「Fabrice GILLOTTE」ファブリス・ジロット氏



サロン・デュ・ショコラ初日の1月23日、「エル・ア・ターブル」が主催するセミナーが開催されました。「エル・ア・ターブル」は、世界5カ国で発行されている、「ELLE(エル)」の料理雑誌シリーズ。食を切り口にした豊かでおしゃれなライフスタイルを提案しています。その「エル・ア・ターブル」が、ファブリス・ジロット氏のセミナーを企画してくれたとあって、参加者たちも興味津々。今か今かと期待が高まります。

2008年3月号は野菜がテーマ。3人の野菜名人が、旬の野菜を使ったレシピを披露してくれます。その他、オリーブオイルの使い分けレッスンやスパークリング酒特集なども



さて、ジロット氏といえば、ブルゴーニュで採れたフランボワーズやカシスなどのフルーツを、ガナッシュとジュレに閉じ込めたボンボン・オ・ショコラ「テロワール・ド・ブルゴーニュ」が代表作。薄いチョコレートのベールの中からあふれ出すのは、フレッシュな果実の香りと旨み。その衝撃的な味わいに虜になってしまった人も多いに違いありません。昨年のセミナー時には、この「テロワール・ド・ブルゴーニュ」をイメージしたデザートが披露されて、大盛況。更に新作のボンボンも早々に完売、と話題に事欠かないジロット氏ですが、今年は・・・?
(昨年のセミナーのようすはこちら

フルーツが主役の「テロワール・ド・ブルゴーニュ」。フランボワーズやカシスなど、地元ブルゴーニュ地方のフルーツの香りが鮮烈!



「私は毎年この場所に立てることを本当に光栄に思っています。仕事を始めた当初は、まさかこうして日本で私のショコラが紹介されるようになるなんて思ってもいませんでしたから。そのことに常に感動と驚きを覚えているのです」
穏やかで優しい眼差しが印象的なジロット氏。丁寧な挨拶で幕を開けると、会場内はすっかり柔らかなムードに包まれます。

「今日は、私の店にも出していない、特別なショコラショーをご紹介しましょう。それは、フランボワーズとローズの香りを付けたショコラショー。実は「サンテュール」のローズ&フランボワースを、ボンボンとは違った形でプレゼンテーションしたものなんです」
「サンテュール」との言葉に、場内からは早くも歓声が。これは昨年披露された人気のボンボンショコラ。花のガナッシュとフルーツのジュレを組合わせたもので、香り(サンテュール)とフルーツのマリアージュがテーマになっています。中でも一番人気が高いローズ&フランボワーズの組み合わせのショコラショーというから楽しみです。どんなものが出来上がるのでしょうか?

たくさんの花がディスプレイされた「ファブリス・ジロット」のブース。鮮やかなブルーが印象的です



まずはショコラショーに使う材料の説明から。
「用意してもらうのは牛乳と生クリーム(脂肪分33%)とカカオ分67%のクーヴェルチュール・ノワールだけ。とにかくシンプルです」
細かく刻んだクーヴェルチュールを熱した牛乳と生クリームに加えて混ぜる、という手順は普通のショコラショーと同じ。ただし、混ぜ方には大切なポイントがあるようです。

「クーヴェルチュールを加えるときには・・・おっと、いけない!」
ジロット氏が熱心に説明している間に、なんとテーブル脇で沸かしていた鍋の中身が吹きこぼれそうに!慌てて電磁調理器のスイッチを止めると、すかさず、
「いつもスタッフには言っているんですよ。話しながら作業すると、ミスするから絶対に駄目だって。本当にその通りになりましたね(笑)」
肩をすくめていたずらっぽく苦笑い。お茶目な仕草に会場から笑いがこぼれます。

使い慣れない電磁調理器に悪戦苦闘?!もちろん、普段は完璧です



さて、気を取り直してスイッチを入れ直し、作業再開。ホイッパーを使ってクーヴェルチュールを鍋の中に加えていきます。
「牛乳と生クリームを沸かした鍋の中に、3回に分けてクーヴェルチュールを加えていきます。一度に加えてしまうと綺麗に乳化させることができないんです。水分と油分がしっかりつながり、とろっとした状態になれば大丈夫」
ショコラショーは滑らかさが命。そのためちょっとした混ぜ方や見極め方が鍵となります。シンプルとはいえ、やはりチョコレートはデリケートな素材なんだと実感。

説明しながら、全てのクーヴェルチュールを無事に投入。でも、その後もホイッパーをぐるぐる動かしたまま。何かわけがあるのでしょうか?
「中にたくさん空気をとりこんで、ふわっと軽い口当たりにしたいからなんです。細かいムース状になるように、2〜3分ほどホイッパーで混ぜ続けます。このとき、決してぐつぐつ沸騰させないこと。表面がふるふると踊るくらいの火加減をキープしてください」

暫く混ぜ続けていくとふんわりとボリュームが出てきます


こうして完成したショコラショーをカップに移して、各テーブルへ。見るとソーサーの上にはスポイトとキャンディのようなものが添えられていますが・・・?
「あ、待って待って!」
早速いただこうとした参加者を、慌てて引きとめるジロット氏。
「もう少し辛抱してくださいね。今、きちんと食べ方を説明しますから」
どうやら、飲み方にもこだわりがありそうです。


スポイトでシロップをピュッと注入してスティックキャンディでぐるぐる・・・この作業もワクワクします!


「スポイトの中には、ローズシロップが5ml入っています。まず、これを全部カップの中へ。それからスティックに刺してあるキャンディで中をかき混ぜてから、召し上がってみて下さい。実はこのキャンディは、フランボワーズのパート・ド・フリュイなんですよ」
なるほど。チョコレートとローズとフランボワーズの組合わせは、まさしく「サンテュール」!ふんわりとした口当たりが優しいショコラショーは、とろんと滑らか。すっきりとキレのあるカカオの味わいの中から、ローズの香りがエレガントに香ります。続けてパート・ド・フリュイを少しだけかじり、口中に残したままショコラショーをひと口。すると今度は爽やかなフルーツの酸味がプラスされた爽やかな味わいに。こうして繰り返しながらいただくと、食べるたびに新しい味と香りの組み合わせが巡ってきます。もちろん、あっという間にカップの中は空っぽに。

ショコラショーに使われた、プロヴァンスのローズシロップ。近々、伊勢丹で販売されるかも?!


「今度はボンボンショコラ『サンテュール』のローズ&フランボワーズを食べてみてください」
こちらの方はフランボワーズのジュレをローズのガナッシュで挟み、ショコラノワールでコーティングしたもの。花とフルーツの調和を、カカオの程よい苦みが引き立てています。フランボワーズのフレッシュ感が際立ち、ローズの余韻もこの上なくエレガント。これについては、
「カカオの風味が強すぎると、フルーツや花の香りがカバーされてしまうんです。だから、比較的まろやかなチョコレートを選ぶことがポイント。私は、エクアドル産のアリバ種のものを使っています」

さらりと説明するジロット氏ですが、実際に香りと味のバランスをとるのはとてもデリケートな作業。花とフルーツの種類によって微妙に配合を変えるなど、繊細な感性が必要なことは言うまでもありません。そしてもう一つ、ジロット氏ならではこだわりが。 「最大のポイントはガナッシュの間にジュレを挟んでいるというところ。これは、誰にもできないオリジナルのテクニックなんですよ」
ジュレを使ったボンボンショコラというと、ガナッシュとジュレを2層仕立てにしたものが一般的。ところが、ジロット氏の場合は、ガナッシュ、ジュレ、ガナッシュの3層構造になっています。口溶けよくやわらかなジュレが間に入ることで、ガナッシュとの一体感が生まれ、なめらかな食感を楽しむことができるというわけなのです。

「サンテュール」誕生のきっかけは、一昨年のサロン・デュ・ショコラ東京。「たくさんいらした女性のお客様のために何か作れないかなって、飛行機の中で考えていたんです」


ジロット氏が生み出した新しい製法によるボンボンショコラ、「サンテュール」は全部で4種類。ローズ&フランボワーズの他にも、ジャスミン&アプリコット、イランイラン&マンゴーなどがありますが、どのように組み合わせを考えているのでしょうか?
「一番に“テロワール(郷土)”を大切に考えました。同じ土地で採れるものは相性がいいんです。例えば熱帯で採れるイランイランとマンゴーや、南仏産のジャスミンとアプリコットというように。最近、良く“マリアージュ”といいますが、この場合もまさに“結婚”ですよね。違うキャラクターを持った素材同士が結婚することで、より相乗効果を出すことができるのではと思っています」 
本当に、カカオとローズとフランボワーズを組合わせることで、こんなにも女性らしくエレガントになるなんて。きっと、テロワールに込めたジロット氏の想いもたっぷり詰まっているに違いありません。

抽選でファブリスジロットのボンボンと、「エル・ア・ターブル」年間購読のプレゼントが。当たった人が羨ましい〜


最後に、こんな質問も飛び出しました。
「昨年、桜の花に興味津々でしたよね。是非製品にしたいとのお話でしたが?」
日本といえば、桜の国。その桜をショコラに活かすことができれば、そうひらめいたそうですが・・・?
「あれこれ試してはいるのですが、これがなかなかうまくいかなくて。以前、パウダー状のものや、桜の花の塩漬けなどを使ってみました。でも、パウダーではあまりいい香りが出せないし、塩漬けの塩を抜いて使おうとすると味や香りが抜けてしまう。チョコレートに合わせるには弱すぎるようです」

天然の桜エッセンスがあれば理想的、とのこと。ちなみにサンテュールのローズ&フランボワーズには、南仏の調香師にお願いした天然のローズエキスを使っているそうです。お薦めの桜エッセンスがあるという方は、是非ジロット氏までご一報を。来年こそ、桜のボンボンショコラが披露されることを祈っています!
「桜はもちろん、日本にはいい素材がたくさんあります。例えば柚子。これはフランス人の間で、とても評価が高いものなんですよ」
お菓子の材料に関して言うと、日本ではフランスのものがもてはやされる風潮があります。フランス産のバターや粉は確かにおいしいかもしれない。でも、わざわざ輸入をして高価なお金をかける必要はないのでは?とジロット氏。


「ファブリス・ジロット」のブースに、「ミュゼ・ドゥ・ショコラ テオブロマ」の土屋シェフが登場!「ジロット氏はチョコレートのことを本当に知り尽くしている人。ショコラティエの間でも、一番おいしいって評判なんです」




「各国それぞれにいいものがある。それを忘れないで下さい」 地元に対する愛情と親しみを込めて―。おいしさの一番の秘密はそこにあるのかもしれません。





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