講習会というと、メインはやっぱり“学ぶこと”ですよね。
でも、パナデリア講習会の場合、醍醐味は“味わい”そして“学ぶ”こと。
というのも、プロの菓子職人が、目の前で作り上げる様子を、見て実感し、そして味わうおいしさは格別だから!例えば、卵ひとつにも、シェフの情熱が詰まっているのを知ることで、心までとろけるようなおいしさになってしまうのです。
という訳で、今回は、お菓子好きの永遠の憧れ、「リリエンベルグ」横溝春雄シェフを迎えての講習会を開催しました。募集と同時に応募が殺到し、瞬く間に定員に達してしまった本講習会。どんな様子だったか、さっそくご覧下さい!




今回教えていただくのは、「リリエンベルグ」の秋を代表する、あの“モンブラン”です。さらに、人気のロールケーキやトロッとしたキャラメルをサンドしたクッキー・・・と、まさにファン垂涎の内容。その期待感の高さを表すように、会場となる日本製粉株式会社東部技術センターには、早々と参加者たちが集まってきました。

「リリエンベルグ」横溝春雄シェフ


ところで、今回の講習会は少し主旨が異なります。
皆さんは、「ユニバーサル ベーキング カップ」という名前をご存知ですか?
これは、障害を持つ方が参加するパン・お菓子のコンテストで、横溝春雄シェフをはじめ、「ルヴァン」甲田幹夫シェフや「ラ・テール」中村逸平シェフ、そして、パナデリア主宰の三宅も審査員を務めさせていただいているのです。そんな縁から開催が決まった今回のチャリティ講習会。横溝シェフをはじめ、会場の提供や材料などをご協力いただいた日本製粉株式会社さん、材料を提供していただいた中沢乳業さん、そして、参加してくださった皆さん・・・。本当にどうもありがとうございました。

会場の日本製粉株式会社東部技術センター


「では、モンブランから始めます。ラム酒やヴァニラで風味付けしたものもありますが、「リリエンベルグ」のは栗そのもののモンブランなんですよ」
食べたことのある方はもちろんご存知だと思いますが、まさにそれこそが「リリエンベルグ」のモンブランの魅力。でも、栗そのものだけに、栗自体のもつ味や風味が重要になってきますよね。

「シーズンの最初は丹沢の栗を使いますが、今の時期は利平栗を使います。栗は11月に入ると、風味が劣化するのでおいしいのはごく短い間。また、貯蔵するとデンプンが糖分に変質してしまうので一切していません。本当にこの時期だけのケーキなんですよ」
栗といっても、ピュレや缶詰など様々な加工品もありますが、横溝さんが使うのは旬の生栗のみ。
「これは、今朝、熊本から飛行機で届いた栗です。風味が命の栗は、収穫後すぐに処理するのが一番。現地で皮をむき、その後、水に浸した状態で「リリエンベルグ」に運ばれます。皮をむくのは大変な作業なので機械でやるところも多いですが、やはり人間の手とは全然違うんですよ」
丁寧に渋皮を取り除いた大粒の栗は、白くて美しい肌質です。
「実は、うちのモンブランを見て、“何かを入れてあの色になっているんだ”と考える人がいるようなんです。でもこれは、本当に何もしない、栗そのものの色なんですよ。今日、それが良くわかると思います」

“モンブラン”を販売する2ヶ月間で使用する量は、なんと5トン!


では、さっそく栗のペースト作りから。登場したのは、圧力鍋です。
「栗を炊くのは、圧力鍋が一番いいんです。普通の鍋でコトコトと炊くと、色が変色してしまいますが、これなら大丈夫」

水、グラニュー糖を入れてよく混ぜ、栗を加えて加熱します


なるほど。美しい色の秘密は、鍋にもあったんですね。しかも、通常は栗がやわらかくなってから砂糖をいれますが、圧力鍋の場合は最初から入れて大丈夫なのだそう。栗にもよりますが、今回は約10分圧力をかけました。これなら、簡単に栗のシロップ煮が作れそうです。

沸騰したら灰汁を取り、圧力がかかって
から約10分で出来上がります



続いては、土台になるダックワーズ生地作り。しっかりと泡立てたメレンゲと、アーモンドパウダーと粉糖をあわせたものをサックリと混ぜ合わせ、円形に絞っていきます。
「絞ったら、茶漉しで粉糖をたっぷり振りかけてください。こうすることで、表面に膜ができます」

材料は、卵白、グラニュー糖、アーモンドパウダー、
粉糖のみ。これも、意外なほどシンプルです



生地をオーブンに入れたら、次は生成ロールです。
「今回は、小麦粉の半量を日本製粉の“プリード”という米粉に置き換えて作ります。特徴は、生地の食感がモチッとすること。使い方は小麦粉とまったく同じと考えて大丈夫ですよ」




「お店で使っている卵は2種類あります。ひとつは近くの黒川という所にある生産者の方から取っているもの。前日産んだ新鮮なものなので、黄味が本当に丈夫なんですよ。その分泡立てにくいけれど、伸びがある。これは、ザッハやバターカステラなどに使っています。そして、もうひとつは、岩手のウィンファームのもの。これも、前日産みを翌日届けてくれるのですが、箱の中まで無菌にした状態で届けられるため、殺菌が不要なほど安全性が高い。これは、主にカスタードに使っています」

味はもちろん、鮮度、安全性も卵選びのポイント


生地は、メレンゲを使った別立式。生クリームやハチミツ、バニラなども入ったリッチな配合です。
「粉を入れてからの合わせは必ず数を揃えること。自分に合った回数を決めておけば、同じ状態の生地が作れます」

きめ細かく、ツヤのある生地が出来上がりました


焼き上がった生地には、クレームパティシエールと生クリームを2層に重ね、ロールにします。

コクのあるパティシエールは薄め。その上に生クリームをたっぷりとナッペし、きっちりと巻き込みます




続いては、キャラメルクッキー。サクサクのクッキー生地にやわらかいキャラメルクリームをサンドした、「リリエンベルグ」でも大人気のアイテムです。
「クッキー生地には、バターのほかに、少量のショートニングを入れています。こうすることで、サクサクの食感になるんですよ」
ショートニングの語源は、サックリの意味を示す“Short”から。バターだけでは出せない、軽いサクサク感が生まれます。
「それから、砂糖はグラニュー糖を使います。グラニュー糖のように砂糖の粒子が大きいものだと生地の中に残り、逆に、粉糖だと少量の水分で馴染む。そのため、食感はかなり変わってきます」
ふむふむ。同じ砂糖でも、使い分けが必要なんですね。
「また、塩の場合は粒子が溶けずに残ってしまう可能性があるので、水分が入らないブールドネージュのような生地の場合は“雪塩(パウダー状の塩)”を使っているんですよ」
砂糖と違い、ごく微量しか入れない塩の場合、溶け残りが味のムラにもつながることもあるのだとか。そのため、「リリエンベルグ」では、卵などの水分に溶かしてから使うようにしているそうです。

ゴムベラを使ってサックリと混ぜ合わせます。ポイントは、混ぜきらず、モロモロとした状態で止めること。冷蔵庫で約1時間寝かせます


寝かせた生地は、麺棒で5mmほどの厚さに伸ばします。
「こういう作業は、断熱性のある木の板の方が、大理石よりも良いんですよ」
大理石の場合、冷たい部屋なら大丈夫ですが、暖かい部屋の場合には、逆に生地の温度を奪ってしまうのだそうです。

そして、氷を入れたボウルが登場しました。

さて、何に使うのでしょう??


「これで、手を冷やします」 両手を氷水に浸して、じっと手の温度が下がるのを待つ横溝シェフ。

この細かい気づかいが、おいしさにつながるのです!


しっかり冷えたところで、手を拭き、抜き型でクッキー生地を1枚1枚抜いていきます。

手早く抜き、重ねたものを、並べていきます


サンドする“紅茶とキャラメルのコンフィチュール”作り。ここにも、横溝シェフの素材に対する想いがありました。
「材料にあるハチミツですが、「リリエンベルグ」では枇杷の花のハチミツを使っています。これは本当に香りが良くておいしいんですよ。現在使っているのは、愛媛県産のものなのですが、あまり量がとれないため、1年に250kg以上は無理だと言われているほど貴重なものなんです」
ちなみに、価格は1kg約2500円。お菓子の素材として使うには、ありえないような高級品です!

「かたさは好みで調節してください。少しやわらかめにすれば、トーストにも合いますよ」
トロトロのキャラメルを塗ったトースト!なんともおいしそうですね。

材料をすべて銅鍋に入れ、ひたすら炊いていきます


牛乳と生クリーム、グラニュー糖、ハチミツに、分離を防ぐための水飴を入れて炊くだけという、キャラメルのコンフィチュール。今回は、水で抽出したアールグレイを加えていますが、これならさっそく真似できそう。

・・・と思っていたら、なんだかキャラメル担当の方がちょっと苦戦している様子ですが。

「そうなんです。お店では、今日の4〜5倍(総量約10キロ)を1ロットとして作るのですが、鍋につきっきりで4〜5時間かかる作業なんです」
そうなのです。おいしさのためには、決して手を抜かないのが横溝シェフの哲学。これれが「リリエンベルグ」のおいしさにつながっているのでしょう。

努力の甲斐あって、ツヤツヤの
キャラメルが出来上がりました!



クッキーは、片面にキャラメル
クリームを絞って、サンドします



そして、講習会も大詰め。いよいよ、モンブランの仕上げに取り掛かります。

鮮やかな黄色に煮あがりました!
会場中に栗のいい香りが立ち込めます



栗のシロップ煮を丁寧に裏ごし、無塩バター、粉砂糖、そして牛乳と一緒に練れば、マロンペーストの完成です。

栗の裏ごしはかなりの重労働! さすがにお店では木のローラーで細かくしているそうです


こっくりと甘〜い栗の香りに、思わずうっとり


栗のペーストを絞るのは、和菓子に使われる小田巻きという道具。ダックワーズ生地に生クリームを少し絞り、その上に丸ごと一粒の栗を乗せ、さらに生クリームをたっぷり絞って土台を作ります。
そして、小田巻きを使い、最初はグルグルと円を描くように、そして、上下左右に絞っていきます。

おだまきをグッと押して、高いところから絞っていきます


みるみるうちに土台の上にマロンクリームが重なっていきます。あまりに何往復もするので、回数を数えてみると・・・。
1回、2回、3回・・・、え??もしかしたら、20往復はしているかもしれません。
「完成品は85〜90gが目標。100g以上だと、原価が合わなくなってしまうんです(笑)」
マロンペーストを絞る前と後では、その大きさの差は歴然。本当に贅沢な一品です。

わかるでしょうか?この違い。しかも、
中には大粒の栗が丸ごと1粒入っています



きれいなドーム状になったら、粉糖を軽くふって完成です!


すべてが完成したところで、お待ちかねの試食タイム。
出来立てというのはもちろんですが、素材への想いや細かい気配りがこの1つ1つに詰まっていると思うと、おいしさもひとしおです!

横溝シェフの話を聞きながらの試食タイム。うーん、贅沢です!





モンブラン
栗の香りが驚くほど豊かなマロンクリームがたっぷり!洋酒やヴァニラを使っていないので、和栗そのもののおいしさを存分に楽しめます。日本人に生まれて良かった、と実感するおいしさ。


生成ロール
少しモチッと弾力のある生地は、やわらかくて口どけも抜群。クレームパティシエールのコクがほんの少し加わることで、グッと深みのある味わいになっています。


キャラメルクッキー〜キャラメルクリーム〜
サックサクのクッキー生地に、トロッとなめらかなキャラメルの食感。やさしいキャラメルの風味に薫るアールグレーが、バターとキャラメルを心地よく調和させています。




こうして、実際に作る工程を見、素材や作り方についての話を聞いてからの試食は、普段、お店に伺って食べるのとは、ひと味もふた味も違うような気がするから不思議です。
「リリエンベルグ」のおいしさの秘密・・・。それは厳選した素材、シンプルな配合、そして手間を惜しまないお菓子作りへの愛情だと、改めて実感する講習会となりました。
(2010.12) 




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