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取材・文 佐々木 千恵美 |
今年で13回目を迎えた「クインビーガーデンメープルスイーツコンテスト」(*主催:株式会社クインビーガーデン・メープルスイーツコンテスト実行委員会/*後援:カナダ大使館・ケベック州政府在日事務所、一般社団法人日本洋菓子協会連合会・全国和菓子協会)。 本物のメープルの魅力を広めるべく、メープルシロップ&シュガーを使い、作り手の世界観を表現したプロの作品は、毎年様々な可能性を見せてくれます。 そのまま舐めても美味しいメープルシロップですが、甘味料として、調味料として、香り付けとして、健康食品として多方面で使われることが期待できますね。 カナダが建国150周年を迎えた昨年から、和菓子部門が設けられ、今年は洋菓子部門、パン部門、和菓子部門の3部門で開催。ますます裾野が広くなっていきます。 |
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実行委員長の青木均氏のあいさつで始まった表彰式。 「日本のメープルシロップ輸入量は世界第三位(2016年度)だが、和菓子に使うことでさらに需要が広がる可能性がある」 |
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イアン・バーニー駐日カナダ大使。「審査員をやってみたいと言うと、試食したいだけではとスタッフに笑われました」 |
今年の応募総数は188(和菓子部門40、洋菓子部門72、パン部門76)作品。その中から9月の書類審査で選ばれた各部門8人(洋菓子部門は一名急病のため辞退)、計23名のファイナリストが、10月20日(和菓子部門)、27日(洋菓子部門、パン部門)に、東京製菓学校での実技審査を終え、その中の上位入賞各3名、計9名が11月7日、カナダ大使館を会場に、最優秀賞の結果発表および表彰式に臨みました。
審査員は、和菓子では「東京製菓学校」の梶山浩司氏、全国和菓子協会の藪光生氏。洋菓子では「パティスリー タダシヤナギ」の柳正司氏、「パティスリー エチエンヌ」の藤本智美氏。パンでは「シニフィアン シニフィエ」の志賀勝栄氏、「SAWAMURA」の森田良太氏の6名。 クインビーガーデンのケベック・メープルシロップ、もしくはケベック・メープルシュガーを必ず使うこと、未発表の作品であること(またはこの1年以内に新商品として発表されたもの、あるいは新メニューとして発表されたもの)、和菓子部門2時間以内(完成餡のみ持ち込み可)、洋菓子部門3時間以内、パン部門5時間以内(前日仕込みあり)で製作できるもの、等の条件のもと、応募されたレシピと完成写真(氏名、所属を伏せた状態)による書類審査を行い、通過した各部門8名の実技を審査。味覚、外観内観、使い方、工程、技術面、原価、将来性など総合力で評価。上位各3名をカナダ大使館において表彰の後、各部門の最優秀賞発表となりました。 |
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その他、パン部門ではこちらのお二人の作品が入賞しました。
*蜿汢pさん(潟hンク東京工場製パン課)。 冬に賑わうケベック歴史地区の街並みをモチーフに、17世紀初めに入植したノルマンディー地方からの移民を思い、ノルマンディーの特産品りんごを使ったという「Vieux-Québec (ヴィユーケベック) 〜冬の賑い〜」 |
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蜿汢pさん「Vieux-Québec (ヴィユーケベック) 〜冬の賑い〜」 |
*近藤聡さん(潟Aンデルセン) 黒ビールの麦芽の旨味とメープルの風味豊かで上品な甘さをマッチさせ、健康志向も意識した「メープル ピーカン パイン ビア ブレッド」 |
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近藤聡さん「メープル ピーカン パイン ビア ブレッド」 |
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洋菓子部門では他にこちらのお二人の作品が入賞しました。
*八巻翔之さん(潟Vュゼット・ホールディングス) 秋のメープル街道をアンティーク調の車が通りすぎる情景をデザインし、フランス語で車輪を意味する「Roue (ルー)」を作品名に。くるみをメープルでキャラメリゼし、ペーストや砕いた状態で使っています。 |
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八巻翔之さん 「Roue (ルー)」 |
*芝池由希子さん(パーク ハイアット 東京)。 夏でも食べたくなるメープルケーキをテーマに、甘酸っぱい果実オレンジと、ハーブのミントを使い、みずみずしさの中にもメープルの優しい甘みを活かし、ケベックの短い夏を思い起こさせるようなフレッシュケーキ「Summer Maple ( サマーメープル)」に。 |
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芝池由希子さん 「Summer Maple (サマーメープル)」 |
(注) 正確には「
![]() の制約により「風月堂」と記しています。 |
和菓子部門では他にこちらのお二人の作品が入賞しました。
*庄田美保さん(つくば栄養医療調理製菓専門学校)。 包餡作業が得意ではない人でも作りやすいお菓子をテーマに考えた、学校の先生らしい作品「メープル焼ききんとん」。生地にメープルシュガーと併せてきな粉を使うことで風味が際だちます。 |
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庄田美保さん 「メープル焼ききんとん」 |
*輿石幹彦さん(株翠ョ)。 「木々からのお菓子〜 木菓(もっか)」 木々があるからこそ作れる和菓子を目指し、メープルの良さを生かせる錦玉羹に。お世話になった福島県の食材から、和菓子らしさを出すために干し柿を入れ、キレと奥行きが出る会津のウイスキーを入れました。昨年に続き実技審査に進出。 |
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輿石幹彦さん 「木々からのお菓子〜 木菓(もっか)」 |
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受賞した3名。左から新田信一さん、関口良寛さん、田邊ともみさん |
みなさん、受賞おめでとうございます。 続いて審査員のシェフたちから講評が述べられました。 志賀氏(パン部門) 「ぼくも普段作っているのですが、どういうイメージで作るかですね。まずは昔からあるトラディショナルなレシピにそって、それをどううまく作るかっていうクラシック音楽の演奏家なのか、それとも現代音楽やジャズの演奏をするのか。今回のパンもひとりひとりみんな違うコンセプトだったので、それを評価するのは非常に難しい。だからやっぱり僕は一度クラシック音楽を弾けるような最低限度の能力がありながら、それをもう一回分解して、自分なりにもう一回組み立てて、おいしいってことが表現できたものを選びました。 ひとりひとりの作品はほぼ差がなくて、ましてやここに来られなかった3名以外の方も、非常にレベルが高かったと思っています。ですから最終的に森田くんと食べて二人でおいしいってことを最後の決め手にしました。 僕の先輩たちは、ほとんどレシピがクラシック音楽の音符のように決まっている中で作ってきた人達で、ちょうど僕あたりから、新しい価値観を作っていこうとする、その境目だった。今回審査してみて、やっぱりいろんなところがこの3名の中に出てきた気がしました。 審査員室でもお話しさせてもらったのですが、これからは一回分解してもう一回組み立てていける能力っていうのが一番大事で、そこが評価されていくのではないかと今回の審査で感じました。」 |
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「シニフィアン シニフィエ」の志賀勝栄氏 |
確かにクラシック音楽のコンクールと、ポップス等現代音楽のコンクールでは評価の点が違うでしょう。かといって基礎力がないといい創作はできない。最近のパン屋さんを見れば、パン生地も具も形も様々でついあれこれ食べたくなるほど楽しい。でも結局美味しいと感じるのは基本のパンが美味しいお店だと。分解と組み立てする力、参考になります。
柳氏(洋菓子部門) 「3年前から審査を務めさせていただいていますが、その頃に比べると仕事もきれいですし、素晴らしい作品が多かったと思います。書類審査の段階でもレベルが高くなったなと感じました。今回最優秀賞の田邊さんは前回も出場され、すごく印象的なお菓子を作っていたのですが、生地とクリームのバランスが惜しかった。今回は仕事もすごくきれいで組み合わせも素晴らしかったと思います。 サマーメープルもみんなが意表を突くようなミントとの組み合わせでした。ただ今回は3人ほどムース系のお菓子の中心部がまだ凍り気味だったりして、試食のタイミングがちょうどであれば順位が変わってしまったのではないかという作品でした。 ただコンクールなのでこのくらいやらなくてはという気持ちが強すぎ、詰め込み過ぎもありました。 もっとシンプルなお菓子のほうが、もっとメープルを活かせるのではないかと思います。パーツの多すぎもありました。10品くらい入れている人が3人くらいいましたが、5〜7品くらいにとどめておかないと作業性が悪すぎて、店で作っていくのが現実的に難しくなる。シンプルなお菓子でコンクールにチャレンジして、こんなことがあったのかなというお菓子をまた作っていただきたい。 |
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「パティスリー タダシヤナギ」の柳正司氏 |
試食のタイミングを合わせる、という点もコンテストでは重要なのですね。単に味だけでなく、作業性など、リアルな面でも評価されるなど総合力が問われ、最終的にメープルの普及につながっていくのだと考えさせられました。
藪氏(和菓子部門) 「日本の生活文化の中では、メープルシロップというとホットケーキとの結びつきの強さが当たり前の中で、和菓子にメープルの香りを生かすとなると非常に難しいことになっていた気がします。ただこういうコンテストをやっていただくことにより広がりを見せはじめていて、巷でぽつりぽつりとメープルカステラとか饅頭をみるようになったのは大変うれしい。これから先和菓子の世界でも広まる可能性を感じています。 今回は全体的にみると非常に質が高くなったなという印象で、メープルの風味をいかし、調和がとれるようになってきた。お菓子は調和の味が一番大事なので、ひとつの味が突出していればいいものではない。 審査は極めて僅差の判定で3人が選ばれました。その中のひとつはメープルシュガーと、和菓子の世界ではあまり使わないウイスキーと、干し柿の3つの味がうまく調和して、しかもそれを錦玉羹という和菓子の古い伝統的な手法の中に閉じ込めたとても完成度の高い作品でした。 ひとつは我々審査員も驚くような、普通そのまま食べるきんとんを焼いたという新しいアイデアを見せてくれました。作業性が比較的楽な点も画期的でした。 最優秀賞の作品は、和菓子の中で伝統的な餡、浮島、松風というようなものを生かして、それをくるみの風味などと合わせうまく調和させた上に、カエデの幹というものを表現してメープルコンテストに出してきた。伝統の技とメープルが融合したことだけではなく、作品としてメープルを感じさせるものがあった点が非常に良かった。 これを機に和菓子の世界でもメープルシュガーを使うことがもっと広がっていけばいいなと思っています。」 |
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全国和菓子協会の藪光生氏 |
和菓子では伝統的な技法と味では調和、見た目で雰囲気を味わう点がポイントなのでしょうか。新たな組み合わせや手法の登場など、これからも可能性が期待できますね。
今回も、販売があればすぐにでも食べてみたい作品ばかり。審査員のお話しを聞き、どの部門も僅差だったということからも、メープルの使い方はかなり浸透してきたことがうかがえます。来年以降も激戦になりそうですね。 表彰式の後は恒例の懇親会。会場にはメープルを使ったお料理とカナダワインの他に、審査員シェフによるオリジナルメープルスイーツとパンが並び、参加者の目と口を楽しませてくれました。 |
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会場のお料理から。カナダ産フォアグラの冷製フラン・メープルシロップゼリー添え | 同、カナダ産サーモンのソテー・メープルシロップソース・生姜とレモン風味 |
来年も進化したメープル使いの創作で、すばらしい作品が生まれることを期待しましょう。 |
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来賓の方々を交えた表彰式後の記念撮影 |
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