東京と大阪に「ショコラティエ パレ ド オール」を展開する三枝俊介オーナーシェフが、2014年11月13日、八ヶ岳南麓・山梨県の清里高原に、カカオ豆の状態からチョコレートに仕上げる工房と店舗「アルチザン パレ ド オール」をオープンしました。
オープンに際し、丸の内のショコラティエ パレ ド オールで行われたプレス発表会。そこには喜びの笑みいっぱいの三枝シェフの姿がありました。 |
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笑顔で迎えてくださった三枝俊介オーナーシェフ。 |
「ショコラティエ パレ ド オールが2004年の開業から10周年を迎えました。年間10トン以上、50種類以上ものクーヴェルチュールを扱い続け、常に新しい試みとアイデアを形にし、多くの方々にショコラの楽しさをお伝えすべく表現をし続けてきました。そして開業10周年の今年、ショコラ作りの原点を追及する決意をしました。このプロジェクトにあたり、長年育ててきた4ブランドのうち'パレ ド オール'以外は年内に閉鎖し、新たにショコラ作りをカカオ豆の加工から手がける'アルチザン パレ ド オール'をスタートします。これは残りの人生をショコラに賭けたい、という私の決意によるものです」。
還暦まであと2年。人生の折り返しともなれば普通は安定を求める。それなのに三枝シェフは思い切った行動に出たのです。この発表を聞いたとき、今まで以上の情熱と覚悟にちょっぴり震えてしまいました。 ショコラは人を一生冒険へと掻き立てる黒い媚薬なのかもしれない…と。 清里高原アルチザン パレ ド オールの場所は、以前は清里マチスというご自身のブランドのひとつ、卵や牛乳、果物など地元素材を使ったケーキ店でした。そこを外観そのままに、屋内イートインスペースをカカオのアトリエにし、カカオの加工に必要な機械や道具を配置しています。豆を焼くロースター、砕いて薄皮を取り除く破砕選別機のウィノワ、そして三枝シェフが薫陶を受けた「ベルナシオン」と同じビウラー社のローラー! 「これが一番大きい機械ですが、今の段階では活かせる使い方がなく眠っています」。 カカオのアトリエをパネルで順番に説明する三枝シェフ。カカオニブになった段階で、リファイナーコンチという機械で一気に出来上がってしまうため、ローラーは出番がないそうです。 「今まで38年間、ショコラティエ、パティシエとしてやってきた自信があるのに、いざカカオ豆から加工してみるとわからないことの多さに驚くばかり。9月から始めて2ヶ月経って、自分の中のチョコレート考が変化してきました」。 |
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アトリエのパネルを手にしながら、機械の説明に熱がこもる。 |
例えば菌の問題。大手流通メーカーのロースト方法は、カカオ豆を均一に砕いてからローストします。こうすると菌数は問題なくなりますが、味わいがフラットになってしまいます。対して皮ごとローストする方法をとれば豆のポテンシャルは引き出せますが、菌数が安定しません。そこで三枝シェフはローストの前にカカオ豆を洗浄し200℃で10分乾かして殺菌する工程を組み入れました。これで検査に出した結果、菌数の問題は解決したそうです。 豆や道具の小規模流通が可能になった昨今、個人でBean to Barにチャレンジすることが容易になってきましたが、多くの人に提供するには食の安全性にも留意しなければなりませんね。 お話が続く中、清里でローストしたカカオ豆が登場。まずはハイチ産のカカオ豆を、そのまま少し齧ってみます。その後、グラニュー糖と一緒に噛んで口の中で広がる味覚を確認。 「どうですか、口の中でチョコレートになったでしょうか?」と三枝シェフ。 こうやって、板チョコレートになったときの味わいを予測し、自分の求める味の着地点への道のりを考えるのです。テーブルにはキューバ産のカカオ豆も並べられました。比べてみると、カカオ豆の見た目でさえ大きさ、色、テクスチャーが違う。食べればさらに違いを感じます。 |
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キューバ産カカオ豆、このロットは大粒で色も濃い。 |
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ベトナム産カカオはロースト豆の状態から皮を剥き砕いたニブの状態を試食。 |
こうした段階を経て清里で完成した3つの産地別チョコレートが次々と運ばれてきました。ハイチ、ベトナム、キューバの産地別食べ比べと、それぞれの加工別〜ローストしたカカオ豆、66%のタブレット(板チョコレート)、ショコラショー(ドリンク)、ボンボンショコラ(ガナッシュ)〜で縦横の食べ比べです。
一般的に食べやすいといわれるハイチ産。タブレットの色は中くらいのブラウンで、バナナやトロピカルフルーツの風味、なめらかな甘さを感じました。ショコラショーにすると、さらっとフルーティーな香りがやさしい。ボンボンも同じ。 近頃よく目にするベトナム産のタブレットは、3つの中では一番明るい色調。ニブのときは酸味に加えピーマンのような青っぽさがありましたが、タブレットではヴィネガーのような酸味からナッツのような甘さへと味の変化も。ショコラショーになるとベトナム産はさらに化けました。他の2つには見られない濃いとろみが鮮烈な酸味をマスキング。3つとも同じ配合で同じ作り方だというのに不思議! この粘り気のある濃さはボンボンショコラにも反映されていました。 煙草の産地であるキューバのカカオには葉巻の香りがあるといいます。一番暗い色調のタブレットには薬草のニュアンスからフルーティーな酸味、そしてさらっとしたショコラショーからはレーズンフレーバーを感じました。 |
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タブレットとショコラショーの縦横比較テイスティング。左からハイチ、ベトナム、キューバ。 |
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産地別のBean to Barをガナッシュにし、ボンボンに仕上げたテロワールショコラは6種類。 |
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そのうち、タブレット、ショコラショーと同じハイチ、ベトナム、キューバを試食。それぞれの相性を見て、ビターかミルクでコーティングされています。 |
そして三枝シェフご自身が描いたカカオをパッケージデザインに取り入れたキャレショコラは、カカオ感と深い味わいのビター65%とカカオ感が高いミルク50%の2種類入り。いずれも目指す味の着地点を見定め、酸味苦味などバランスの良く調合された、いわばアルチザン パレ ド オールのシグネチャーブレンド。 プロのショコラティエが手がける日本初のBean to Barは、ほんのり香るヴァニラとなめらかな口どけのおかげで、とても日本人には馴染みやすい。 |
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現在10〜11種類のカカオ豆を加工しているうちの何種類かが、色分けされたカジュアルなパッケージで店頭に並ぶ。 |
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赤と黒、ゴールドでシックにコーディネートされたビターとミルクのキャレショコラ。 |
トッピングごとに相性を考えカカオをブレンドしたマンディアンショコラ。カカオニブをクリスタリゼしたスナックショコラなど、Bean to Barならではのアイテムも数種。これらの中には、清里のブティックでしか購入できない限定品もあるそうです。 |
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何故清里に製造拠点を選んだのでしょうか? 「清里高原の環境がヨーロッパの山岳リゾートに似て冷涼なため害虫の発生率なども低く、カカオの保管やショコラのエイジングには最適なので」だそう。 そこで数日後、オープン間もない清里高原のアルチザン パレ ド オールを訪ねました。シェフのお話し通り、外観もブティックもほとんどマチスと変わりませんが、イートインスペースはテラスのみになり、そのテラスと外側通路からは、Bean to Barの製造工程が窓越しに見学できるようになっています。 |
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高原リゾートの雰囲気たっぷりなアルチザン パレ ド オールの外観。 |
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冷蔵ケースには、手前にBean to Barショコラをメインに使ったケーキ、奥には長年親しまれたマチスの定番が。 |
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中央にはショコラのショーケース。 |
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清里限定のケーキやショコラ、ドリンク等は、セルフサービスのテラス席でアトリエの様子を見ながらいただくことができる。寒い時期はテント張りの中、ストーブ、ひざ掛けなどが用意されている。 |
スタッフ河本さんのご好意により、アトリエ内を見学させていただきました。この日の製造は終わっていましたが、アトリエ内はカカオ豆の香りがぷんぷん! 豆は産地別に選別、洗浄、ロースト、破砕、コンチングと加工しますが、毎日行っていると、産地によって漂う香りの違いがわかるそうです。コンチングは温度の低いテンパリング室で行いタブレットへと、そして清里限定のアイテムへと加工します。またボンボンショコラはここではなく、大阪の厨房へクーヴェルチュールを送って製造しているそう。仕事の住み分けと流れが合理的にできているのですね。 |
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ブティックのショーケースには東京の発表会で紹介されたアイテムがずらり。冷蔵ケースにはマチス時代の定番ケーキと、アルチザン パレ ド オールのBean to Barショコラを使ったケーキが数種類並んでいました。その中の清里シューショコラは清里限定。何故ならアトリエの副産物〜細かいカカオニブをシュー皮に混ぜ込んであったり、クリームを作る際にミルクにカカオニブの香りを抽出したりと、ここでしかできないことをしているからです。丸の内の試食会にも登場したタブレットショコラやショコラショーの比較テイスティングセットもテラスでいただくことができます。 日本で前例のないチョコレート工房〜ショコラティエによるBean to Barははじまったばかり。後進にカカオの冒険心を伝え、日本のショコラ発展へとつなげていく存在になってほしいですね。 |
◆ ショコラティエ パレ ド オール/アルチザン パレ ド オールのウェブサイト http://www.ovaleliaison.com/ |
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