パオ

林 耕生 氏


パン屋、やろうなんて全然考えてなかったんですよ。(奥さんと)家庭用で焼いていたんですよ。最初はイースト使って。でも、食べた子供にぶつぶつができちゃって、それからホシノ酵母や自分で起こした酵母で作っていました。今思うと、石みたいな、すごいパンですよ。時々街でもあるじゃないですか、ごつごつの。良くあんなの食ってたな、っていうような、そんなパンでした。毎日作るうちに少しは上達しまして、友達が出していた自然食品店に委託で置きはじめたのが販売を開始したきっかけですね。ちょうどその頃、僕も勤めていた会社をやめて、もう少し自由な時間が取れて、暇をみてパン作りもできるかな、と思う会社に移ったんですよね。そうしたらその会社、3ヵ月くらいでつぶれちゃったんですよ。失業保険をもらいながら、どうしようかな、この先、って考えていて、結局パンのほうを本格的に始めちゃって今に至っているんですね。

使っているのは干しブドウから起こした酵母です。うちはタネはつながず、全て使いきりなんですよ。基本的にフルーツ種はスターターが違うだけで、結局途中からつないでいく場合は粉と水と種だけですよね。そうすると途中からはある程度同じ状態になってしまうと思うんですけどね、液種の使いきりだと、多少風味や味に園もとのフルーツの特徴がでるんですよ。、今使っているのはレーズンだけですが、いちじくや洋なしから起こしたものもそうでした。力強さや風味が液体のほうが強い。

液体の使いきりにした理由のもうひとつは、つないでいくと、どうしてもパンの目が詰まっていってしまうこと。ちょっと発酵が良くないようなパンになってしまうんです。そういうタネで白いパンを焼くのはどうかなあって。
確かに失敗も多いし手間はかかるんですよね。昨年のレーズンは出来が悪くて、今年、最近までとても苦労しました。品質の安定という意味でも大変かもしれません。でも、確かに厄介なんですが、自分としてはこのやり方のほうが美味しいかなっていう気がしているので、このやり方でやっているんですよ。

最初は発酵の見極めもわからなくてね、かなり波がありました。いまでも「できている」という意識はありません。そういう意識を持つと終わりかな、まだまだ勉強中と思っています。発酵がいいパンは風味もいい。そんな、風味のいいパンを作りたい。卸の仕事もやめました。今は店一本です。パンは生きものですから、卸をするとパンが変わっちゃうんです。それが嫌で。イーストのパンは作りませんが、イーストが悪いとは思いません。基本や、技術を学びたいときも最適だと思います。ホシノ酵母も優秀な酵母だと思っています。でも、僕は種を起こすことから、かかわるのが酵母のパンかなって思ってるんです。酵母のパンは、イーストより技術でカバーできるところが少ない。だから、愛情を持って世話をしないと。酵母はほんと、子供みたいにワガママですからね。
取材日 1999年


林さんの秘密