださいます。天然酵母と岩手のナンブ小麦とを組み合わせたパンって、岩手県に他にはないんじゃないかな? 地元だけでなく、隣町からも車で買いに来る方は多いですよ。

それと、うちのパンを語る上で、忘れてはならないのが、水。全てのパンの仕込みに"仙人秘水"という、釜石の鉱山から湧き出ている水を使っているんです。そのまま飲んでも甘くて美味しいんですが、これをパンに使うと、ソフトに仕上がるんです。それだけでなく、小麦の味もそのまま出してくれるので、美味しいナンブ小麦が更に活きてきます。この水を使ってみたいというのは、スーパー勤務時代から思っていたのですが、やはり実現は独立してから。以来ずっと使っています。水道水を使っていると真っ黒になるホイロの中も、この水を使っていると全く汚れないんですよ。

将来は、ここが福祉施設として障害者とともにパンを作れる工房になったらいいなと思っています。実現はまだ少し先になりそうですが。それまでは、地元の方に「便利な自分のパン屋」と思ってもらえるような店でありたいと思っています。

取材日 2001年7月





仙人秘水


パンの国
岩手県釜石市野田町1-12-18
TEL: 0193-23-8092


小原さんの秘密