タイユバン・ロブション 
山口 哲也さん 
<経歴>

71年生まれ。大学を出てからこの業界に。恵比寿、祐天寺の『シェ・リュイ』を経て、98年よりタイユバン・ロブションのブーランジュリーに。現在4代目のシェフとして活躍。

   


実はこの店のフランスパン、初めて食べた時から美味しいと思っていました。もちろん、自分がここで働くことなど考えていなかった頃の話。パン、特にフランスパンは大好きだったので、その後もブラインドテストでもするかのように、あっちこっちのを食べ比べていたんですよ。

結論は「タイユバン・ロブションのが一番自分の好み」。粉の甘みがしっかり出ていて、やや皮は厚め。シンプルなのに噛むほど味わい深く、「本当に美味しいよなあ」とちょくちょく食べていたら、あるとき偶然にもスタッフを募集していると知りました。もちろん即応募です。思いが通じたのか、採用が決まり働き始めることができました。



この店は、自分が4代目のシェフにあたります。『シャラント』のご主人の息子さんでもある、竹内さんという方から引き継ぎました。店の真上にあるレストラン、『タイユバン・ロブション』『カフェ・フランセ』で出すパンを作ることを念頭にしていますから、僕の代になったからといって、がらりと商品やルセットが変わることはありません。

レストランのパンを作るというのは、思っていた以上に面白いですね。食事やチーズと一緒に食べたお客さんの感想なんかも伝わってくるし、シェフから「こんなパンが欲しい」と要望を言われることも。例えば、「柔かな風味のクルトンが作りたいからブリオッシュ生地で食パンを作って」と言われたことがあります。それ自体は難しくないけれど、「へー、そういう使い方もあるんだ」と勉強になりますよね。



それから、レストランの厨房には、パン屋にはない食材はおろか、見たこともない食材、それから道具もたくさんある。「これをパンと組み合わせたら面白いだろうな」とひらめくものに出会うこともあります。昨年からちょっと気になっている食材は芽キャベツ。2階の冷蔵庫で見てピンときて、今、商品化に向けてチャレンジ中です。

そんな風に、新商品への取り組みもしている一方、やっぱり基本はフランスパンだと思っています。まずシンプルなフランスパンありき。その一歩先に、同じフランスパンでも素材や製法、形を少し変えたアレンジがある。例えば、"クラシック"。フランス粉を使用することで、それまでのバゲットと味わいを変えた。さらに、両端を細く成形することで、そこだけ食べたときのカリッという歯ざわりも楽しめるようにしたんです。



本当にもう、基本から応用まで、パンへの興味は本当に尽きないですね。 そもそも大学の時、本でパン職人の話を読んだのがこの道へのきっかけなんです。「そういう生き方もあるんだ」と思いながら、家で初めてパンを作ってみた。そうしたら、できなかったんですね。ケーキは比較的に楽に作れていたので、この失敗は自分としてはちょっとした事件。「作れなかった」ことでパンに強くひかれてしまったんです。 そのときの興味が持続できるなんて、パンはなんて奥深いんだろう、と実感しながら、日々より自分の理想に近い、発酵で旨みが引き出されるパンを目指しています。


タイユバン・ロブション
東京都目黒区三田1−13−1恵比寿ガーデンプレイスB1F
03-5424-1345

山口さんの秘密