「フランク・フレッソン」フランク・フレッソン氏



「フランク・フレッソン」があるのは、フランス東部のジャーニーとメッス。かつて炭鉱が盛んだった町、メッスへの敬意を込めて作られたのがスペシャリテの「ミヌレ ロレーヌ」です。箱を開けるとふわっと広がるナッティな香り。その秘密は、ピエモンテ産ヘーゼルナッツを砕いて煎った自家製ジャンドゥジャにあり。軽やかな口当たりからは想像がつかないほどのリッチなナッツの味わいに、衝撃を受けた人も多いのでは?かくいうパナデリアも、そんな「ミヌレ ロレーヌ」の大ファン。実はこのショコラが誕生したのは1950年代、フランク・フレッソン氏の祖父の時代というから驚きです。祖父の代からの伝統を引き継ぎつつ、新たな味作りにも挑むフレッソン氏の初セミナー。どんなショコラで沸かしてくれるのでしょうか?

「ミヌレ・ロレーヌ」香り高く口溶けの良いジャンドゥジャにたっぷりのカカオパウダーをまぶしたショコラ。ナッツ好きにはたまりません!



「今日は、サロン・デュ・ショコラ会場では買うことができないチョコレートケーキ、「ミ・キュイ」を食べてもらおうかと思っています。10分もあればできてしまう、簡単なものですよ」
サロン・デュ・ショコラではショコラティエとして来日しているフレッソン氏ですが、実はパティシエとしても著名な方。パティシエのM.O.Fであり、ルレ・デセール会員でもあると聞けば、自然と期待が高まります。

「ミ・キュイというのは“半生の”という意味。生地はすぐできますが、一晩寝かせるのがポイント。残念ながら、これから作るものは、明日焼いて食べることになります」
え?!ということは今日の試食は無し・・・?と思ったら、もちろん、これは冗談。試食用に昨夜仕込んだものがあると聞いて、参加者もほっとひと安心。明るく気さくなフレッソン氏の言動に思わず笑いがこぼれます。


黒を基調としたブースはシックな印象。ショコラだけでなく、ギモーヴやヌガーも気になります



さて、テーブルに並べられたのは、卵、砂糖、チョコレート、バター、そしてフレッシュのフランボワーズの5品。確かにこれなら簡単に準備できそうです。では、肝心のチョコレートは何を使っているのでしょう?
「えーと、会社名言ってもいいの?あ、それなら名前だけ。『グラン・クヴァ』です」
こっそり教えてくれましたが、チョコ好きの方ならすぐピンとくるはず。農園限定のカカオ豆を使用したヴィンテージ・チョコレートで、フルーティーな香りとまろやかな味わいが特徴。これは出来上がりが楽しみです。

チョコレートもバターも、溶かす時は電子レンジで手軽に。でも、合わせ方は慎重に。チョコレートにバターを少しずつ注いで馴染ませます



「これ以上ないほど、シンプルです。私は難しいお菓子の作り方は知らないので(笑)」
その言葉どおり、作り方は本当にシンプル。まず、チョコレートはボウルに入れて電子レンジで溶かし、溶かしバターを加えておきます。続いて別のボウルに全卵とグラニュー糖を入れ、少し白っぽくなるまで攪拌。そこにチョコレート+バターを入れて合わせ、最後にふるった粉を入れて混ぜたら出来上がり。話を進めながらあっという間に生地が完成すると、フレッソン氏がひと言。
「これで出来上がり・・・さようなら!」
・・・いえいえ、帰られてはこまります!でも、フレッソン氏の楽しそうな表情につられて、参加者もすっかり寛ぎモードに。

卵生地とチョコレート+バターをホイッパーで混ぜ合わせ・・・

その後粉を振り入れて合わせて・・・

粉気がなくなれば、生地の完成!



続けて、冷蔵庫で24時間寝かせた生地を、型に詰めます。
「私の店では、この型を使っています」
そう言って取り出したのは、スリムなパウンド型。幅4.5cm×高さ4p×長さ21cmで一般的なものよりも横幅が狭く、また上下の幅が同じなのが特徴。この型、どこかで見たことがあるような・・・
「実は、僕の友人、「エーグルドゥース」の寺井シェフから取り寄せたもの。繊細で洗練されたデザインがいいですよね。店では、この型を使って12種類のケークを焼いています」
エーグルドゥースで使用しているケークの型は、寺井シェフが考案した特注品。そのデザイン性の高さにはフランス人シェフも一目置いているというから、すごい!中でも、寺井シェフが入会しているルレ・デセールのメンバーの間では密かな人気なのだとか。残念ながら普通に購入することはできませんが、深さのある型なら大丈夫とのこと。

「この型で焼いたケークをプラスチックケースに入れて販売しています。とてもモダンなイメージになりますよ」とフレッソン氏



さて、型に生地を詰める前にひとつ準備しておくことがあります。
「バターと強力粉を合わせてポマード状になるまで混ぜ、それを刷毛で型の内側に塗っておきます」
え?!・・・でも、普通はバターと粉を別々につけるのでは?
「こうすることで、バターを塗って粉をはたいた要領にしてあるんです」
確かに。一緒につけてしまえば、とても効率的。早く作業を進めるにはこうしたさりげない工夫も大切なことなのかもしれません。

フランボワーズはフレッシュが理想ですが、冷凍品でも可能とのこと



最後に、型の中に生地の半量を詰めてフランボワーズを敷き詰め、残りの生地を詰めたらオーブンへ。
「今日は時間の都合もあるので、先に準備しておいたものを試食していただきます」
・・・と言い残すと、フレッソン氏、何故か控え室の中へ。
実は、ここからが腕の見せ所。ミ・キュイの状態で食べてもらうには、焼き方が最大のポイントなのです。また、カットするときの厚みについても、アシスタントに細かく指示をしていたそう。作り方は簡単ですが、きちんとケアしなければ印象がガラリと変わってしまうのが、この、ミ・キュイ。とてもデリケートなお菓子なのです。
「1日目に生地を作ったら、2日目に焼成して3日目に食べる、というのが理想。そして食べる時には、電子レンジに10〜20秒かけてから切り分けてください。今日は初めて使うオーブンに慣れなくて、30秒焼きすぎました!」
とはいえ、半生状態で見るからにやわらかそうな生地は、フォークがスッと抵抗感なく入ってしまうほど。しっとりとして粉のポソ感は全くありません。なめらかな口溶けは、まるでガナッシュのよう!それにしても、このしっとり感。焼き時間が短いという点以外にも、何か秘訣があるのでしょうか?

「ミ・キュイ」まろやかでフルーティーなカカオの風味が、フランボワーズとも好相性


「冷蔵庫で寝かせて充分に冷やした生地を焼く、というのも大切なポイント。生地が冷たいと中に火が入るまでに時間がかかりますよね。だから、ミ・キュイになりやすいんです」
というわけなので、チャレンジしようと思っている人は、くれぐれも常温に戻してから焼いたりしないように。焼成加減がなかなか難しそうですが、是非試してみたいと思わせるおいしさでした。


ひととおりミ・キュイを堪能した後は、質問タイムに。ある女性からはこんな質問が。
「ヌガーがすごくフレッシュでおいしかった!普通のものよりもかなり薄いと思ったのですが、何かわけがあるのでしょうか?」
ヌ、ヌガー?!それは大いに気になる話。
「そのほうが食べやすいでしょう?普通のヌガーみたいに、100回も200回も噛んで口の中でぐちゃぐちゃになるのが嫌だったんです(笑)。だから、2回噛んだら口の中にすっと入っていくように作っています」
それは魅力的!“絶対にヌガーを買って帰らなくちゃ!”そう思ったのは、どうやらパナデリアだけではなかったようす。セミナー後にフレッソン氏のブースを覗いてみると、既にヌガーは空っぽの状態・・・。うーん、残念!そしてもうひとつ、ギモーヴをチョコレートでコーティングしたギモーヴ・ショコラも密かな人気だったようです。

スライドでは生菓子も紹介。これを見たら、やっぱり現地に行ってみたい!


「今日は皆さんと喜びを分かち合うことができて、とても嬉しく思っています。東京のサロン・デュ・ショコラはとても規律正しく、それでいて楽しい雰囲気が印象に残りました。まじめで誠実なのは大切なこと。でも、やっぱり楽しい人生を送らないとね」
パティシエとショコラティエ、2つの顔を持つフレッソン氏も、常に両者のバランスをとりながら楽しむ姿勢を忘れないように過ごしているとのこと。そして、2人の子供を大切にする良きパパであるという一面も。そんな楽しさや優しさがいっぱい詰まった味わいが、心に残るセミナーとなりました。





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