パティスリー フレ 木村成克さん  「"フランス菓子"にはかたくなにこだわります。
その線を持っていないと自分が揺れてしまうから」

   



福岡に来て1年半が経ちました。今の店は、絶対多店舗経営をしないと決めています。お客さんに安心して食べてもらえるよう、誰でも中が見えるガラス張りの厨房にしてもらいました。ここで一から生菓子を作っています。


こんな風に強い思いを持ったのは、渡仏以前に働いていた店での経験から。大規模にデパート展開をやっていたんですね。輸送に耐え、デパートのお客さんのニーズに合うものを作らねばならなかった。今考えると怖くなることもやっていました。例えば前日に作ったものを出すこと。400円以上いただいて、それはないだろうという感じでしょう。美味しいまずいという問題とは違うんです。それは主観で、みんなの多様な舌があるからこそ色々な店が成り立っている。それはいいんです、でも、各店の作り手がそれぞれ自分の美味しいと思うもの、安全なものを納得して出さないと、お客さんに申し訳なさすぎると思う。そんな思いからの一店のみの営業とオープンキッチンなんです。

自分のお菓子作りの姿勢は"フランス菓子"を作ること。これにはかたくなにこだわります。11年いたフランスから帰ってきた時、オーボンヴュータンの河田シェフに言われたんです。「このあと15年経っても今のままでいられるように妥協しないでやれ」って。もし自分から"フランス菓子"の線を取り除いちゃったら、揺れてしまうと思うんですよ。それだけは嫌なんです。だから、ロールケーキも作らない。フランス菓子の中で個性を出したいと思うんです。


11年の間に、2度ほど帰国したことがあります。基本的にケーキの食べ歩きはしませんが、こういうときはやはり興味あって日本のケーキを食べますよね。ひとつの店で2,3個食べるでしょ。でもね、そのあと1時間くらいしたら「あれ、さっき食べたケーキってどんなのだったっけ?」って。軽くて美味しかったんだけど、何を食べたか分からないケーキ、これは僕はちょっとやだなって思った。だから、食べ応えのあるケーキを目指しています。レシピもフランスにいた時とほとんど同じ。ただ、甘みを和らげるために酸味と苦みを上手く使うようにしています。


若い人にも食べ歩きは勧めないですね。人のを見ても迷うだけ。それより自由な時間をもっと有意義に過ごしてほしい。できれば和食、洋食、中華を積極的に食べに行ってほしいですね。食を大きくとらえれば、必ずのちにいい発想が出てきます。同時に、自分が"ケーキに"ではなく"食"に従事していると思って欲しい。映画を見たり、友達と酒を飲んで話したりすることもいい。お菓子だけの世界に閉じこもらないで、人間として大きくなることが、いいお菓子を作る上で大事だと思う。だから、僕はみんなに「仕事が終わったら早く帰れ」って言っているんです。


福岡は、食文化としてかなり高いものを持っている街だと思います。安くて美味しい庶民の店は日本でもトップクラス。ケーキの素材で言えば、フルーツはビックリするほど多いですね。チョコレートやクリームなど、東京から海を超えてやってくる分、少し値段があがることはあるけれど、手に入らないものは何もない。

この店は、できれば大人の店にしたいです。50代60代の人に美味しいと言ってもらえるととても嬉しい。彼らは食べ込んでいる訳だから。懐かしさと美味しさも違うでしょう、そこで美味しいって言ってもらえるのは、本当に嬉しいことですよね。


取材日2002.11.8


パティスリー フレ
福岡市中央区天神2-8-129
092-712-1550

木村さんの秘密