ル・パティシエ・タカギ

高木 康政 氏

店を持って一番よかった、嬉しいと感じるのは、お客様の声がじかに聞こえ、反応が伝わるとき。例えば、絶対に美味しいと自信を持って出した新しいケーキ。でも見た目が地味だからあまり売れないだろうな、と思っているものが、確かに最初は売れ残るのだけど、一度買った人が美味しいと思うと口コミで広がり、日に日に売れていく。もう、「やった!!」ってスキップしたくなりますよ。

自分がパリにいた頃、店にケーキを頼みに来るお客様は「チョコレートはちょっと苦めでよろしくね」とか「ケーキの上に飴細工をのせてね」などと、よく僕らに注文をつけていたものですが、それを思い出させるようなやりとりも、今、この店ではあるんです。「こういうケーキはないの?是非作って」というリクエストもあれば、「え?あのケーキは夏しかないの?残念!」なんていう言葉、「この間のあれは美味しかった、今度お友達にも持っていくからいくつお願い」っていう嬉しい注文などもあります。お店をはじめてまだ数ヶ月ですが、「タルトはなぜないの?」という言葉にタルトも作り始めましたし、「焼き菓子が少ない」というご意見に応え、頑張ってその種類を増やしたりもしました。今までいたところは厨房からお客様の顔が見えなかったので、今こうして、対面販売の良さを実感しています。住宅地は都心の繁華街と違い、通りがかりで店に入る人はほとんどいません。土地に住んでいる人が買いに来ます。ですから、おのずとリピーターが増えますよね。

 さて、新しい店にして素材も新しく切り替えたかと聞かれますが、バターやクリーム、砂糖など、以前働いていたところで使っていたものと基本的には変えていません。でも、以前は会社のシステム上できなかった農家直送ができるようになりました。これは大きいですね。僕が食べて本当に美味しいと思ったフルーツなど、大量にではないけど直接送って頂くことができる。フランスのお菓子屋さんも、季節のフルーツをたっぷり使いますが、それと同様に季節限定の楽しいケーキが実現しています。

 店の厨房は決して大きくはありませんが、大量に作らなければならなかったときにはどうしてもできなかったひと手間かけた仕込みができるのも嬉しいことです。オープンしてから人も追加しました。今、2番手は女の子なんですよ。頑張っているし、日に日に良くなっているのがわかります。女性のパティシエがどんどん増えています。採用しないんじゃなくて、彼女達が職人として伸びていくような道を作ってあげることも僕らの役目かなあと思うんです。若い人に言いたいのは、何事も大切なのは基本だということ。基本をしっかりやっていれば、6、7年も経ったときしっかりした自分の主張が出てきます。そして、10年先に自分はどうしていたいのか、逆算すると今は何をすべきかをしっかり考えながら、素直に聞く耳と目的意識をもって仕事をしてほしいですね。店もまだまだオープンしたてですが、若い力には期待しているんですよ。

取材日 2000年11月


高木さんの秘密