「オーバーワイス」 ジェフ・オーバーワイス氏 

日本初出展「オーバーワイス」製造責任者のジェフ・オーバーワイス氏


サロン・デュ・ショコラ会場内でも、一際大きなブースを展開していたのは、日本初出展の「オーバーワイス」。今回は、製造責任者のジェフ・オーバーワイス氏が来日しました。
ルクセンブルクの“大公御用達”という名門店。しかも、初代創業者の父は「ルレ・デセール」の名誉会長を勤める大御所というから、さぞ格式高い方なのでは・・・と、ちょっと構えてしまいましたが、そんな先入観はセミナーに参加して一変。好奇心旺盛で革新的な2代目のジェフ氏は、オーバーワイス家の技術と伝統をしっかり受け継ぎつつ、私たちがあっと驚くような新しい感覚のショコラで、会場を沸かせてくれました。
西ヨーロッパの隣国の影響を融合させた、ルクセンブルグのショコラとは?そして、セミナー参加者を驚かせた、オーバーワイスの話題の新作とは・・・?

ブースには、スペシャリテのトリュフをはじめ、バウムクーヘンをチョコレートでコーティングした「ショコバムクフ」など約10点の商品が並べられました

アルコールをしっかり利かせたキャラメルシャンパーニュなどのアソート、オーバーワイスの代表作「トリュフ」(12個 \3,570)



ルクセンブルクって、どんな国?まずはそんな疑問が浮ぶ人も少なくはないはず。ルクセンブルクは、南のフランス、西と北のベルギー、東のドイツに挟まれた、ヨーロッパの小さな国。人口はわずか約46万人、国土面積は神奈川県ほどの広さですが、経済は世界トップレベルの豊かさを誇ります。

オーバーワイスの原点は夫婦ではじめた小さな菓子店から。・・・サングラスがキマッテます



オーバーワイスが開店したのは、1964年のこと。ジェフ氏の父親である、先代のピット・オーバーワイス氏と妻のモニカさんが始めた小さな菓子屋は、たった一代でいまや約270人の従業員を抱える大企業に成長しました。本店には、最近新しくしたラボラトリーを構え、150人もの従業員が勤務。立派な機械を揃え、システム化された工場内では、ガトーからショコラ、グラス、ヴィエノワズリそしてトレトゥールまでの幅広い商品が生産されており、レストランも連日満員という盛況ぶり。

オーバーワイスの新しいラボラトリー

合理化・機械化の中でも、必要部分はきちんと人が仕上げ、手間隙は惜しまないのがオーバーワイスの精神



さて、ジェフ氏がセミナーで披露するのは、オーバーワイスの話題の新作「テキーラロワイヤル」。今回のサロン・デュ・ショコラには出品できなかった商品というから、期待が高まります!

新作「テキーラロワイヤル」 パッケージも形状もモダンで新鮮!形状からは想像のつかないユニークな食べ方に、要注目



まずは、ボンボンに入れるガナッシュ作りから。生クリームを温め、溶かしたクーベルチュールに少しづつあわせていきます。クーベルチュールは、カカオ40%のミルクチョコレートを使用。ガナッシュが出来たら、レモン汁と、リモンチェッロを加えます。

「今回はミルクチョコレートなので、乳化には余りデリケートになる必要はありませんが、ガナッシュをきっちり作るためには、テクニックと素材選びが重要。目指しているのは、喉にカカオの香りと味わいが残るようなガナッシュ。チョコレートのみならず、ナッツやリキュールなども素材は全て厳選しています。リモンチェッロは、シシリー産。これをミルクチョコレートと組み合わせることで、甘さを抑えると同時に、素晴らしい香りをもたらします」

レモン汁とリモンチェッロは、しっかり風味を残すために、ガナッシュを作った後の工程で加えます

こちらが、選び抜かれたシチリアのリモンチェッロ。キレの良さと爽やかな香りが特徴



最後に、ポマード状のバターを加え、ブレンダーで生地をしっかりと混ぜ合わせます。
これを、絞り袋に入れてチョコレートのケースへ。ケースはオーバーワイス製のオリジナル。

・・・さて、ここで問題。ジェフ氏の絞り袋は、日本ではあまり見かけない青色ですが、何故この色なのでしょうか??



答え 『EUの規制で、食品製造に使用するプラスチックは全て青色にするという決まりがあるため(異物混入を未然に防ぐ)』

この規定に則って、オーバーワイスの工場では、タブリエ(エプロン)も全てブルーのものを使用しているのだとか。
「僕が今日着ているタブリエでは、怒られてしまいますね(笑)。でも、工場ではちゃんとブルーのものを着用しています」
とジェフ氏。食品安全問題への厳しい目線は、日本と変わらないのですね。さすが、経済大国ルクセンブルク!

流行の兆し?これが「ピペット」。元はれっきとした医療器具です


さて、トリュフにガナッシュが入ったところで、次はピペットの準備。ピペットは、いわゆる医療用のスポイト。こちらのタイプは容量5mlで、今回はこの中にテキーラを注入します。中に気泡が出来ないように、振って中の空気を抜きます。ホワイトチョコレートのキャレに孔をあけたもので、ボンボンにフタをし、ピペットを通します。

これで出来上がり。なんともユニークな形状のボンボンですが・・・


さて、いよいよ試食です。これにはちょっとした手順が必要。まずは、ジェフ氏がお手本を。

まずは、手の上に塩をのせてひとなめ。

トリュフをぱっくん、モグモグ・・・

そして、最後にピペットに入ったテキーラを、口の中にチューッと注入!


食べてみると、ミルクチョコレートの甘みを塩がキリッと引き締め、リモンチェッロの爽やかな香りをさらに引き立てます。最後に、テキーラがカーン!と喉の奥を通り抜け、これは体験してみないと分からない独特の爽快感。参加者のびっくり顔に、ジェフ氏はにんまり。さて、どうしてこんなユニークなアイディアが思いつくのでしょうか?

「オーストリアにスキーに行った時に飲んだ、コーラとテキーラを混ぜたカクテルからインスピレーションが沸きました。これは、チョコレートにも応用できるのではないか?って。実は、妻がとてもこの商品を気に入って、車の運転をしながらなんと1箱全部(8個分)も食べてしまったんです(笑)。みなさんは、運転中は一粒くらいにしてくださいね」

・・・って、一粒でもダメですよ!新作チョコのサプライズに加えて、テキーラが効いたのか、会場のテンションがにわかにアップ。

「他は、塩のかわりにコショウやタバスコ。リモンチェッロの代わりにトマトジュースを使ったり、テキーラの代わりにウォッカにしたり・・・様々なバリエーションを愉しめます」

なんと、当初は栄養ドリンクの「レッドブル」にドイツの薬草酒「イエーガーマイスター」を組み合わせたかったのだとか。これは、ドリンクメーカーの方からNGが出て、製品化ならずだったそうです。うーん、どんな味だったのでしょう?とにかく、アイディアが豊富で、少年のように好奇心旺盛のジェフ氏。革新的な発想で、まさにオーバーワイス家を牽引する存在のようです。今回は2回目の来日だったそうですが、日本の食材へも興味津々の様子。

「ヨーロッパでは、ヘルシー思考の人が牛乳の代用品として飲む“レドゥリ”(ライスをプレスして抽出したミルク)というものがあるのですが、その“レドゥリ”を日本酒と組み合わせて新しいボンボンにしても面白いかな。それから、昨夜も日本食のレストランに行って、グルテンの無い粉に出会いました。これは面白いので是非買って帰ろうと思ってるんです」

グルテンの無い粉って・・・米粉?なんだろう・・・?

「ソバ!」

・・・なるほど。日本人にとっては当たり前の食材でも、ジェフ氏から見れば、様々なインスピレーションを与えてくれるアイディアの宝庫なのでしょう。他にも、寿司や豆腐など日本食は大好きで、今年の新作には「柚子」も使っているそう。そういえば、新作に柚子を使っている海外ショコラティエが、今回のサロン・デュ・ショコラではいくつか見受けられました。同じ柚子でも、ショコラティエによって表現の仕方、組み合わせ方は千差万別。是非、オーバーワイス流の「柚子」のボンボンも味わってみたいもの。次回のサロン・デュ・ショコラでは、どんな「伝統と革新」のショコラがオーバーワイスの元で展開されるか楽しみでなりません。



〜おまけ〜
ジェフ・オーバーワイス氏から、2008年バージョンのオーバーワイスオリジナルのフェーブをいただきました!毎年、ガレット・デ・ロワ用にオリジナルのフェーブを作っているそう。今回のコレクションは「ルレ・デセールのケーキ達」。中央のケーキはエルメスのポーチをイメージしたアントルメで、ルレ・デセールのガイドブックの表紙を飾ったもの。これはもう、家宝にしなくては・・・!





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