2006.1.28


山々に囲まれたブドウ畑が広がる、緑豊かなジュラ地方アルボワ。その地で1900年から続く老舗パティスリー「イルサンジェー」の4代目を守っているのがエドワール・イルサンジェー氏です。
実は1996年にイルサンジェー氏がショコラでM.O.Fを取得するまでの間、「イルサンジェー」ではパティスリーに力を入れてきたそうですが、イルサンジェー氏のショコラへの情熱から、今では普通のパティスリー類よりもショコラの方が充実しているのだとか。
そして、ショコラと同じようにイルサンジェー氏が大切にしているのがアルボワの町。「この村の人たちのために作りたい」との思いから、いっさい支店はありません。このサロン・ド・ショコラで私たち日本人が彼のショコラを楽しむことができるのはとても幸運なことなのです!
今回のセミナーでは、本店に足を運ぶのが難しい私たちのために、美しい田園風景の広がるアルボワの様子を紹介してくれました。


会場前の画面に映し出されたのは、まるで絵葉書かと思うような美しい景色。
豊かな緑、町を流れるキュベ川、鮮やかな赤茶色の屋根がその緑に映え、映画のワンシーンのよう。この地方特有の石灰岩質の岩肌が見える力強い山々も見事です。





「ジュラ地方は、南にローヌ、西にブルゴーニュ、北にはアルザス、そして東にはスイスという場所に位置し、ワインの産地としても有名なんですよ。この地方では、1,000〜1,500年くらい前からワインを造っています」

と誇らしげな表情を見せるイルサンジェー氏。 ワイン用のブドウの収穫時期にあわせて、9月の第一日曜日に行われる伝統的な行事の写真など、普段は見ることのできない貴重な映像が次々と紹介されていきます。

「ワインにはこの後の天候が非常に重要。雨が降ると、酢のようなワインになってしまうんです。“これからの収穫が上手くいきますように”という願いを込めて、ワイン生産者の代表4人が、ブドウ畑からブドウで作られた大きな飾りを担いで教会まで練り歩きます」





フラワーアレンジのようにブドウを組み合わせ、花をあしらった大きな飾り。それを力のありそうな男性4人が担いで歩く様子は、日本のお神輿にも通じるものを感じました。






吸い込まれるように美しい写真に見入っているうちに、お待ちかねの試食タイム。
ワインの地に生まれ育ち、ご自身でも大好きなことから、お酒とショコラの組み合わせにはこだわりの強いイルサンジェー氏。ワインの醸造過程でマール酒を加えて発酵を止め、ブドウそのものの香りと甘みを活かしたデザートワイン「マグヴァンドジュラ」と、緑胡椒のガナッシュのテイスティングです。

「ガナッシュは、グリーンペッパーと生クリームを煮立て、15分間ほどおいて味を抽出しています。そして、ミルクチョコレートの持つキャラメルのような風味を合わせました。生クリームは、絞りたてのものを毎日買いにいきます」





ジュラ地方のもうひとつの名産が、強いコクと旨みを持つハードタイプのチーズ「コンテ」。そのことからも、ミルクの質の高さが伺えます。アルボワでは、牧場から搾乳した牛乳はまず1箇所に集められ、そこからチーズ屋やパティスリーに分配されるのだそう。クリスマスなどショコラをたくさん作る時期には、イルサンジェー氏がたくさん生クリームを使うので、その分チーズを作る割合が減ってしまうのだとか。
「イルサンジェー」のガナッシュが持つ、ミルキーなコクと口どけの軽さはやはり生クリームのおいしさだったのだ、と思わず納得です。

試食した緑胡椒のガナッシュは、フレッシュなミルクの味わいがやさしく、キャラメルのようなミルクチョコレートの甘みの後に、フワッと緑胡椒が香ります。全体的には食べやすいソフトな味わいなのに、メリハリがしっかりと効いているのはさすがです。一方のマグヴァンドジュラは、干したブドウのようなコクのある甘みが何とも優雅な味わい。胡椒の香りがまだ残っているうちに、マグヴァンドジュラを一口いただくと、ブドウのフルーティで濃厚な甘みがプラスされ、まさに至福のひと時。フルーツの甘みにキレが生まれ、かつキャラメルの風味を高めてくれるのです。もう一口・・・と交互に楽しむうち、あっという間になくなってしまいました。





ちなみに、マグヴァンドジュラと共に「イルサンジェー」のブース内で販売されていたヴァンジョーヌは、白・赤に並ぶ黄ワインとして、フランスで5本の指に入ると言われるワイン。日本ではあまり見かけませんが、色の違いはもちろん、風味や瓶の形も、普通のワインとは少し異なっています。そして一番の違いは、発酵方法。なんと6年3ヶ月の間、樽で熟成させるのだそうです。通常、ワインは熟成中に空気に触れるとお酢のように酸味が強くなってしまうので、樽の中で自然蒸発した分を継ぎ足していくのですが、ヴァンジョーヌの場合は目減りしてもそのまま。ワインに含まれる酵母が表面を多い、酸化を防いでいるのだそう。そのため、普通の白や赤とは異なる、熟成した旨みが強いようです。





「ヴァンジョーヌにはカレーと胡桃に似た香りの成分があるので、現在カレースパイスを使ったガナッシュを考案中です」

と意欲を見せるイルサンジェー氏。来年は、きっと完成したマリアージュを披露してくれることでしょう。



セミナーが終了する頃には、ショコラ、アルボワの町の美しさ、そしてイルサンジェー氏の飾らない人柄の魅力に引き込まれてしまった私たち。 いつかアルボワの町を訪れてみたい、そして、本当の「イルサンジェー」を訪れてみたい・・・、そんな気持ちにさせてくれる心温まるセミナーとなりました。


※昨年のインタビューの様子はこちらから
http://www.panaderia.co.jp/members2/craftsman/ar_hirsinger/index.html