杉 良和 氏

今でこそ、お菓子を作っている期間のほうが大分長くなりましたが、その前、12年間はフランス料理のコックだったんですよ。ある時パーティーで偉い方に「杉、将来は何になりたいんだ?」って聞かれたんです。僕は「グランシェフです」って答えた。そうしたら「これからの時代、グランシェフは料理だけじゃなく、パンからケーキまで作れなくちゃだめだぞ」と言われ、デザートなども手伝うようになったんです。

最初は「入って来るな」「邪魔だ邪魔だ」とあしらわれたけれど、だんだん粉に卵に触らせてもらえるようになったんですね。そうしたら、やればやるほど面白くなってしまって。パティシエって、シェフよりも地位が下に見られていたんだけど、それを向上させたいなと思い、コンクールの入賞など目指すようになりました。同じコンテストの場で一緒になるメンバーって、何十年も一緒にお菓子を作ってきた同志みたいな気がするんですよ。そこで色々な方と親しくなったこと、そして、料理と違って生き物を殺したり、血を見たりしなくていいところも自分の気分的にはとても楽で、いつしかこちらの道に入り込んでいました。

ホテルシェレナで製菓長をやらせてもらっていた時代は、料理をやっていた経験を活かして、「今日の宴会メニューはこんな感じだ、だからデザートは何にするか」という、全体の流れの中でデザートを考える、ということを下の人たちに教えてきました。これはホテルという場において、とても大切なことだと思うんです。どうしても、特にデザート部門は、会場に運んだら終わり、みたいなところがあるでしょう。お客さんが美味しいと思っているか、口に合わない人が多くて残しているのか、それさえ分からない。"出したら終わり"というのは押し付けだなあと思うから、なるべく、その場にいて下げてくるお皿までチェックするようにはしていました。

今の店はテイクアウトだけでなく喫茶スペースが広いから、お客さんの反応が見られていいですよね。ケーキは、"視覚で理解できるもの"を意識して作っています。食べてみないと中がどうなっているか分からないケーキって多いでしょう? そうじゃなくて、断面を見ればどんなケーキか一目瞭然というのを目指しているんです。店内でお召し上がり頂くときは、大きなお皿に入れて、ソースを添えたり、フルーツを添えたりして、お客様になるべくリッチな気分になってもらうようにしています。

ケーキはね、23種類以上あるかな。それを作るために、17種類以上のビスキュイを作っているんですよ。それぞれのケーキの出来上がりイメージを考えると、同じ生地なんかじゃ作れません。それから、ただただ配合通り生地を混ぜればいいかというと、それも違う。自分のイメージする固さ、きめこまかさなど意識しながら混ぜていかなくちゃいけないと思うんです。絶対味が違ってくる。これを若い人にも分かって欲しいな。それから、うちにはプリンとシュークリームはないんですよ。よく「2年修業したのにシューしか焼かせてもらっていない」とかいう話あるじゃないですか。それって、僕は無駄だと思う。プリンやシュークリームはいつでもできるから、若い人がそれだけに追われることはさせたくないですね。もっと、色んなケーキを作って職人として覚えていって欲しいことがあるんです。

仕事を続けているうちに壁にぶち当たることもあります。でも、妥協点を下げちゃいけない。自分自身に勝っていかないと乗り越えられないと思う。ライバルは他人じゃなくて自分自身だということを分かって、若い人にも頑張って欲しいです。

取材日 2001年9月
















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杉さんの秘密