Text by Chiemi Sasaki  


みなさんは昨年どんなクリスマスケーキを召し上がりましたか? 一般にはご家族でイヴのデザートとして楽しむことの多いクリスマスケーキですが、今やケーキの販売期間も長くなり、お友達同士のパーティーで、数回に渡り複数の種類を食べる機会も増えてきましたよね。普段は一人用をあれこれ食べていても、クリスマスは大きなケーキをみんなと分かち合いたい。語り合いたい。それもいろんなお店のケーキを食べて! 愛好家の誰もが願うこの夢を、クリスマス当日にパナデリア主催で開催しました。間際の告知にも関わらず、すぐに席が埋まってしまい、キャンセル待ちも出たほどで心苦しく…みなさんの熱意にびっくりしたパナデリアでした。

お借りした会場はお江戸日本橋。メイン通りに面したビルの最上階。天井の高い壁にアートが描かれ素敵な空間。企業の会議室でもあるスペースにテーブルにふんわりクロスをかけ、お花やリースを飾り、クリスマスの演出も怠りません。ここに生ケーキ12店12種、アントルメグラッセ1種、そして焼き菓子12店16種類が運ばれました。




会議室のテーブルが、クロスとグリーンでクリスマス会らしく変身。

生ケーキのセレクトとして、まずあがったのが2015年オープンの御三家〜「アヴランシュ・ゲネー」、「パティスリー ヨシノリ アサミ」、「Ryoura」。そして、パナデリアの恒例イベント「香りの会」で素晴らしいデザートを披露してくれる「ハイアット・リージェンシー東京」。何かと話題にのぼる「アテスウェイ」、「パリセヴェイユ」、「アステリスク」、「レザネフォール」。リキュール使いが絶妙な「ラ・スプランドゥール」。実力派若手女性シェフのお店「アディクト オ シュクル」。そして日本の洋菓子の原点ともいえる「コロンバン」です。中には、シェフ自ら選んでくださったクリスマスケーキもあり、期待に胸が膨らみます。


Ryouraの「アノー・ド・ノエル」は、マスカルポーネにメイプル、コンフィチュール・ド・ノエルを思わせるスパイス風味のフルーツ、パッションフルーツの酸味を合わせたシックなリース型ムース。小さくても濃厚。

アヴランシュ・ゲネーの「ジルベール」はあんずのコンポートとコーヒークリーーム、ドゥルセ・デ・レッチェのような風味のホワイトチョコレート'ドゥルセ'のムースでキャラメルビター感と甘酸っぱさ、ナッツや生地のサクサク食感といった多角的なバランスが大人っぽい。

ハイアット・リージェンシー東京の「ブッシュロン」。高さ18cmもある切り株ケーキは、どうやってカットするかでも盛り上がった。エクアドル産チョコレートを主体としたナッツ系レイヤーケーキは思いのほか後味すっきり。土台のチョコレートの中まで凝った作りにびっくり。

トップのマカロンとシュトロイゼル、パールクラッカンがにぎやかな模様になったラ・スプランドゥールの「ショコラ不知火」。日本の柑橘、不知火(しらぬい:関東にはデコポンで流通していることが多い)をチョコレートに合わせた王道。隠し味のリキュールで切れの良い味に。


ピックアップ担当で早めに到着した参加者達は早速写真撮影。箱を開けては歓声があがります。今さらですが日本のクリスマスケーキの美しいことったら! どのケーキも、シェフの個性がわき出た色彩、形、飾りつけは見ているだけでわくわく。リースやビュッシュ・ド・ノエルのスタイルも言われなければ気づかないほどデフォルメされています。それを想像するのもまた楽しい。パリセヴェイユのブッシュ・ミストラル、アンシンメトリーに傾斜をかけたブッシュのトップを飾るブラックベリーとギモーヴはキノコのイメージなのでしょうか?

アステリスクの「クーロンヌ ドゥ ノエル ヴェール」は、ピスターチムースにフランボワーズのジュレ。緑と赤のクリスマスカラーの組み合わせで、リース仕立てに。

レザネフォールもクリスマスカラーの「ピスタッシュ グリオット」。ピスターチが香ばしく、甘酸っぱいグリオットがチョコレートとの相性をつないでいる。

アディクト オ シュクルの「ビュッシュ ショコラユズ」は、ムースショコラにヴァニラ風味の柚子クリームの大人味に柚子キャラメルの甘さとマスコバド糖のシュトロイゼルの触感がリズミカル。

パリセヴェイユの「ブッシュ ミストラル」。ラヴェンダーの香りがカシスの香りと調和し、時間差で鼻からふわっと抜けていく心地よさ。

苺ミルク色がキュートなアテスウエイの「ビュッシュ フレーズ アールグレイ」。ドットのディスクチョコレートはキノコの傘に見立てたのでしょうか? アールグレークリームの香りが全体を甘すぎない後味にしている。


王道の苺ショートが欠かせないのはもちろん、チョコレート系、ナッツのムース系が多いのも寒い季節の行事ならではですね。その中で異彩を放っていたのが2つ。ヨシノリ アサミのくりのタルトとコロンバンのクラッシックバターノエルです。タルトをクリスマスケーキにするなんて珍しい。でも栗はヨーロッパではクリスマスの定番。秋に採れた栗をマロングラッセで頂いたり、お肉のローストに添えて楽しみます。フランス生活が長い浅見シェフにとって、きっとノエル=栗なのでしょうね。一方クラシックバターノエルはコロンバンで50年以上続くロングセラー。煙突ハウスやサンタの飾り菓子、ドレンチェリー、星型絞りのデコレーションまで昭和のまま。その世代の方達からは「懐かしい」の声が何度も聞こえました。


ヨシノリ アサミの「くりのタルト」。メイプルのシュトロイゼルと和栗のやさしい甘さが親しみやすいタルト。モンブラン絞りが樅ノ木をイメージさせる。

コロンバンの「クラッシックバターノエル」。ラム酒がふわっと香るオリジナルのバタークリームがコクのあるジェノワーズ生地と一体化。滑らかな口溶けとともに、50年以上愛され続けたエッセンスが詰まっている。

コロンバンの「フレーズノエル」は、しっかりしたジェノワーズとコクのある生クリームと苺。昔ながらの甘さとコクとフルーツの甘酸っぱさのハーモニー。苺とクリームで描いたツリーが目に新鮮。


焼き菓子は日持ちすることもあり、生ケーキでは実現不可能なお取り寄せが中心。北海道の「カフェ・セリーナ」や岐阜の「トランブルー」、京都の「オ・グルニエ・ドール」からはシュトレンやパンデピスが届きました。さらに今回はフランスからたくさんのクリスマス菓子が到着。なんとフランス在住で元パナデリアスタッフIさんが帰国の際、ハンドキャリーで届けてくれたのです。そのラインナップといったらパリのみならず、アルザスやプロヴァンス、ブルゴーニュの名店ものまで豊富。日本のみならずフランス各地のクリスマス菓子まで堪能できるなんて夢のよう。Iさんには大感謝です!

「カフェ・セリーナ」は、惜しまれつつ閉店した札幌の「アンシャンテ」の竹内シェフが、現在腕を振るっています。久しぶりに竹内シェフのシュトレンを堪能しました。

パリから届いたピエール・エルメの「パネトーネ(マロン)」。クリスマスにはつきもののマロングラッセを生地に混ぜ込んで焼いたパネトーネは、噛むほどに芳醇な香りが広がる。そして、もうひとつ、エルメの「パンデピス(ユズ)」。型崩れもなく日本まで持って帰ってくれたIさんに、改めて感謝!

焼き菓子はカットしてテーブルに並べてビュッフェスタイルに。日本のシュトレンの他、アルザスのギルグのラングホッフやテュエリーミュロップのクグロフやシュトレン、ブレデレ、ピエール・エルメのパンデピスなどの焼き菓子からは、フルーツやナッツ、スパイスの香りが漂う。シュトレンを見た感じでは、日本のものは具の種類や風味づけで個性を競い、フランスものはシンプルで生地感をメインにした印象。

ギルグのアドヴェントカレンダーは、どの窓にもお菓子が入っていて、24日のところには、かわいいクマのぬいぐるみが! クリスマスには関係ないけど、ジャックジュナンのパートドフリュイやキャラメルまで並びました。


会がはじまると、手分けして人数分を素早くカット、お皿にのせていきます。一度に食べられる分、テーブルにのる分を考えて4種類ずつを、みなさんで一緒にいただくという流れ。スパークリングワインで乾杯すると、6人掛けの各テーブルからは、あれこれ会話が飛び交います。カットして中身が見えたところにまたまた見入ったり、「美味しい!」という声とともに「これ何の香り?」と探ってみたり、「この食感は何?」など、愛好家ならではの探求心に余念がありません。

生ケーキはだいたい4種類ずつカットして。

途中、箸休め的に出たのは、パナデリア作の野菜のムース2種。


楽しい時間というのはどうしてこうもあっとう間なのでしょうか? 太陽がさんさんと降り注いでいた会場も、気が付けば外は真っ暗。食べきれなかったお菓子は任意でお持ち帰りしていただき、クリスマスケーキ会は終了です。

一年で最も日本人がケーキを食べる日〜クリスマスはお菓子屋さんにとっても一年の集大成。大きなケーキを囲んで皆で分け合うのは、ある意味‘鍋料理’に通じます。これぞフランス人も好きなpartage:パルタジェ(分かち合い):する喜び! 2016年もみなさんとの楽しい分かち合いができますように。どうぞよろしくお願いします。



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