即興詩人

草柳 正昭 氏


遊び……なんですよ。パンを作るのは。パンで何かを語りかけようなんて大袈裟なものはないです。でも、結果的には1ヵ月に1人でもいいですから、食べてくださった方がね、ラブリーになるっていいますか、こう、疲れがとれるっていいますか、んー、いい人に出くわした感じっていいますか。そういう一口があればね、いいと思います。遊び、っていうのは大変なんですよ。歩くことが好きなんです。テント背負って野宿が基本なんですよ。休みの時には1日25キロ歩きます。下手ですけど絵も書くでしょ、2眼で写真も撮ります。パンを作るのも同じなんです。趣味といったらいいですか。

パンに惹かれたのはイギリスで。粉も大事ですが、パンはやっぱり酵母なんですよね。イギリスで放浪して、果物と野菜と穀物をつぶした酵母、お酒みたいなものですね、これに出会ってです。イギリスの片田舎のおじいさんおばあさんから技術は習いました。パン屋で修業したことはほとんどないです。

酵母は材料を混ぜたら40時間から50時間寝かすんですが、これを粉100に対して目方で45から50入れるんです。僕が知っている、ヨーロッパの田舎のパンはこういうパン。100に対して1%のイーストで膨らんでできちゃうパンは「うそ」だと僕は思うんですよ。なにか、寂しいんですよね。たくさん作ろうとか早く作ろうと思うからケミカルの力を必要とする。人間が自然界の一部だと思うと、あの早い発酵時間は「普通」ではなくて「早い」んですよね。数を作らないでも、僕は果物や野菜から作った酵母でパンを作っていると気持ちが落着く。自分にとっていいもの見つけたなって思っています。本当に、いい生活しているな、と思っております。

理屈抜きで、パンは「うまい」か「まずい」かだと思っているんですが、でも本当はね、日本男児にはあまりパンは食べてほしくないんですよ。絵にならないと思うんです。女性や子供さんは絵になる。絵になるっていうのは大事だと思うんです。絵になるものはジャストフィットしているもの。こう言ってはなんですが、日本にパンがはびこるのは反対なんです。僕自身もご飯食、味噌汁にお豆腐に丸干しです。じゃあなぜパンを焼いているかといわれてしまいますが、これと、パンを焼いている事は別でいいと思うんです。矛盾は感じていません。パンは写真と同じで、僕の作品なんですよ。

自動車の音を聞いた街の中ではパンは焼けません。ここに来たのも、今では少し車も増えてしまいましたが、選んだ当初、田んぼばかりで本当に空気のいいところだったからです。将来は、粉を手でこねて、成形して、機械に頼らずパンを焼いて。ハムなんかも作れたら最高ですね。どちらも、作るのはほんの少しの量でもいいんです。あとはね、とにかく歩くことをしたいんです。

取材日 2000年4月


草柳さんの秘密