「プラリュ」 フランソワ・プラリュ氏 



カラフルなパッケージで包んだ正方形のタブレットを積み上げた、その名も「ピラミッド“トロピック”」。一度に10種類もの産地別ショコラを味わえるこの逸品は、すっかりプラリュの代名詞的存在になりました。このショコラが初めてサロン・デュ・ショコラ(SDC)東京にお目見えしたのは、今から3年前。何種類ものボンボン・オ・ショコラを揃える店が多い中、タブレット一本勝負で挑んだプラリュ氏の勇ましかったこと!それもそのはず、プラリュといえば、カカオ豆の選別から焙煎、加工までを手がけることで有名。さすがはベルナシオン、ボナに並ぶ3大ショコラトリーのひとつといった風格でした。

うず高く詰まれたピラミッドは、会場でもひと際目を引く存在

ピンク色のプラリーヌを練りこんだブリオッシュ・ド・プラリュも密かな人気



その後、以前お土産でいただいたカカオニブ入りのショコラバー「ブリュ ドゥ サオトメ」の衝撃的な味が忘れられず、’05パリのSDCではプラリュのブースに足繁く通っていたパナデリア。なんと、’06のSDC東京ではパナデリア主催のセミナーが実現。続く’07年は取材のため一緒に天麩羅ランチを楽しんだかと思えば、ついには現地の工房を見たい気持ちが膨らんで、フランス、ローヌ・アルプ地方のロアンヌまでひとっ飛び。とにかく、パナデリアにとってプラリュ氏はなくてはならない存在なのです。もちろん、今年のセミナーもスタッフ総出で参加させていただきました。
(プラリュ氏の以前の記事はこちら→
http://www.panaderia.co.jp/members2/craftsman/ar_pralus2/index.html
http://www.panaderia.co.jp/topics/sdctokyo2006/pralus.html )

ロアンヌの工場にて。常に味見(つまみ食い?)を欠かさないプラリュ氏

工場でずらりと並ぶピラミッドを発見!

現地のお店には、たくさんのタブレットやボンボン・オ・ショコラの他、ケーキや焼き菓子までがずらり


「今日は、『ピラミッド』シリーズの“サブール”と、それから『カカオティー』の試食をしていただこうと思います」
とプラリュ氏。産地別ショコラを積み上げた“トロピック”に対し、昨年お披露目された“サブール”は、マダガスカル産のカカオをベースに様々なフレーバーを組合わせたタブレット。同じカカオ豆から作られるショコラですが、いったいどんな変化を見せてくれるのでしょうか。そして、カカオティーなる耳慣れない言葉も気になります。
「でも、その前に・・・」
会場内に設置されたスクリーンに目を向けながら、
「まずはカカオの木のことや私の農園について工場のこと、それからチョコレートができるまでをお見せしましょう」

カカオ農園のまわりは見渡す限りの空と海。いいカカオ豆のためには環境も大切です


実はプラリュ氏、カカオ豆に対する並々ならぬ想いが募り、マダガスカルで自分のプランテーションを手がけるように。“サブール”は自家農園で育てたカカオ豆を自家工場で製品に仕上げるという、たいそう大がかりで贅沢なショコラなのです。
「マダガスカルにあるノシベという小さな島。パルファン(香り)の島の愛称で親しまれているところに、私のプランテーションがあります。イランイランの花が咲き誇っていて、それはそれは綺麗ですよ。いいカカオ豆を育てたいと思ったら、やはり美しい景色が必要でしょう?」
プランテーションから見渡す景色は一面の真っ青な空と海!雄大な大自然の中でカカオの木もすくすくと育ってくれるに違いありません。

カカオ農園の現場はぬかるみの中や茂みの中を進むジャングル状態

小さなカカオの苗。成長のためには適度に日陰であることと、湿度が必要

カカオポッドの中には真っ白な果肉が。ひとつひとつ手で丁寧にとり出します


まるで楽園のような美しさにうっとりしてしまいますが、現実にカカオを育てる作業はかなりの重労働。カカオの木は直射日光が苦手なため、森の下の茂みで生育させるのが良いと言われています。プラリュ氏のプランテーションがあるのも、そんな厳しい自然の中。四輪駆動で荒れ地をぐいぐい進み、草木が生い茂る森の中へと進むと、そこには20ha近くものプランテーションが。雑草を抜いて綺麗になったところに、たくさんの苗木を植えつけるのですが、この苗木、実は別の場所で育てて良いものだけを選別するというひと手間を経たもの。その数、なんと1haあたり1000本にもなるというから驚きです。

発酵場所の温度は50℃を超える暑さ!発酵臭も強く、スモークがモクモクと!

大きな麻袋にカカオ豆を詰めたものを出荷。女性の姿もたくさん見られます


「このプランテーションにはたくさんの人が働いています。そして仕事のほとんどは手作業で行われています」
3年が経つ頃、5〜7mに成長したカカオの木は実をつけ、やがて収穫期を迎えます。ラグビーボール状の大きなカカオポッドをひとつひとつ手で摘みとり、頭の上に乗せた籠に積み上げて運ぶ姿は、雑誌などで見たこともあるのでは?その後カカオポッドを割って中の豆をとり出し、木箱に入れて発酵させ、洗浄した後、更に天日で乾燥・・・といった全ての仕事が昔ながらの手作業。驚くほど多くの人の力で成り立っているのです。
「この段階で、私が選別をします。乾燥させた豆を実際に目で見て口に含んでみて、良いものだけを麻袋の中へ。もちろん、他の国のものも、買い付けた豆全てを同じようにチェックしています」
豆の品質にこだわるプラリュ氏にとっては、この段階がとても大切。年に何回も現地に飛んでいるというからさすが!“カカオの冒険家”なる愛称にも納得です。
手間隙かけて育てられたカカオ豆がフランス・ロアンヌにある工場に届いたら、今度は職人プラリュ氏の出番。ロースト、微粒化、精錬などの工程を経て4日後にようやくクーベルチュールが完成。カカオの種を植えるところから考えると、驚くほど気の遠くなるような作業なのです。

サブールの目印は、赤〜紫のグラデーション

試食用のひとかけらからは、素朴なカカオの香りがぷんぷん漂ってきます


さて、お待ちかねの試食タイムには、“サブール”から、5種類のタブレットが供されました。
「イランイランやバニラ、胡椒、コンババ(レモンに似たフルーツ)など・・・。マダガスカルでは本当にたくさんのフルーツや植物がとれます。そられの素材を使って天然のエッセンスを作り、マダガスカル産のショコラと合わせたのが“サブール”なんです」
運ばれてきたショコラを前にまず驚かされたのが、その鮮やかで強烈な香り!まるで熱々の料理が運ばれてきたのかと思えるほど、出来立て感が漂っています。口にすると、まさに予想通りのフレッシュ感!刺激的ともいえるほどのフルーティーな酸味や苦味は、明らかに他のショコラティエとは一線を隠したもの。バニラや生姜、シナモンなどのフレーバーも、ショコラに負けない強い香りを放っています。大自然の中でたくましく育った植物やフルーツの、活き活きとした旨みが伝わる味わいでした。

カカオティーの見た目は薄いコーヒーのよう

プラリュの本店で売られていたカカオティー。伊勢丹B1にも並んでいます


「続けて、カカオティーをどうぞ。これは、カカオ豆の皮を細かく砕いて煮出したもの。ベネズエラを訪ねたときに、農家の人に飲ませてもらったんです。テオブロミンやマグネシウムがたっぷりとれる上、脂肪分ゼロでヘルシー。もちろん、ビオの豆で作っているのでご安心を。砂糖を入れてもおいしいですよ」
カカオ豆の皮の部分だけを煮出したというこのカカオティー、確かに、その香りは甘〜いチョコレートそのもの。他に、みたらし団子のような醤油系の香りもします。ところが、実際に飲んでみると、甘くはないというのが不思議なところ。爽やかな酸味が特徴で、すっきりとした味わいです。熱湯に3〜4分浸して漉すだけなので、ハーブティーのような感覚で気軽に楽しめそうです。

カカオ豆の絨毯の上で寛ぐプラリュ氏。本当に嬉しそう!


最後に、今後の展開について話が及ぶと、
「フランス領のギニアにも、近々プランテーションを作りたいなと思っています」
ということは、次回はギニア産の「ピラミッド」が期待できるかも?
「そうですね。でも、カカオの苗を育てて実がなるまでには、最低5年は待っていただかないと。そういうわけで、皆さん、5年後にお会いしましょう(笑)」
澄んだブルーの瞳を向けながら、プラリュ氏が楽しそうに微笑みます。もちろん、カカオの木がゆっくり育つように、気長に待つ覚悟はできていますよ。でも、プラリュ氏は来年もそのスマートな笑顔を見せてくださいね!







←2008サロン・デュ・ショコラ東京 特集トップにもどる