ウッドペッカー

後藤 雄一
大学を卒業した後、印刷会社に就職。その後、パン屋で2年働き、1978年にこの場所に「ウッドペッカー」をオープン。


 学生時代にね、アメリカに遊びに行ったんですよ。あっちはハンバーガーがいっぱいありますよね。お金がなくて1ヵ月、ハンバーガーばかり食べ歩きながら、コイツは儲かるな、ハンバーガーっていう商売は、と思った。帰国したらマクドナルドの1号店が銀座にできて。やられたなって思いましたよ。それで一応、卒業した後、印刷屋に就職したんだけれど、「サンドイッチ屋がやりたい」と一度思ったことが忘れられなくて、会社を辞めてパン屋で修業を始めたんだよね。

 店を自分で始めたころはさ、焼き立てなら何でも売れたんだよね。マーガリンが入っていようが、何であろうが。しばらくした頃、小麦をひく石臼を売っている会社を知り、同じパンをやるなら小麦も自分でひいてやろう、と、そんなことも始めたんだよね。粉をひくということは酵母のパンを作るということ。できたパンに市販のハムを挟んでみたら、まずいんだわ、これが。いくら高級ハムでも、自分のパンに挟むとパンが勝ってしまう。美味しいサンドイッチがやりたかったからわけだからね、それならと、肉を買って来て塩を擦り込んで薫製にして、自家製ハムを作り始めたんだよね。これは美味しいですよ、ぶよぶよしたハムじゃないので、ぎゅっと締まったうちのパンにも合う。

 パンに使う、干しブドウから起こしている自家製酵母だけど、これは何も大変なことはありませんよ。酵母に対する苦労はないです。最初に起こしたらつなげるだけですから。酵母の発酵はね、時間はかかるけど、ほっとけばいいんだから。僕は製パン学校にも行ったことないので、誰に酵母のことを習ったわけでもない。パン作りの多くは見よう見まねです。あとは自分で食べること。パンの勉強は一切していないけど、でも、酒の勉強はしました。徹底的に本を読み漁って、こうじや酵母の勉強したよね。酒のことが分かってしまうと、パンの酵母なんて、すぐに分かります。原理は一緒だからね。
 僕のパン作りの持論は「酵母菌と人間を同じにする。酵母菌に自分がなりきればパンは簡単にできる」です。一度酵母菌になってしまえばパンは簡単に作れます。うちではイーストのパンも作っていますが、酵母のパンは絶対イーストのパンより簡単です。そして酵母がベストなわけではないですよね。使う粉によるわけだから。

 今は週2回くらい粉をひいています。皮のついたそのままで。粉は群馬や茨城のもの。材料にははっきり言って凝っていません。自分がやれる範囲のもの。自分が食べて自分が美味しいと思ったもの。塩はね、もうちょっと勉強しなくちゃいけないかなと思ってるんですけどね、僕は旅行が好きで、モーリシャスやスリランカで塩田を見たんですよ。ほんとに良く出来てるよね。あれを見たりなめたりすると、国産の塩とモーリシャスなんかの塩があって選べたら、後者を使いたいなと思っちゃうよね。
 パンの中に入れるクリーム、カレーはもちろんのこと、あんこも自分のところで炊いています。こういう小さいパン屋の良さと悪さですけど、そういうことやっていくと、結局最後には儲からなくなっていくんですよね。だからいかにストレスを溜めずに楽しくやれるか。そこにつきると思っています。

取材日 1999年


後藤さんの秘密