シュクレペール

佐藤 吉男 氏

独立して自分の店を持ちたいなとは、ずっと心のどこかで思っていましたが、決意したのは2000年になって。"お菓子屋"をやりたい、言葉を変えれば"お菓子"を売りたいというのが強い思いですから、一応座って食べられる席をオープンエア風に設けたものの、あくまで買ったお菓子を食べるため。カフェではないんです。だからお茶は無料で提供しています。わざわざお店に来てくれた人へのサービスという意味もありますね。

前にいた店『ル・プロッテ』では、お遣い物にお菓子を購入する方が多かったのですが、この店は、もっとデイリーに使ってほしいという思いをこめています。目指すのは"お土産屋"でもないんですね。商店街のお惣菜やさんの感覚です。お菓子が日常にあって当たり前という生活の、お手伝いをしたいんです。
そのために、まず価格は抑え目にしてあります。そして、生菓子だけでなく、焼き菓子、ヴィエノワズリをはじめとするパンなど、商品数を多くしています。店に来て自分で食べるお菓子を選ぶとき、たくさんの種類があったほうが断然楽しいでしょう? 少なくとも僕が買う立場だったら種類が多いほうが楽しい。だから、できる限り商品数は多くしようと試みているんです。「ここにくれば何でもある」という店を目指しているんですよ。

味の構成もいままでと少し変わりました。住宅地ですから、子供からお年寄りまで、食べる人の年齢の幅も広いんです。だから、食べやすい味を目指しています。具体的にいうと、お酒を使うケーキを減らしたり、使っても量を減らしました。量を減らすと、同じお菓子でもおのずとほかの材料の配合が変わってくるんですよ。結果として、以前よりやや甘さも控えめで、大人の味ではなく、全体的に軽め丸くでなじみやすい味になっていると思います。でも素材自体は、自分の店を持ったからといって、過去使っていたものとそれほど変わりはありません。

値段、種類、味といろいろ変わりましたが、結局一番変わったのは、味に対する判断基準だと思うんです。今までは、自分が一番の基準でした。自分がいいと思ったものを作り、お客さんには「どうぞ食べてみてください」という感じ。でも今は、自分をはじめとする製造側の基準だけではなく、食べ手側の意見を尊重することが多いです。今までは妻に「この味、どう?」なんて聞くことはまずなかったんですが、最近はよく聞いていますね。一番身近にいる食べ手ですから。
判断基準が変わってから、お客さんと製造側が近くなった、というのをとても感じます。デイリーに店のお菓子を食べて頂くには、これってとても大事なことですよね。

スタッフは今、自分以外の2人は女性です。販売も女性で、彼女たちに言わせると自分は両手に花のとても恵まれた立場だそうですよ! でも、僕は製造スタッフが男性であっても女性であってもまったく同じに扱いますね。今って、10キロも20キロもある重い物を持つこともありませんから、体力的に男性でないとだめだという仕事はないんです。ただ、趣味の延長で働きたいと言ってくる人はお断りし、職業として末永くこの仕事をやりたいという人の中から、自分に近い感覚を持った人を採用しています。

この感覚がある程度の期間一緒に働くことでもっと近くなった時、安心して店を任せられるなと思っているんです。そうなったら、自宅の近くにもう一軒だけ、店を出したいですね。理由は、子供といる時間をもう少し増やしたから。今は、家にいて子供と遊ぼうとしても、「お父さん、疲れているでしょ」なんて、かえって子供に気を遣わせてしまうことがあるんです。さすがにこれはいけないなって思っているんです。

取材日 2001年11月

















シュクレペール
世田谷区玉川3-21-5
03-3708-8580


佐藤さんの秘密