「これ、好き!」と感じた味を追いかけると、その先にも自分の好きなものがある。美味しい連鎖。
そういう経験、くいしんぼうのパナ会員の皆様ならありますよね?!


葉山をぶらりとしていた時に見たポスターで知った『やまねごはん』さん。(現在、お店はありません。月1くらいで自宅を開放してお料理やお菓子を提供していらっしゃいました)
そして友達からもらった紅茶が美味しくて、買えるところを探して見つけた、横浜・馬車道にある『アトリエ303』さん。
その2つの先にあったのが『iya』さんのパンでした。
ナツメヤシ酵母のパンは、外側パリッと、中はみずみずしさを湛えて。そして粉の味をじんわりと感じられる・・・「このパン、好き!」と思いました。
ただ、葉山も馬車道もパンの販売は基本的に月1回。さらに販売と同時にあっという間に売り切れてしまうという競争率の高さ。
はぁ・・・とため息交じりの私の元に、約1年前に飛び込んできたのが“横浜山手に『iya』さんがご自身のお店をオープンした”というニュース!
「やったーー! これでもっと頻繁にiyaさんのパンが食べられる!」と小躍りしたものです。

オープン初日、山手の駅から緩やかな坂を上り、「本当にここ?」と思うような細い道を入り、門をくぐって階段を上がると、サンルーム付きの一軒家が。
店名も『iya』から『ON THE DISH』へ。(入り口にさりげなく店名は掲げられていますが、気をつけていないと見過ごしてしまうかも)
さりげなく掲げられたお店の看板。
店内に一歩足を踏み入れた瞬間、「お店の雰囲気とナチュラルなパンの雰囲気が同じ!素敵な空間だなぁ」と感激。

店内にはイートインスペースのサンルームも

カウンターに並ぶパン達。コットンやリネンなど、素敵な名前のパンが並びます

パンは10種類くらいでしょうか。以前のように慌てる必要はなく、ゆっくりと選ぶことができます。
山食は“cotton(コットン)”、カンパーニュは“linen(リネン)”・・・ネーミングが素敵ですよね!と言うと、パンの作り手・佐藤彩香さんは
「アトリエ303で行われた『Tissage』さんの織物の予約販売でコラボレーションさせていただいて。その時にこのネーミングが生まれました。その時は“カシミヤ”という豆乳で練り上げたパンもあったんですよ」。


パンの名前の下には素材も全て表示してあり、素材を吟味されていることがよくわかります。(パン選びをする時も、自分好みのものを選ぶ参考になるのでありがたい)
粉はキタノカオリ。いろいろ試してみた結果、「自分のパンにはこの粉」と行き着いたそうです。
全て自家製のナツメヤシ酵母から作られていますが、なぜナツメヤシ?
「私は独学でパン作りを始めたんです。最初は『わかなぱん』さんでお手伝いをしていました。その後、自分でレーズン酵母でパンを作るようになったのですが、レーズン酵母のパンは世の中にいくらでもある。
人と同じことはあまり好きではない性格なので、甘みの強いナツメヤシでいい酵母がおこせるのでは?と思ったのです」。
甘みが分解されて発酵するわけなので、ワインでも甘みの強いブドウのほうがいいワインになりますものね。
chocolat orangeはココア・チョコ・いよかんピールのビターさが活きたパン。イートインできるようにと、ケーキのように1/8に切り分けた販売も

自家製ナツメヤシ酵母で作られた“linen(リネン)”1ホール760円、1/2 380円 1/4 190円

美味しいパンを作る方は、子どもの頃からパンが大好きだったのだろうと思いきや、「パンよりも白いごはんに梅干しとちりめんじゃこ」「カレーよりも干物」「誕生日ケーキは生クリームなし」という、好みの渋さ!(笑)
パンが嫌いなわけではなく、砂糖やバターの甘い香りが苦手なのだとか。だから、彩香さんの作られるパンは砂糖や油脂がたっぷり入ったタイプのものは無く、ご飯のようなパンや自然な甘さのパンばかりなのですね。



お客様と彩香さんの微笑ましいひとこま

パン好きが高じてパンの作り手になったのではないとすると、きっかけが気になります。
アパレル会社に就職された後、イタリアの皮製品のブランドに関わったのをきっかけに「手から生み出されたものが、誰かの幸せに繋がることの喜び」を知ったそうです。
そして仕事仲間と訪れたある家庭で、ご馳走になった自家製ハーブパンが衝撃的に美味しく、「自分でもパンを作ってみたい!」と思われたのだとか。
それも、一から全て自分の手で生み出す“天然酵母”で。自然の力と、自然の流れの中で作りたい・・・それが今から7〜8年前。
最初は硬くて酸味のあるパンしかできなかったそうですが、「小さい子どもからお年寄りまで、みんなが喜んで食べてくれるパン」を目指し、今のパンがようやく生まれたのです。
「きっと、パン作りに完成はないのだと思っています。そこが、また大きな魅力でもあるのですよね。自然の力に感謝し、自然の力に驚かされる日々です」。
謙虚でひたむきなその姿勢が、そのままパンに表現されていると感じました。
最近発売になったあんぱん

甘いパンの中で私の一番のお気に入り! chocolat cherry。温めればチョコがとろりと溶け出すが、個人的には温めずチョコの歯ごたえと生地の弾力を楽しむのが好き
そして、カウンターに並ぶのはパンだけではありません。
パンを美味しく頂く為のオリーブオイルや塩。
ジャムの瓶も・・・この『Myu-rica』ジャム、接客を担当されている米花紀子さんのお手製なのです。(紀子さんはお料理教室もされていて、『ON THE DISH』のイートインメニューも手がけていらっしゃいます)
ほぼ月替わりで登場するジャムも私の楽しみの一つになりました。
定番の“アーモンドプラリネ”もかなりオススメ!
香ばしい香りと控えめな甘さ、驚かされたのが食感。パリップチッ!と・・・これはぜひ召し上がってご自身で確認してください。
私はチョコレート系のパンに塗るのが好きです。またこれをベースに酢・砂糖・醤油など混ぜてしゃぶしゃぶのタレにもつかってみたりしました。
ジャムやオリーブオイルなど、パンのお供も販売されています

ちょっと前の話になりますが・・・1周年を迎えられた『ON THE DISH』さん、4月29日&30日に予約制で“1周年プレート”を提供されました。
苺とバニラのジャムを使ったソーダでまず喉を潤します。



1周年記念プレートに添えられたドリンク、
苺のジュレソーダ

1周年記念プレートと記念プレートに添えられたパンたち

彩香さんのパートナーさん(接客もされています!)が今年の春に何十本と掘った筍はグリルして香ばしさを出し、木の芽とともにマリネ液へ。
グリーンピースのマッシュポテトはガーリックと塩がキリッと効いています。



お庭で採れた筍のマリネ
鶏ハム入りのサラダは夏みかんの甘酸っぱいドレッシングがとても美味しい!
苺とトマトのバルサミコマリネは、サラダともデザートとも取れる一品。紀子さんのお料理は素材の味を充分に引き出していて、深い満足感に浸れました。
添えられたパンはリネン・黒糖カンパーニュ・フォカッチャ。
あぁ、リネンは久しぶりに食べるなぁ・・・と口に近づけた時、粉のいい香りにドキッ!
今までなぜあまり買うことがなかったんだろう?!と、美味しさ再発見です。その感激を伝えると
「リネンだけは、パンを作る日の朝に自家製粉している石臼挽き全粒粉を使っているのです」。
“リネン”の香りの良さにドキッ!
これからはさらに紀子さんとのコラボレーションを楽しめる機会を増やしたいともおっしゃっていました。
私が考えるパン屋さんの魅力の一つに、“パン屋のサンドイッチ&イートインメニュー”があります。
パンを一番美味しく食べる方法はパン屋さんが知っている。だからサンドイッチやイートインメニューからパンの楽しみ方や美味しさに気づかされる事が多々あります。
1年目の『ON THE DISH』さんでは、ホットドッグや花巻サンド・オニオングラタンスープ・ピザトーストなどが登場しましたが・・2年目はどんなメニューでワクワクさせてくださるのか楽しみです!


『ON THE DISH』
横浜市中区仲尾台40
045−622−1107
金曜日&土曜日 11:00〜17:00
※予約は木曜日の15:00〜17:00に電話
 or木曜日午前中にメールにて受付
※取り置きは営業時間内に電話にて




【寄り道情報】

『安部青果』
山手駅と『ON THE DISH』さんの間にあります。国産の美味しい野菜と果物がいっぱい!
また、店の奥には真っ当な調味料や自然食品なども並べられ、日々の食生活を豊かにしてくださるお店です。
『ベッケライ・スギヤマ』
現在『ON THE DISH』さんのイートインメニューにある花巻サンドに使われている炭火焼焼豚や、以前提供されていたホットドッグに使っていたソーセージはこちらのもの。
外観は普通のお肉屋さんのようですが、ドイツで何度も賞を受賞したマイスターが作るベーコンやソーセージの数々は絶品揃い!
『根岸森林公園』
食べ物とは関係ありませんが・・・お天気の良い日はぜひ!
緑にあふれる広大な公園。馬の博物館もあります。私が好きなのは、競馬場跡(旧一等馬見所)。廃墟好きならそのカッコよさにゾクッとするはず!
おまけのおまけ!!
『ベッケライ・スギヤマ』の向かい側にある老舗和菓子店『喜月堂』さんの“喜最中”。たっぷり挟まれた餡!白餡+栗の方はちょっと甘すぎるかな・・・という感じなのですが、粒餡の方はしっかりとした甘さの中にもキレがあり、たまに食べたくなります




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