ここ数年、伝統菓子のリバイバルがちょっとしたブームになっている。
若手パティシエによる、新しい解釈の伝統菓子・・・。
ベースの部分はそのままに、今の好みに合わせた食感や軽さ、ビジュアルで、新しく生まれ変わったその姿はとても新鮮だ。
だが、そのリバイバルを、いち早くそれを成し遂げた人物といえば、「リリエンベルグ」の横溝春雄氏ではないだろうか。日本人には食感や甘さがちょっとへビーなウィーンの味を横溝流にアレンジしたそのおいしさは、今も私達を惹き付けて止まない。
そんな訳で、今回のテーマは横溝流「ウィーンの伝統菓子」。あえてウィーンの正統派伝統菓子をチョイスして、そこに隠された横溝スタイルの秘密を探ろうという内容だ。
ではさっそく、その極意をみせていただこう!




リリエンベルグ・・・。 お菓子好きだったら、この名前を耳にするだけで、つい口元がゆるんでしまうことだろう。 絵本から飛び出したような夢のある建物、丁寧に作られた味わい、桃、栗、ブドウ・・・旬のおいしさをギュッと閉じ込めたケーキたち。そこは、お菓子がもたらす幸せの力がどこよりも宿っている場所だからではないだろうか。

ドーバー洋酒貿易の会場には早くから参加者の姿が。貴重な横溝春雄シェフの講習会だけに、期待度の高さが伺える

そんな「リリエンベルグ」横溝春雄シェフを招いてのパナデリア講習会は、今回で3回目。毎度のことながらキャンセル待ちが出るほどの人気ぶりで、遠方から(青森から静岡、大阪まで!)のエントリーも少なくない。パナデリアのWebサイト上に募集案内が掲載される日を心待ちにして、毎日チェックしていたという嬉しい声もいただいた。

横溝春雄シェフが登場。クマのプリントのついたデニム素材のエプロン姿がどこかかわいらしい



講習のスタートは、ウィーンの伝統菓子「ザッハトルテ」から。この「ザッハトルテ」、ウィーンで食べた経験のある方なら、日本人にはややヘビーな"甘さ"と"重さ"を感じたのでは? それに比べて、「リリエンベルグ」のザッハは、フワフワと軽くやわらかな食感、そして心地よい甘み・・・。だが実は、横溝シェフが作っているのは、ウィーン「デメル」修業時代に作っていたのとまったく同じレシピだと聞いて驚いた。
「レシピはまったく一緒です。見ていただくとわかりますが、ザッハマッセはバター、チョコレート、薄力粉が同量という油脂の多い生地。このまま作ると、かなり重たい食感になります」
日本人が食べるにはどっしりと重たすぎる・・・。そこで、横溝シェフが考えたのが、配合はそのままで食感を変える方法だ。
「変えたのは砂糖。バターと擦り合せる砂糖をグラニュー糖から粉糖に切りかえることで、ぜんぜん違う軽い食感になるんですよ」

かなりボリュームが出て、白くツヤツヤとした質感に。
きめは細かいが、しっかりとした状態を保っている

ミキサーボウルに無塩バターと粉糖を入れ、スイッチオン。フワフワ、ツヤツヤの白っぽい状態になるまでしっかりと泡立てる。これが、食感のカギを握るのだ。



ココアではなく、チョコレートをたっぷり使うザッハマッセ生地。それだけに、チョコレートの選び方や使い方も重要なポイントになる。
「チョコレートは、ヴァローナ社のカラクを使っています」
ベネズエラ産アリバ種カカオを使ったカカオ分56%のクーベルチュール「カラク」は、フルーティな甘酸っぱさとナッティなコクが特徴。これを18cmのマンケ型1台に対して80g加えて作る。チョコレートは油脂が多く含まれる上、温度によって状態が変化しやすい素材。それがバターや薄力粉と同量入るのだから、軽い食感にするのは難しそうだ。
「チョコレートの温度は、28〜30℃にしてください。それ以上だと、バターの気泡がなくなってしまうので気をつけてください」
先ほどのフワフワのバター+粉糖生地に2回に分けてチョコレートを加え、マシンに付属しているホイッパー部分を手に持ち替え、グルグルとやさしく混ぜ合わせる。続いて、液体状の卵黄を投入。

卵黄は“あれ?”と目を疑うほど、簡単に
合わせて終了。これも大切なポイント!

「ここに加える卵黄は混ざればOKです。卵黄を入れてから混ぜすぎると、トロトロとしたリキッド状になってしまうので注意してください」
泡を作るのはあくまで卵黄を入れる前まで。後は、それを消さないように注意して作業を進めていく。



慣れた手つきで淡々と作業を進めていく、横溝シェフ。その動きの中で、特に目に付いたのが温度のチェックだ。チョコレートを合わせる際にもボウルの底に手を当て、チョコレートやバターの温度も慎重にチェックしていた。ひとつひとつはさり気ないが、温度管理にはかなり神経を使っているようだ。

メレンゲはややゆるめに。良すぎる状態だと粉合せの際に回数が増え、生地に影響してしまう

「温度はとても重要。そのことに気付くまでは、実は失敗も多かったんですよ」
横溝シェフがヨーロッパから帰国してすぐの、渋谷「グリュース・ゴット (現在は閉店) 」時代のこと。メレンゲに使う卵白は冷やしておいた方が良いということから、ザッハマッセのメレンゲにも冷蔵庫で冷やした卵白を泡立てて使っていた。だが、メレンゲの状態は良いのに、焼き上がった生地は不合格。いったいどこで失敗したんだろう・・・と、理由もわからないまま、失敗と成功を繰り返す日々が続いたという。
「理由は温度だったんです。ザッハマッセ生地にはチョコレートが多く入るので、メレンゲが冷たいと温度が下がりチョコが締まってしまう。結果として混ぜる回数が多くなり、泡が消えて生地がふくらまないという状態だったんです」
わかってしまえば簡単なことで、それ以降、チョコレートの生地とメレンゲは同じ温度に調整。こうすることで、失敗は無くなった。

まず、ひとすくいのメレンゲをチョコレート生地と
合わせてから、残りのメレンゲと合わせる

だが、温度を測る時に、ちょっと面倒だからと手や指で温度を測るのはNGだ。
「握手した時のことを思い出してください。そうなんです、手の温度は人によって違うんですよ」
確かに! ひんやり冷たい手、ふっくら温かい手・・・、掌の温度は人それぞれだ。さらに季節や室内の温度によってもずいぶん変わってくるから、当てにはならない。温度計を使わない場合は、唇の下の部分で行なうと良いそうだ。

アットホームな雰囲気のなか、横溝シェフの
技を間近で見られるのが嬉しい

当然、卵、バターなど冷蔵庫で保管しているものは室温に戻し、場合によっては温める。バターは必ず指で押して状態を確認、レーザーの温度計を側に置き、粉なども使う前の温度には気を配る。両方の生地を同じ温度に持っていくことで、短時間でダメージの少ない生地を仕上げることができるというわけだ。作業としてはシンプルだが、見えない部分に経験と勘が隠された作業といえるだろう。



メレンゲを加えたチョコレート生地にふるった薄力粉を加え、ゴムベラで合わせる。すると、何やら横溝シェフがブツブツとつぶやき始めた。
「22、23、24・・・」
何か数を数えているようだが・・・。
「混ぜる回数を数えているんです。生地は40〜45回合わること。うちでは必ず数えるようにしているんですよ」
職人の勘というのは大切だが、回数を数えることでそれはより正確なものになる。

40〜45回合わせることで、気泡をしっかり
残しつつ、ツヤのある生地が完成

「当然人によって力の強さは変わるので、自分の回数を決めてしまうこと。例えば、40回合わせた生地の焼き上がりを見て、少し軽いようだったら次は45回にするというように調整してみてください」
薄力粉は日清製粉の“スーパーバイオレット”を使用。“スーパーバイオレット”や“ウルトラハート(日本製粉)”であればグルテンはあまり出ないので、混ぜる際に気にしなくて大丈夫だそうだ。

バターを塗り、強力粉をはたいたマンケ型を準備

出来上がった生地をマンケ型に入れ、クルクルと回転させたら焼成。この時、天板と型の間に一枚紙を敷いておくこと。窯の種類にもよるが、こうすると下火が強すぎて焼き縮みが起こるのを防ぐことができる。

生地を型に流し込いれたら焼成。温度は上180℃、
下170℃。下火が強くならないように注意する



ザッハトルテの要となるのが、生地を艶やかに包み込む“ザッハグラズィュール”作り。チョコレートなのにシャリシャリとした食感の“ザッハグラズィュール”作りは、なかなか素人には真似できない職人技。プロでも出来る人は少ない。
「“ザッハグラズィュール”はチョコレートの入ったフォンダンのようなものです。水、カカオマス、クーベルチュール、グラニュー糖を108〜109℃まで煮詰め、砂糖を結晶化させていきます」

年季の入った銅鍋。これでゆっくりと熱を加えていく

大きな銅鍋にまず水を沸騰させてクーベルチュールを加え、溶けたらグラニュー糖を一度に投入。焦げないよう水刷毛をしながら、中〜強火で温度を上げていく。しばらくすると、会場内にチョコレートの甘い香りが立ち込めてきた。幸せの香りだ。

ブクブクと沸いてきた!・・・が、まだまだ先は長い

鍋の中身はブクブクと煮立っているものの、なかなか温度が上がらない。通常「リリエンベルグ」では20台分くらいの量をまとめて仕込むため、担当のスタッフは鍋の側に張り付いてひたすら焦げないように混ぜつづけるのだそうだ。

かなり水分が蒸発し水位が下がって
いるのが見えるだろうか?

「この粘りが見極めのポイントです」
かなり煮詰まって量も減ってきたところで、少量を指に取り様子をチェックする。

この“伸び”が見極めのポイント

そして、いよいよここからが職人技の見せ所!参加者たちも、普段はなかなか目にすることの出来ないこの技を一目見ようと、前に集まり固唾を飲む。

大御所の講習会ながら、このアットホームさが
パナデリア講習会の魅力!



“スッ、スーッ”
少量を木台の上に取り、パレットナイフをリズミカルに左右へ。表面をなでるように何度かパレットナイフを滑らせると、少しずつ白く結晶化した状態に変化しはじめる。

パレットのしなり具合から察するに、軽くなでているように見えながらも、適度な力加減が必要。これは、まさに職人技!

「砂糖を結晶化させてシャッた状態にさせます。そうしないと、砂糖が水飴のようにベタベタとしてしまい、きれいに固まりません」
すでにトロトロした状態ではなく、やわらかなフォンダンのような状態になっている。これを集めて鍋に戻し、新たにすくい取ったものを結晶化。この作業を何度も繰り返す。かなり根気のいる作業だ。

少しずつ、根気良く、結晶化させていく

「結晶の核に、誘導結晶させていくんです。実は、粉糖をシロップに入れて練りこむと簡単に誘導結晶は作れるんです。でも、それはココだけの話。この作業をマスターするまで、スタッフには教えない方法なんですよ」
と笑う横溝シェフ。作る側はかなり苦労するはずだが、“これこそウィーン菓子職人”という圧巻の職人技に間違いない。やはりお手軽版ではなく、基本からしっかり受け継いでもらいたいと思ってしまう。

完成。見た目にはわかりにくいが、表面に
キラキラとした膜が張ったような状態になっている

先ほど焼いたザッハマッセにアプリコットジャムを塗り、“ザッハグラズィュール”をかければ完成。ピカピカに輝く、美しいザッハトルテが完成した。




ナイフを使って丁寧に焼面を整え、アブリコテ。長野の杏生産者、竹内さんが作る紅色杏で作った自家製杏ジャムを使用する


ザッハマッセを網の上に置き、高いところからザッハグラズィュールをかけて完成。派手な飾りはないが、これだけで充分美しい!



カーディナルシュニッテンも伝統的なウィーン菓子。だが、これにも横溝流の工夫がある。
「元々は、最も難しいと思っていたお菓子なんです」
カーディナルシュニッテンは、メレンゲとビスキュイを交互に絞り、間にモカクリームをサンドした繊細なケーキ。なんといっても要(かなめ)はメレンゲだ。

「ではまずメレンゲを泡立てます。卵白4個分に対して、グラニュー糖が150gと多いので、遅めに入れるように。それから、メレンゲが立つ直前でレモンジュースを加えるのがポイントです」
これは酸によるタンパク質の凝固作用を利用したもの。レモンの酸が卵のタンパク質に働きかけ、 メレンゲがしっかりとした状態になるのだという。

先端の部分がピンと立ち、
しっかりと固さのあるメレンゲ

さらに、絞り口金にも工夫がある。
「ウィーンでは、丸口金で2段に絞っていたんですが・・・」
そういって見せてくれたのは、少し背の高いカマボコ型の口金。こんな形は見たことがない。
「これは特注で作ってもらったものなんです」

上だけがアーチになった特注の口金で、これが本当に
優れもの!簡単に2段分のメレンゲを絞ることができる

こうすると、2段に重ねて絞る手間が省ける上、失敗もなく、焼き上がりも美しい。また、時間が短縮されるため、メレンゲの状態が変わらないうちに絞りきることができる・・・と、言う事なしの優れものだ。
「特注をしなくても、大き目の丸口金をペンチか何かで加工すれば簡単に作れると思いますよ」
レモンにカマボコ型口金・・・。これさえ覚えておけば、家庭でも上手に作ることができそうだ。

卵黄4コ+卵1コというリッチなビスキュイ生地。メレンゲには卵白4コ分を使うので、卵が余らないという優れた配合

「それから、ダンパーは開けてください。家庭用のコンベクションだったら、出来れば少しすき間を開けて。密閉したまま焼成すると、すごく膨らみますが、後でペシャンとしぼんでしまうんです」
これも重要なポイント。2cm間隔で3本メレンゲを絞ったら、間にビスキュイ生地を絞り、焼成する。

メレンゲの間にビスキュイを絞っていく。横に広がりやすいビスキュイ生地だが、メレンゲがストッパーになってくれる



生地の間にサンドするのは、モカ風味の生クリーム。水分の出やすい生クリームと水分に弱いメレンゲ・・・。なんとも危なっかしい組合せではないか。
「生クリームは半日置くと、もうパサッとした状態になってしまいます。でも、微量のゼラチンを入れて固めるとクリーミーさが保てるんですよ」
配合だけを見ると、生クリーム300gに対して水が40ml。だが実は、1歩手前の固さまで泡立てた所に水でふやかしたゼラチンを投入することで、クリーミーさと保形性を保つことが出来るという。

クリームは一度冷蔵庫で冷やし、ゼラチンの
効果が出はじめたら絞りを開始する

「実は、これは冷凍配送もしているんですよ」
その日販売するものは朝作り、残ったものは廃棄してしまうということで有名な「リリエンベルグ」。その「リリエンベルグ」がこんな繊細なケーキを冷凍で配送?! 実はこの裏にはちょっとしたエピソードがあるという。

クリームを絞り、上にもう1枚の生地を重ねたら、
紙で巻いて軽く締め冷蔵庫で冷やす

「カーディナルシュニッテンをカットするために10分ほどショックフリーザーに入れるのですが、ある日、取り出すのを忘れてカチコチにしてしまったんです。仕方なく解凍して食べてみると、味も食感もお店で販売しているものとまったく変わらない。その後、テストのために、スタッフの実家に冷凍便で送り、もう一度「リリエンベルグに送りかえてしてもらい試食。そうしたら、通常商品とまったく変わらなかったんです」
これなら配送ができると確信した横溝シェフは、地方への通販を開始。こんなにも繊細なケーキだが、冷凍に関しては意外な丈夫さも兼ね備えているようだ。

細長く切った紙をビスキュイ部分に重ね、
粉糖をかければ完成



次は、今講習会のハイライト「シュネーバーレン」。日本ではほとんど見かける事のない、ウィーンの伝統的な揚げ菓子だ。
「シュネバーレンはウィーンでの修業時代に作っていました。1コ当り100gの生地を使う大きなもので、正直言って、味もおいしくなかった。でも、形が可愛らしかったんです」
この形をいかしてなんとか商品化したいと考えた横溝シェフ。まずは、大きさを何とかしようと、小さな型を特注した。

横溝シェフ特注の日本人サイズのシュネーバーレン型。穴の開いたレードルを合わせたような形で、簡単に開閉できるようになっている

さらに、生地も改良。ラム酒の多い生地から、白胡麻を入れた軽く香ばしい生地へと変更した。
「もうひとつのおいしさは、枇杷の蜂蜜。揚げた生地に枇杷の蜂蜜を塗り、グラニュー糖をまぶしてオーブンで乾かします。その結果、すごく美味しいシュネーバーレンが出来上がったんです」
知る人ぞしる、この枇杷の花の蜂蜜は、横溝シェフの大のお気に入り。当初使っていたシシリー島産の枇杷の蜂蜜は業務用での販売がなかったため、小さな瓶で大量に購入していたそうだ。その後、100〜200kgという単位で交渉して使うようになったものの、今度は別の理由から使用が難しい状況に追い込まれた。
「以前は冬に咲く花は枇杷だけだったのに、温暖化で他の花も咲くようになり、枇杷の花の蜂蜜が採れなくなったのだそうです。今は愛媛県産のものを使っていますが、年間200kgが限界ということで、それでまかなうようにしています。価格も上がって、それまでは10kg 約5万円だったのが、6万5千円に。貴重な蜂蜜なんですよ」
価格に幅のある蜂蜜だが、製菓材料としては相当な高級品。それでも使いたいと思わせるおいしさが、枇杷の蜂蜜にはあるのだという。

煎った白胡麻がたっぷり入ったシュネーバーレン生地

粉に、卵黄や牛乳、レモンゼストなどを加え、溶かしバターを加えた生地は少し固めの状態。これを休ませた後、薄く伸ばし、パイカッターで約2cm幅に切り込みを入れる。

厚さ2mmに伸ばしパイカッターで波状にカット。よく見ると、上下がつながって4〜5本の切り込みが入った状態になっている

そしていよいよ、あの道具が登場!
「手で丁寧に丸めたらこの中へ。フタをして、油で揚げていきます」

後で膨らむので、この段階では
生地量はやや少なめに

銅鍋に紅花油を熱し、型のまま中へ。“ジュワッ”という音と共にまるで天ぷら屋さんのような香ばしい香りが広がる。

取っ手が付いているので便利。
160℃で約5分間揚げる

ところで、持ち手に1〜4までの数字が書いてあるようだが・・・。
「中が見えないので、どれを先に入れたかわからなくなるでしょう?だから、数字の順番に油に入れていくんです」
なるほど!これなら、どの順番に入れたかが一目瞭然だ。

これは、「2」番目に入れたシュネーバーレン。
出し忘れ防止に最適

揚げあがったシュネーバーレンに、枇杷の蜂蜜を水で溶いたシロップを塗り、グラニュー糖をまぶしてオーブンへ。仕上げに粉糖をかければ完成だ。

色よく揚がったら丁寧にお化粧。ちなみにシュネーバーレンとの相性抜群の枇杷の蜂蜜だが、ヨーグルトには合わないのだそう



「ザッハトルテ」「カーディナルシュニッテン」「シュネーバーレン」。かなり充実した3品のデモンストレーションだったので進行が少し心配だったが、さすがは横溝シェフ。予定より早く、全てのアイテムが完成した。

試食はたっぷりワンポーションずつ

デモンストレーションも圧巻だったがパナデリア講習会ならではの醍醐味といったら、やはり味わうこと。シェフ自らが作る出来たてのおいしさを堪能できることだろう。そんなわけで、ゆっくりとケーキを楽しめるようにテーブルをセッティングし、楽しい試食タイムとなった。

横溝シェフも混じり、懇親会的なムード。質問にも丁寧に答えてくれ、ファンにはたまらない至福のひと時となった




■ザッハ トルテ Sachertorte
きめ細かく、ふわふわとした生地は、口の中でほどけていくような口溶けの良さ。チョコレートのコクも感じられ、それだけでもリッチなおいしさです。周りのザッハグラズィュールは適度な厚みがあり、少しシャッた食感と砂糖の甘みが、全体に立体感を与えているよう。時間をかけてゆっくりいただきたい、品のある揺るぎないおいしさ。
■カーディナル シュニッテン
 Kardinal-schnitten

フワフワに泡立てたメレンゲは、想像以上にプルンッと弾力のある食感。間にサンドしたモカクリームは、生クリームともムースとも違う、なめらかでみずみずしい食感で、軽い生地と共に、口の中ではかなく消えていくよう。ひとつひとつのパーツはシンプルなのに、忘れがたい印象を残す逸品。
■シュネーバーレン Schneeballen
固そうな見た目をいい意味で裏切る、ホロホロとしたやわらかな食感。白胡麻の香ばしさが効いているせいか、油で揚げているのにも関わらず、意外にあっさりとした味わい。甘さは控えめだが、その分枇杷の蜂蜜の香りが優雅な余韻となって広がる。余った生地は、そのまま揚げれば気軽なおやつに。



昼食は「キャトル」のブーランジェリー特製のランチボックスを。しっとり食感のいいケークサレ、具沢山のカスクルート、そしてバターの風味が濃厚なクロワッサンに舌鼓


パナデリアからのちょっとしたおもてなし。ふきのとう味噌+ショコラや、透明なトマトのジュレを乗せた人参のムース、カカオのジュースなどが登場


朝10時から約6時間という長時間の講習も、気がつけばあっという間に終了。基本はあくまでもクラシックだが、その味を追求する姿勢は非常に合理的で、そして、どこまでも謙虚・・・。そんな正統派ウィーン伝統菓子に対する、横溝流の解釈とアプローチに魅了された1日となった。
かつて横溝シェフがウィーンで学んだ時代とは違い、現在は情報が溢れ、簡単にレシピが手に入る。だが、私達が味わうのは、レシピではなく、シェフその人。そんなふうに再認識させられる、感慨深い講習会となった。
(2012.4) 



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