パリの東に位置する、バスティーユ地区は、古くから家具のお店が並び、最近はアーティストが多く住む、庶民的な中にもどこかおしゃれな雰囲気のただよう町。また、近くにおいしい質の良い食品がそろうと評判の「アリーグル市場」もあり、食通が多く集まる界隈です。パティスリー「ブレ・シュクレ」は、そんなバスティーユ地区にお店をかまえて、3年が経ちました。


Fabrice Le Bourdat(ファブリス・ル・ブルダ)氏。数々のレストランでの経験をいかし、2006年にBlé Sucréをオープン


バスティーユ広場から歩いて7〜8分ほど、緑いっぱいの小さな公園の前に位置するパティスリー。この界隈は、多くの有名レストランのシェフが買いものに来る「アリーグル市場」からも近く、グルメなフランス人が行きかう地区


気持ちの良い公園が目の前に見渡せるお店の前には、イートインできるテーブルがあります。朝には「Illy」社の淹れたてのコーヒーと、お店の看板商品であるクロワッサンで、ここで朝食をとる通勤前の人々が。お昼にはお店のおいしいサンドイッチを目当てに来る人、そしてそれ以外の時間は、おいしいお菓子やパンをもとめて地元の人が絶え間なく訪れ、テーブルやショーケースを囲んで、なんともにぎやかな様子。
「店に来る人が、毎日、家で、そしてお店でも、お菓子やパンを身近に楽しんでほしい。ブーランジェリーのコーナーも、子供たち向けのボンボンのコーナーも、焼き菓子のコーナーも、みんなこの店の大事な要素なんです」というファブリス・ル・ブルダ氏。


今年(2009年)の夏に改装し、秋にリニューアルオープンした店内。モーヴピンクと黒でまとめられたシックな空間に、お菓子とパンがずらりと並ぶ。夏季にはグラス(冷菓)も販売


お店のスペシャリテには、お店のある通りの名や、目の前の公園の名前など、地元にちなんだ名前がつけられ、氏がこの場所に根を下ろして、のびのびと仕事をしている様子がうかがえます。
また、小さな子供たちが、コインを握り締めて買いに来る、小さな砂糖菓子やガム、リコリスなどの昔ながらのお菓子も、ちゃんと置いてある店内は、スタイリッシュなのに、どこかなじみある、居心地の良い空間です。


ガトーは定番のものを含め、常に25〜30種類が並ぶ。
味は本格派なのに、値段がとても手ごろなのもうれしい



店内奥にブーランジェの大きな窯があり、ヴィエ
ノワズリーからバゲットなどが次々と焼きあがる



ビアリッツの「ホテル・パレ」やカーンのシャトーホテルをはじめ、3年間の「プラザ・アテネ」、そして7年間の「ホテル・ブリストル」のスーシェフとしてなど、まさにフランス中の有名ホテルの厨房でパティシエとして腕をふるっていたファブリス氏。
しかし、長年のホテルでの勤務をするうちに、次第に、「お菓子を食べてくれる人々の笑顔が間近にみられる、そんな自分のパティスリーを開きたい」という夢がどんどんふくらんでいったといいます。
「ホテルでは、サロンドテやパティスリーのほか、レストランのデセールやバンケット(宴会)などのお菓子もすべて担当することが普通です。したがって、お菓子も、ただ売るためのものだけでなく、その場で楽しんでもらうことや、大事な日に特別なものを作る、といった、さまざまなシーンがあることを、ホテルでの経験で、身をもって体験した」といいます。
そしていよいよ3年前、独立して自分のパティスリーを持つ計画がときに、まず、このホテルでの経験がまっさきに頭にうかんだのだそう。
たしかに、氏のお店には、こじんまりとしていながらも、イートインできるスペースから、毎日のパンや焼き菓子、そして特別な日のお祝いのケーキなど、実にさまざまなシーンに対応しています。


週末には、誕生日やイベントなどのお菓子の注文も多い。この日は土曜日でしたが、タルトやチョコレートのアントルメなどの特別注文が既に5、6組も


「毎日の生活、はては人生のさまざまなシーンに、自分が作り出すお菓子やパンが、その人その人に彩をそえられたら・・・」そんな思いが、お店のコンセプトになったといいます。
さらにお店にならぶお菓子は、どれも価格がお手ごろなのも嬉しい点。
「常に新しいものを取り入れるのも、パティシエの仕事のやりがいある仕事ですが、一番大切なのは、自分が作るお菓子が『食べる人がよろこんでもらえるもの』になる、ということ。いくら素敵なお菓子でも、高くてなかなか手が出せない、というのでは意味がない。また、作り手だけが満足し、食べ手に伝わらないようなお菓子、というのも良くないと思うのです」。
そんな考えから、新しいお菓子を生み出す以上に、伝統的なお菓子をとても尊重しているといいます。


パルミエ(パイ生地の焼き菓子)やフィナンシェ、マドレーヌなどの焼き菓子から、チーズ風味のガレットなど、アペリティフにもよい塩味系の焼き菓子もそろう。マドレーヌやフィナンシェは、生地は甘さ控えめ、薄くグラスアローがかかったのがBlé Sucré流


「このお店の一番の人気商品」というエクレールショコラが、取材中も、次々と売れていくその様子が何よりの証拠かもしれません。
そしてここのお菓子の特記すべき点は、もうひとつ、かわいらしくモダンなデザインが多い点。
例えば、「タルトフレーズ」や「フレジエ」など、フランスで昔からなじみあるものも、ババロワ入りのチョコレートをあしらったり、モダンな形だったりと、その中にひとてま加えたようなアクセントがあります。
デセールのような手の込んだ、はっとするような個性もあるけど、伝統もきちっと守る。そんなバランスが、氏の個性ともいえるのではないでしょうか。
また、氏がとても気を使っているのが、素材の旬をだいじにするということ。「フレッシュなものを使うように心がけている」という氏は、缶詰を一切使わずに、市場で旬のものを毎回仕入れに行くのだとか。そして「秋なら洋梨や栗といった風に、その季節にあった素材で、新しいお菓子を考えています」といい、ショーケースには常時25〜30種類のガトーを扱っています。

タルトのガルニチュール(タルトの中に入れる果物などの素材)は、缶詰でなく、必ずフレッシュなものを使用。季節にあったものをシェフ自らが買いつけにいくのだとか


自家製コンフィチュール。フレッシュさにこだわり、果実味あふれる甘さ控えめの味わい。パッションフルーツやエピス入りの洋梨味などがそろう


また同時に、見逃せないのがブーランジェリーの品々。パンオーショコラとクロワッサン、そしてバゲットは、お店の看板商品ともいえる人気の商品です。バゲットはヴィロン社のType65を使用。食事に合うもっちりとした食感で、お昼にはこのバゲットをつかったサンドイッチが並びます。
おいしいお菓子が、さまざまなシーンで、いつも気軽に食べられる・・・そんな夢を実現してくれる「ブレ・シュクレ」。今日も地元の人が笑顔で詰め掛ける、にぎやかなパティスリーになっています。


毎朝、8時にはすべての商品が店頭にならぶ。クロワッサンとパンオーショコラは店の朝の看板商品。焼き立てが次々と売れてゆく




お菓子とパンの紹介はこちらから


(2009.11)


Blé Sucré ブレ・シュクレ
 7 rue de Antoine-Vollon
 Tél : 01 43 40 77 73
 メトロ 8番線 Ledru-Rollin駅
 月〜金 7〜19時30, 土9〜19時30
 日 9〜13時半






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