ぴすとーれ

山下 秀雄 氏

1986年まで、本当に荒れた食生活をしていました。それを、膠原病という形で娘が背おった。それからです、徹底的に食を見直したのは!
自然療法の本を読んでいるうち、いままでの白くてふわふわしたパンは間違っているんじゃないかなあと思うようになったんですね。そんなとき、自然食の店に買い物に行って『ルヴァン』の貼り紙を見たんです。スタッフ募集とあったので、すぐ電話しました。でもなかなか返事がこなくて、もうだめだなあと思っていたら「僕たちと一緒にパンをやいていきましょう」と電話が来たんです。じらされましたよー。
もうそのとき、僕は41才でした。『ルヴァン』のオーナー甲田さんよりも年上でしたからね。歳のせいか、店では仕込みを優先的にやらせてもらったりもしましたし、粉のこと、酵母のこと、時とともにいろいろ分かるようになり、僕にとっては自分を変えるほど、それはもう大きな時間だったんです。

ちょうどその頃、毎週一度、小田原まで畑の手伝いに通っていました。帰りに、その畑で取れる無農薬野菜を買わせていただくんです。大根やらニンジンをバッグいっぱい持ちながらの帰り、不動産屋に寄り道したりしてたんですが、じきに小田原周辺の相場が分かるようになって来て、じゃあ、このあたりで自分でやっちゃおうかと思ったんですね。

場所は秦野。『ルヴァン』での一年ちょっとの経験を活かして、同じように、石臼で挽いた国産の小麦を使って、パンを作りはじめ、売りはじめました。この時作った酵母は今でも続いています。秦野から下北沢に移って、お客さんもかわりました。特に、最近は若い女性が多いですね。二分の一サイズとか、小さいパンなどよく売れます。みなさん、私よりパン屋の情報に詳しいですよ。やれ代官山に新しくできた店が美味しいとかいう新店情報にはじまり、海外の話まで、本当に色んな情報を持って来てくれ、教えてくれます。中には逆に、「こんな商売で成り立つんですか?」なんて質問されちゃうこともあって。確かにね、利益追求、利潤拡大なんてこれっぽっちも思わない。たかがパンと思うんですけどね、作ってみるとやめられないんですねこれが。『ルヴァン』時代に甲田さんが楽しそうにお仕事されて、まわりのみんなが幸せを分けてもらって。あれを見習って行きたいと思っているんです。まわりのみんなに幸せを分けることで、もっと自分が幸せになれる。パン屋という場で、それができたらいいなと思っているんです。

体にいいから食べるんじゃなくて、美味しいから食べる。「うわー、これほんと美味しいじゃない」と思ったら地鶏だった、地卵だった、自然農法で作った醤油だった、天然酵母のパンだった。そんな形が理想だと思うんですよ。美味しいもののおかげで、娘もすっかり元気になって、昨年からオーストラリアに1年間の留学までしているほど。食べものって本当に大事なんですよ。

取材日 2001年5月



ぴすとーれ
東京都世田谷区代沢4-4-2
TEL: 03-3795-8967


山下さんの秘密