“ブラムリー”
これが何かわかる方は、よほどのりんご好きかイギリス好きな方ではないでしょうか。

私がブラムリーに出会うきっかけになったのが5年前。
イギリス人シェフが腕をふるう大阪のパティスリー『ブロードハースト』で、「イギリス原産の青りんごが長野で作られていて、それを使ったアップルパイが出ていたのですが、もう時期が終ってしまって・・・」という話をうかがったときです。
りんごもイギリスも大好きな私。よし、来年はぜひそのアップルパイを食べる為に再訪するぞ!と心の中で誓いました・・・そして、1年後。
再訪して出会ったのが“ブラムリー”という名のアップルパイでした。
さっくりと香ばしいショートクラストの中から、りんごがとろり♪ その甘酸っぱさと香りは、今まで食べたことの無い味わい! こんなりんごがあったとは!と感激。

私にとって『ブロードハースト』抜きではブラムリーは語れません。ステキな出会いをありがとうございました


熱を加える前はどんな味や香りなんだろう・・・なんとかして生のブラムリーを手に入れたいものだとネットで調べまくっていたところ、出会ったのが“ブラムリーファンクラブ”というサイトでした。
そのサイトによると、生のブラムリーを手に入れるには、『小布施屋』に8月上旬くらいまでにDMを送ってもらえるように依頼。その後注文。
また、その頃ブラムリーを使ったお菓子を出す店もほとんどありませんでしたが、サイトで紹介されていた九段下の『ゴンドラ』のタルトと、自由が丘の『セントクリストファーガーデン』のタルトはすぐに買いに行きました。


おそらく日本でブラムリーのケーキを初めに作られたのが『ゴンドラ』さん。ブラムリーの特徴もすっかり把握され、さすがの美味しさです。必食!
小布施屋から届いたブラムリー。大きいものは1個750gもあった! ブラムリーは常温に置いておくと、あっという間に果肉が柔らかくなりぼやけた味になるので、産地直送は望ましい形だと思っています。届いたらすぐに使うか、ラップ&ジップロック&冷蔵保存。もしくは加工して冷凍保存がオススメ


初夏、"チェリーキッスフェア"で小布施に訪れた際に見たブラムリー。すくすくと成長していました。ちょっと扁平な形が愛らしい


そうするうちに、どんどんブラムリーに惹かれていき、「もっと美味しい食べ方もあるのではないか? あのお店ならこんなふうに使ってくれるのでは?」
最近はプロの手にかかってさらに美味しくなるブラムリーを体験したくて、「ここは」と思うお店にりんごを持ち込んでいます。
でもこういう事をするのは私だけでなく、ブラムリーにはまった人にはよくあることのようです。(笑)

昨年末のブラムリーオフ会の為に『ドゥー・パティスリー・カフェ』に“ブラムリーとウイスキーを使ってヴェリーヌを作っていただきたい”と依頼。煮とけるブラムリーはヴェリーヌにうってつけでは?と考えたのです。その結果、想像を超えるヴェリーヌが完成しました。その後店頭販売もされ・・・今年も作ってくださるかな?



『アウスリーベ』へ持ち込んで作っていただいたお菓子3種類。いずれも生のまま焼きこんでいます。生のまま焼きこんでもトロッと煮りんごのようになるのがブラムリーのいいところです!ちなみに通常販売はされていません。どうしても食べたい方は持ち込みの上で応相談

ジェラートにしたら美味しいのでは?と、仕事でイギリスの生活が長かったご主人のいる『SE1』に白羽の矢を立て、一昨年ブラムリーを持ち込んだ結果、こんな美味しいジェラートに!ありがとう、新(あたらし)シェフ ほんのり緑色・・皮の破片も・・・見えますか?

『SE1』の店頭に"本日のオススメ ブラムリーアップル"の文字が♪


今年で2回目の企画、『SE1』の“ブラムリーナイト”で提供されたサンドイッチ。ローストポークにブラムリーソース


日本でお菓子やジャムを作る時によく使われるりんごといえば、酸味のある紅玉がポピュラーでしょう。
でも紅玉は生で食べてもおいしいものです。 ところがイギリス原産の青りんご"ブラムリー"は、フレッシュな状態だと果肉は硬く強烈な酸味がありますが、熱を加えるといい香りを放ちあっという間に煮崩れてしまいます。

日本のりんごは品種改良がどんどん進み、人気の移り変わりも激しく、子どもの頃に食べた品種を今見ることはほとんどできません。
ところがブラムリーは200年前にイギリスのサウスウェルズで偶然生まれ、今に至るまで全く品種改良されず愛され続けています。
これは日本では信じられないことです。

『リリエンベルグ』のアップルシュトゥルーデル、ブラムリー100%バージョン。ブラムリーの酸味を中和しようとしたのか、いつもよりクラムが多めです
『リリエンベルグ』ブラムリーとセロリのコンフィチュール。一昨年はブラムリー&ジンジャーもあったのですが、今はセロリバージョンのみ




『リリエンベルグ』ブラムリー&紅玉バージョン。こちらの方が美味しかった!ブラムリーは他の果物とあわせることで、その果物にない部分を補い、さらに美味しくしてくれる力があります


『カー・ヴァンソン』のパイ。スライスしたブラムリーの下には、ピュレ状のブラムリーがたっぷりと



『浅草浪花家』のブラムリーかき氷。上にかけた蜜は砂糖と煮てポタポタと1滴ずつ落として作ったジュレ。底には果肉入りのシロップ。 同じく『浅草浪花家』のブラムリーたい焼き。酸味のある果物とあんこの相性は抜群。一口かじった途端に広がる爽やかな香り・・傑作です!

9月末で今年の営業を終了した『霧原』のブラムリーかき氷。氷にかけてあるのはサワークリームと合わせたシロップ、添えてあるシロップは美しい緑色。ブラムリーは変色しやすいので、毎日少しずつ仕込んでいるというお話でした

昨年『ラヴィルリエ』が百貨店に出店した際に提供されたブラムリーのタルトタタン。今年もブラムリーを購入されたそうで何を作られるのか?!ちなみにタルトタタンに仕立てるパティスリーが多いのですが、ブラムリーの特性を考えると、タタンに向いてるかどうか・・・というのが最近の私達の見解です



長野県小布施町出身でりんご農家の三男坊・荒井豊(みのる)氏は、故郷のりんご農家が衰退していっていることに心を痛め、町おこしの為に料理用りんごを導入することを思いつきます。
5種類の料理用りんごをイギリスから取り寄せ、横浜の検疫所で1年間育成後、やっと小布施にブラムリーが導入されました。(今から22年前の事です)
しかし、ブラムリーが理解されるまでは平坦な道のりではありませんでした。
「どんな素晴らしいりんごがイギリスからやってくるのだろう。さぞかし赤くて大きくて甘いりんごなのだろう」と期待していた農家の方々は、青く酸っぱいりんごにがっかりしたそうです。
そこで、ブラムリーの良さを知ってもらう為に立ち上がったのが、英国王立園芸協会日本支部の会員である3人組。
アップルパイにしたブラムリーを農家の方々に食べてもらったり、“ブラムリーファンクラブ”というサイトを立ち上げたり、地道な活動をされてきました。
そのおかげで、農家の方にも消費者にも飲食に携わる方々にも、ブラムリーは少しずつ浸透していきました。

荒井氏が毎年企画開催している“ブラムリーを味わう会”にて。出席者を出迎えてくれたブラムリー、その奥にあるのはブラムリー研究会が作成したレシピ本。なんと無料で配布しているのですが、オールカラー30ページの充実さ!

ブラムリーを味わう会で供された料理たち。前菜・魚・肉・デザートと、全てにブラムリーが使われています。


現在、小布施町では30軒の農家で栽培され、出荷できる農家は6軒となり、需要と供給がいいバランスで伸びてきているようです。
町ぐるみでプロモーションに取り組んだおかげで、"果物は生食"文化の日本でも、このブラムリーが広まってきたのではないでしょうか・・・個々の農家の取り組みだけでは、今まで日本のりんごが歩んできたような道をたどることになったのでは?と考えると、小布施町の素晴らしさを改めて感じるのです。

ちなみに“ブラムリーファンクラブ”とは、ブラムリーを応援するブログのタイトルであり、運営者3人組のユニット名。
なので、ファンクラブといっても会員を募っているわけではありません。
「10年後も国産ブラムリーを食べたい!」を合言葉に、消費者と生産者両方に向けて情報を発信し、応援しています。
熱心な活動に心打たれ、私もファンクラブのサポーターのつもりでいます。

最近ファンクラブでは、英国でブラムリーを最初に商業化(苗木の販売を始めた)したメリーウェザー氏のひ孫にあたるセリアさんと交流し、この夏は小布施町のイギリス視察の橋渡しをされました。

人と人を繋いでいくブラムリー…この記事を読んでいる皆様の手にも届きますように!

小布施町ブラムリーフェアにて。小布施の中でも古くからブラムリーに取り組んでいらっしゃる『パティスリー・ロント』。今年の新作のギモーブが個人的に大ヒット☆ 左下は、“ブラムリー”という名の焼き菓子。いわゆるガトーバスクです。焼きたてのサクサクも、時間が経ってしっとりも、両方美味しい
小布施町ブラムリーフェアにて。『ヴァンヴェール』のそば粉のガレット。中には玉ねぎとベーコンとともにオーブン焼きしたブラムリーのスライスが。くるみとカマンベールとピンクペッパーがアクセント
小布施『百藝』にてブラムリー蕎麦!(左上。右上は更科、右下は栗、左下は巨峰)





≪ブラムリー情報≫ 


9月28日〜10月14日 小布施町ブラムリーフェア 23の店でブラムリーを使った様々なスイーツや料理が味わえます。
10月1日〜10月14日 新宿高野にてブラムリーのデザートが味わえたり、ケーキや料理、加工品の販売があります。生のブラムリーも2個¥525で販売されていますが、売り切れ次第終了です。
その他、ブラムリーを使った商品を提供するお店が全国各地にあります!
“ブラムリーファンクラブ”のブログや掲示板も要チェックです。


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