T.Yokogawa 

蒲池 昭寛 氏

僕は『フランシーズ』のときから、横川シェフの下で働いています。お菓子作りって面白いですよね。だって、同じものを作るのに、配合には大差ないことが多いじゃないですか。だのに、この店と全く同じ配合で作られたものでも、出来上がるとここで売っているものと味が違う。空気の抱き込ませ方とか、温度とか、大切だなあとつくづく思います。

『フランシーズ』のときから比べ、素材はかなりかわりましたね。粉やバターなど同じでも、例えばマロンペースト、フルーツの仕入先…。同じ顔をしていても、以前そのままの素材を使っているケーキは一つとしてないといっていいほどです。
店の素材でちょっと面白いねって言われるのが、有塩バターを使っていること。タルトの生地などに使用しているんですけど「無塩バターに塩いれればいいじゃん」と言われたりします。でもね、実際出来上がったものを食べてみると、有塩独特の旨みってあるんですよ。そんなのお客さんには分からないって言われるかもしれないけれど、たとえ自己満足でも、こっちのほうが美味しい、というものを発見してしまうと、妥協できないですよね。

仕込みの仕方が変わったものもあります。この店をオープンしてしばらくした頃、あまりの忙がしさに、いつもは4,5日分まとめて作って冷凍していたムースがあるんですけど、冷凍する暇もなく、次の日の分しか仕込めないという事態が起きました。次の日の分だけですから、冷凍せず、冷蔵しました。翌日、仕上げて食べたら、これが美味しいの!「何もわざわざ不味いことすることないやんか。美味しかったんやから、毎日仕込もうや」ってシェフが。それからずっと、一日分だけを仕込んでいます。そうそう、忙しかったといえばね、クリスマス前は、本当に寝る間もありませんでした。作業していても、気づくと、天板の上ではないところで絞り出し袋から生地を絞っていたなんていうトラブルも。「おーい」って言われてふと我に返りましたね。今はそのころから数名製造スタッフが増えたので、大分楽になりました。

ここの店は、地元の方を中心に、車で少し離れたところからも来ていただけています。"のぞみ野"っていう場所なんですけどね、ごみごみしていない、きれいなところでしょう。通りを挟んでとなりにお洒落なレストランがあります。そしてこの店があって。近い将来、他にもこの通りに、美味しい飲食店が集ったら面白いねってシェフが言うんです。ここに来れば美味しいものが食べられて、楽しい時間が過ごせるのぞみ野グルメタウンみたいなのです。面白いと思いませんか。

店にはちょっとした庭があって、子供が楽しめる木馬とか置いているんです。実は手入れも大変で、この庭がなかったら駐車スペースがぐっと広がるし、月々庭師を雇うお金で若い子2人くらい働いてもらえる。けれど、ディズニーランドにまた来たくなる感覚で「またあのお店に行きたい」って子供たちにも思って頂けるといいなあと思って。だからこの空間は絶対つぶしませんし、この通り全体が、また来たくなるような場所になるといい、そんなふうに思っています。

取材日 2001年9月












T.Yokogawa
大阪府和泉市のぞみ野1-12-34
TEL: 0725-50-5580


蒲池さんの秘密