フランスでは春先になると、ベリー類がマルシェに出始め、酸味の効いた小粒のイチゴがたくさん手に入るようになる。そして、その時期になるとパティスリーには、フレジエが登場してくる。本来、フランス人はイチゴより酸味のはっきりしたフランボワーズ(木苺)のほうを好むようだが、この春先のイチゴは別物のようである。もともとイチゴは南米原産の果物で18世紀にフランスへ伝わったもの。フランス人のフランソワ・フレジエという人物が南米から持ち帰り、ブルターニュ地方の町プルガステルに移植して広めたとのことである。現在ここにはイチゴ博物館なるものがあり観光名所ともなっている。どうやら、このフレジエという人物の名前をとって、フランスではイチゴを使ったケーキにフレジエという名前をつけたのではないだろうか。
さて、このイチゴを使ったフレジエ、構成はビスキュイの間に濃厚なバタークリームとカスタードクリームをあわせたムースをはさみ、イチゴをたっぷりと並べたもの。トップにはイチゴやフランボワーズなどのベリー類をのせたり、イチゴのソースで綺麗にグラサージュしたり、見るからに春らしい様相をしている。ブルターニュ地方はバターや乳製品の有名な産地、イチゴとバタークリームというこの組み合わせの必然性が伺える。
一方日本では、街のパティスリーで、このままの形のフレジエを見かけることは少ない。もちろん本格的なフランス菓子を謳う店では見かけるが、一般的にはバタークリームが生クリームとなったイチゴのケーキ、いわゆるショートケーキを見ることの方が多い。日本で初めてショートケーキを販売したのはあの「不二家」の創設者である藤井林右衛門氏だそうである。このショートケーキという語源には諸説あるが、彼は当時アメリカやヨーロッパに渡りケーキの研修をしている。そして帰国後、フランス風ショートケーキ、フランス風キャラメルを販売し始めている。多分、藤井氏がパリのカフェでフレジエを食べ、日本人向けに改良したのではないかと想像できる。しかし、今や日本を代表するケーキと言えばこのイチゴのショートケーキである。フランスのフレジエは、日本でイチゴのショートケーキに変化したというわけだ。
年代を超え、国を超え、真っ赤なイチゴには、人間を虜にしてしまう魅力があるようだ。そして、それこそが、世界共通の美味しさなのかもしれない。




フランス・リヨンの名店「ベルナシオン」の厨房を見学させていただきたときに見せていただいたフレジエと、プルガステル産のイチゴ


「ベルナシオン」のサロンでは、フレジエ以外にもイチゴを使ったケーキがたくさん。たっぷりのイチゴに生クリームを乗せたデセールも魅力的!


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