パン焼き人 安井定義さん <経歴>
第一ホテルに入社し国内外で約20年間修業後、フレンチの坂井宏行氏の店で腕を磨く。93年に独立。

   

今年で店を開いて10年になります。もともと転勤などで人の出入りの激しい土地なのですが、お客さんは定着しているようです。オープン時からあるものなど、やめるにやめられない定番商品がたくさんありますね。

スペイン製の石窯にも慣れました。石窯イコールハード系というイメージがありますが、本当はふっくらしたパンが一番向いている。中と外、両方から火が入るので水分が逃げずしっとりと仕上がるんですね。クロワッサンなどはバターは20%までしか入れられないし、型ものは途中で型からはずさないといけないというひと手間がかかりますが、やっぱり石窯ならではの焼き上がりというものがあります。

週に一度作る甲斐小麦のパンも、だいぶ定着しました。高価なものなので、毎日作って余らせるというわけにはいきません。週一回の焼き上がりを待っていてくれるお客さんがいるからこそ、価値があり、成り立つものですね。

実は、隣のレストランは来年2月までで閉め、空いた場所で病気やアレルギーの方向けのパンを作ろうと考えているんです。レストランのシェフが実家を継ぐために辞めるというのが一番の理由なのですが、私の考えに合わせて料理を作ってくれる後任の人を探すのは大変ですし、うちのパンに合う料理の提案はもう十分できたので、次の段階へ移ってもいいかなと思うんです。

塩分や糖分をカットしたパンというのは大手では難しいものだし、逆にそれ専門では一般のお客さんが入りづらいもの。うちはもともと普通のパンをやっているから、それにプラスした形でできるのではないかと思っています。

今年5年目になる宅配でも売れるし、ペットも食べられる。それに自分だっていつ体調を崩すしかわからないですから、先手を打っておこう、と。パンのジャンルをせばめて突き詰めていくという店もありますが、うちは逆に間口を広くしてみようと思うんです。

今は国民の30〜40%が糖尿という時代。病気になるのはもともとおいしいものが好きな方が多いですし、健康なだけでなくおいしいものを作りたいですね。

塩味がない分は煮干や昆布、カツオなどの出汁の旨みや、海洋深層水の塩分でカバーしようと考えています。粉の味もすごく出るので質が問われますが、今使っている第一製粉の粉や甲斐小麦で大丈夫だと思います。そのほか、ライ麦やグラハムをたくさん使って、さらに重くならないよう米粉なども混ぜたパンも作ろうと考えているところです。

ただそうはいっても、実際に塩抜きでパンを作ろうとすると根本的に配合を変えることになるので大変です。発酵が早くなったり痛みやすくなったりと、塩の果たしていた役割の大きさに驚くほどです。

これからはいろんな出汁の香りのする、パン屋らしくない匂いの店になりそうですよ。


これは試作で焼いたロイヤルミルクティーのパンです。どうぞ食べてみてください。ブリオッシュ生地に紅茶を加えたものなんですが、一年越しで開発したものです。セイロンティーの葉をミルクに半日漬けてしぼり、ミルクにはエバミルクを加え、葉はメープルシュガーと合わせて挽いて生地に混ぜ込み、はちみつバターを塗って焼き上げました。このミルクティーの香りが焼きあがりだけでなく翌日まで続けば成功なんです。


新作をよく出すといわれますが、やはり自分の食べてみたいものを作ることが多いですね。あとはお客さんから、こういうものを作ってとリクエストをされることもあります。次は、お茶の粉を混ぜ込んだ生地にさつまいもなどの自然の甘みのあるものを入れた無塩・無糖パンを考案中です。
取材日2003年11月15日


パン焼き人
東京都目黒区八雲2−8−11第2益戸ビル1F
03-3718-0700

安井さんの秘密