レピキュリアン 金子 哲也さん


父親が、料理が好きだったんです。男子厨房に入る、みたいな感じで、色々作ってくれました。それを見ていたから、自然に料理に興味が湧いて、フランス料理を目指して調理師学校に行きました。そこでは色々な料理をやりましたが、就職活動中に巡り合ったのがルコント。ここのケーキが旨かった。それで、もうここしかないと決めました。

本格的なフランス菓子なんて初めてですからね。ムッシュ・ルコントから受けた刺激は大きいです。その後、オーボンヴュータンでは、「フランス菓子という看板を掲げる以上、アメリカ菓子やイタリア菓子をおかず、可能な限りフランス菓子のアイテムを揃える」という姿勢が身につきました。



実はオーボンヴュータンには、「年末に忙しいから」というので、1ヵ月のつもりでバイトとして入ったんです。それが気付けば1年半に。河田さんには技術を教わったという記憶はないですね。もっぱら仕事を見ながらフランス菓子への姿勢を学びました。それを見て、「よし、この道を極めよう」と思った。そして渡仏したんです。

フランスの2つ星レストランでは、「ちょうどシェフパティシエが辞めてしまったところだから、おまえこのポジションで」といわれて、行くなりシェフパティシエに。言葉の壁はありましたが、自分で皿の上にやりたいお菓子を表現し、それを見てもらって気持ちを伝えてスタッフについて来てもらったと思います。2年間勤める間に、ほかの店もちょくちょく見ました。帰国したら自分の店を、と思っていたので、視点もおのずとそうなります。こんな雰囲気いいな、こんな店構えいいな、と味だけでないところも見てましたね。


帰国して店を持つとき、喫茶のコーナーは是非作ろうと思いました。今は休んでいますが、フランスで皿盛りをやっていたから、そういうのが出せたらいいと思ったんです。それから、少しでも広さを出すために、厨房と店の間を壁で完全に仕切らず、大きなガラス窓にしたんです。食べ手にはできたて感と安心感が、作り手には程よい緊張感がと清潔感が出ますよね。壁は、ライムストーンというのを使っていてね、年月とともにいい感じに褪せていくんですよ。この壁を塗るのは凄い技術がいるんです。光りが当たると薄くマーブル模様が見えてとても気に入っています。

食材は、自分で選んでいるから悪いものはないですが、同じ材料を使っても、その材料にとっていいタイミングを知ってあげないと、美味しいお菓子は作れない。逆に言うと、どんなにいい材料を使っても美味しくないお菓子ができることもあるんです。材料を、最高にするようつとめています。 今は冷凍技術が発達したから、何層にもなった複雑なお菓子ができるようになりましたよね。でもね、きちんと焼いた生地に、ちゃんとフォンダンしただけのお菓子って、そういう複雑なお菓子より美味しいと思うんです。
ちゃんとお菓子を仕上げた上で、最後の仕上げが見た目の美しさ、デコレーションですね。僕らには最後だけれど、お客様にとっては最初に目に入ってくるものだから、手を抜けないところなんです。個人的には、立体感があるのが好きですね。

店には6時に出勤しています。基本的には、ずっといますよ。自分の店である以上は、そういうものだと思っています。必ず自分の目の前を通ったお菓子しか出さないです。それに、ちょくちょく店をあけていたら、ほかのスタッフが「これでいいのかなあ」と不安になって、それはお菓子の味に出てくると思うから。だから、やれるところまで職人として働きます。今と同じように働けなくなったら、多分すっぱり辞めると思いますね。

レピキュリアン
武蔵野市吉祥寺南町1-9-5
0422-46-6288

金子さんの秘密