パティスリー パリセヴェイユ
金子 美明 シェフ
 

   


14歳の頃に「パリのお菓子屋さん」(山本 益弘 著)という本と出会ったこと。それが、私がパティシエになるきっかけでした。本場パリのケーキ屋さんの写真を見て『こういう店をやりたい!』と思ったんです。

その思いを胸に、「ルノートル」へ入ったのが15歳の頃。日本へ出店して間もない頃で、今よりもずっとフランス色の強い店でした。当時のルノートルのパリ本店でピエール・エルメがスーシェフを務めていた時代です。 その後、フレンチレストランの「パッション」や「ル・プティ・ブトン」でシェフ・パティシエを務め、念願の渡仏を果たしました。

フランスには滞在したのは約3年半。「シュクレ・カカオ」、「ラデュレ」、「アラノー・ラーエル」、「アラン・デュカス」などパリを起点にして、ノルマンディやレンヌなど他の都市の店でも修業しました。クリスマス色が強く、飾り付けが美しいと言われるアルザスへ行きスー・シェフ(パリ・セヴェイユ)と一緒に「エルムシュテッター」でその期間修業をしたり・・・。一番気に入ったのは、男性的な力強さを感じるブルターニュです。ブルターニュは昔、隔離された時代があったせいか、島国の日本人とどこか気質が似ているところがある。初めはとっつきにくくて中々心を開いてくれないけれど、一度打ちとけるとすごく親切でやさしい人達が多いんです。

パリではお世話になったアルノー・ラーエル氏とは今も懇意にしています。店では「アルノー・ラーエル」にあるものと同じデザインのケーキに氏の名前をつけ、氏の好きなオレンジを使っています。氏はチョコレートも大好きだったので、ミルクチョコと合わせているのですが、実はフランスへ行くまでは『チョコレートはビター系じゃないと・・』という考えがありました。ホワイトチョコやミルクチョコに香り付けをすることで生まれるおいしさに気付いたのも貴重な経験です。

修業は、エルメ氏の影響を受けているシェフの店が多かったのですが、どのパティシエの店でも必ずベーシックなアイテムがあり、それが非常に質の高い美味しさだということを強く感じました。サバランやフラン、パン・オ・ショコラなど単純なお菓子の1つ1つが本当においしい。目新しいデザインや組合せに思えても、実際は驚くほどシンプルなレシピと組合せということが多いんです。

ヨーロッパ文化に根ざすフランス菓子のあり方、ベーシックな美味しさの重要性、を再認識するという点でも、フランスへ行ったことはこの仕事をやっていく上で必要不可欠と言える本当に良い経験になりました。


「パリセヴェイユ」は場所、内装、店名も全部自分で考えたのですが、特にこの道に面した大きなガラス窓が気に入っています。フランスのパティスリーのように、商品が並んでいるのが見えるのがいいなと思って。

パンはある程度しっかりと揃えたいと考えていたので、ブーランジェを1人入れ、お互いにケーキとパンの技術の情報交換をしています。今、朝パンを焼くのは私が多いですね。コンフィチュールやパート・ド・フリュイなどのコンフィズリーもとても人気があり、今後はもっと力を入れて行きたいアイテムです。6月のオープン以来もちろん大変なこともありましたが、"自分のケーキを作る"という面では苦労がなかったといえるかもしれないですね。


ベーシックが絶対的に美味しいこと、これは今後がんばっていきたい課題です。その上で自分の作りたいケーキを作り、それを受け入れてもらえれば嬉しいですね。


日本人は技術的にヨーロッパを越えているという声もあるけれど、自分はそうは思いません。これから何年経っても自分達が表現しているのはやっぱりヨーロッパの文化であり、長い歴史と共に進化し、生まれてからずっとその食生活で暮らしてきているフランス人の感性には一生かかっても追いつけないと感じます。真似をすることが悪いとは思わない。ですが、真似したものがそれ以下になるなら意味がないと思っています。

いわゆるフランスらしい伝統菓子ではなく、見てきたままのフランス菓子を作りたい、そのスタイルを自分なりに表現する店にしていきたいです。 日本の『パリのケーキ屋さん』、それが私の夢です。



 パティスリー パリセヴェイユ
東京都目黒区自由が丘2-14-5 館山ビル1F
03-5731-3230

金子さんの秘密