食欲の秋にふさわしいスイーツの日仏共演(饗宴)が、新宿にあるホテル「ハイアット リージェンシー 東京」の「カフェ」で行われている。
昨年夏に続きフランスの色彩を携えやってきたのはクリスチャン・カンプリニ氏。毎年東京で開催されるサロン・デュ・ショコラでもすっかりお馴染みの、南仏コートダジュールに生まれ育ち、拠点を構える、数少ないショコラティエのM.O.F.(フランス国家最優秀職人)である。今年のフェアはビュッフェスタイルの昨年から形式を変え、カンプリニ氏が「ハイアット リージェンシー 東京」のペストリー・ベーカー料理長・佐藤浩一氏とタッグを組み、オリジナルのスイーツコースをプロデュース。アミューズ・サレ、プレデセール、デセール、セレクトプティフールにコーヒーまたは紅茶つきといった内容だ。さらに詳しく説明すると、佐藤氏による、スイーツを食べるための心構え&食欲をかきたてるアミューズ・サレの後、カンプリニ氏考案のアシェット・デセールが2皿。最後のプティフールは両シェフそれぞれの力作10種以上から、5種類が選べるという豪華なコースなのである。 |
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「カフェ」入り口にあるカンプリニ フェアのボード |
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「カフェ」店内 |
Christian Camprini (クリスチャン・カンプリニ)氏 プロフィール ![]() 調理師学校で料理と製菓を学ぶ。モナコのルイXV(アラン・デュカス三つ星)、バスティド・サンタントワーヌ(ジャック・シボワ二つ星)など名だたる名店でシェフ・パティシエを務め、1996年「メートル・パティシエ」の称号を獲得。 2002年よりショコラティエに転向し、コンサルタントおよび技術指導や商品開発に専念。2004年M.O.F.ショコラティエの称号を獲得する。2007年より南仏のアトリエにて、最高級ホテルにショコラやコンフィズリーを提供。パリの「サロン・デュ・ショコラ」に毎年参加し、2010年より「サロン・デュ・ショコラ東京」にも毎年来日参加。2012年4月、ニース近郊に念願のブティックがオープン。 地元南仏の素材を生かした商品作りは、伝統的でかつモダン。そのアーティスティックで丁寧な仕事ぶりは、プロの料理人やパティシエからも支持され、今、南仏で最も信頼を集めるパティシエ、ショコラティエの一人。 |
ペストリー・ベーカー料理長 佐藤浩一氏 プロフィール![]()
(以上、ハイアット リージェンシー 東京資料より)
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このチャンスにパナデリアもフェア会場「カフェ」へ足を運び、来日中のカンプリニ氏にお話を伺ってきました。さて、その全容は・・・。
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一皿目・アミューズ・サレは、南仏風ピザのサラダ仕立て。 |
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南仏風ピザのサラダ仕立て 〜Petit pissaladière |
なす、ズッキーニ、トマトやバジルなど南仏らしい野菜をトッピングしたピザは、パン生地ではなく、膨らみを抑えたフィユタージュ。パティシエらしくバター風味の生地で後のスイーツへとバトンをつなぐ。ハーブや野菜の香りが食欲をかきたて、南仏への扉が開いた。佐藤氏の粋な計らいだ。
二皿目・プレデセールは、フルール・ド・メロン。 |
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フルール・ド・メロン〜Fleur de melon |
なんて鮮やかな色彩! テーブルに運ばれるやいなや南仏らしいイエローに驚かされる。と同時に鼻をくすぐる甘い香りに深呼吸・・・。このフルール・ド・メロン ‘メロンの花'は、プロヴァンス名物菓子カリソンのアイスクリームをメロンの薄切りで巻き、アニス風味のフェンネルの薄切りを敷いて花に見立てた一皿。二種類の果肉の瑞々しさ、しゃくしゃく感と、ふわっとした黄色い甘さを、カシスの赤い酸味が所々で引き締めます。食べ終わった後も、胸の中でずっと咲き続いているような花。カリソン、メロン、パスティス、フェンネルと、たくさんの南仏特産品を自然な形でまとめているところが素晴らしい。ちなみに、カンプリニ氏は、最初に味を決めてから、最後にデザインを考えていくのだそう。
三皿目・デセールは、柑橘風味のババ。 |
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柑橘風味のババ〜Baba Aux Agrames。テーブルで仕上げるデセールは、レストランならではのサプライズ |
レモンゼスト、薄切りのグレープフルーツを敷いたお皿にのせられた伝統菓子のババ。まずはババにオレンジリキュール(グラン・マニエ)のシロップを、次にバニラで香り付けしたオリーブオイルソースを、食べ手の目の前でまわしかけ供されるデセール。ソースをかけるごとに変化する香りのライブに、食べる前から期待が高まる。ほろほろ口の中でほぐれる軽いタッチのババ、酸味はオイルソースで和らげられ、左に添えられたマスカルポーネのムースとカンパリのキャビアが、ふくよかさとほろ苦さのアクセントに。この重ねられた柑橘系のほろ苦さの、心地よく長い余韻ったらありません! キャラン・ダジュールの意味は直訳すると、愛しのコート・ダジュール。「キャラン・ダジュール」…南仏プロヴァンスの旅という9月のコーステーマと、生まれも育ちも南仏のカンプリニ氏らしい、地元愛が詰まった一品です。
セレクトプティフール。 コースの後は、「カフェ」の中心にあるオープンキッチンへ。美しく並べられた二人のシェフによる計10種類以上のプティフールに目移りしながら5種類をチョイス。けれど5種類に絞らなければならないのは正直言って酷。小さいながら、それぞれが食べてほしいと訴えかけてくるのだから辛い。右往左往しながら、カンプリニ氏と佐藤氏、両シェフのものからバランスを考え選んでみました。 |
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セレクトプティフール 〜Select Petits fours |
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カンプリニ氏のプティフール。右から・・・パッションフルーツのギモーヴ&ミルクチョコレート、ショコラ・ノワール、バニラとココナッツのギモーヴ&ホワイトチョコレート、ショコラ・ブラン&トロピカルフルーツ、ショコラのギモーヴ&ビターチョコレート |
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カンプリニ氏のプティフール。右から・・・ヌガー・ショコラ、パート・ド・フリュイ‘アプリコット・マスタード’、キャラメル・ムー‘フルール・ド・セル’、カリソン、キャラメル・ムー‘ショコラ’ |
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佐藤氏のプティフール。右から・・・ケークマロン、フロランタン、サブレジャンドゥージャ、マドレーヌマロン、ボンボンフリュイ。ここには写っていないが、右端にマカロンフィグも |
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チョイスした5種類。食用ほおずきのホワイトチョコレートがけと、マカロンフィグが佐藤氏の、あとの3種がカンプリニ氏のプティフール |
昨年のフェアで、その洗練された果実味と‘甘くなさ’に意表をつかれたパート・ド・フリュイは必食と、手にとったアプリッコット・マスタードのそれは、噛むと杏の甘酸っぱさの後にバターの風味が漂う。またしてもマジックです。その謎をカンプリニ氏に聞いてみました。
「バターを加えた理由は、ひとつには杏の酸味の角をとるため。もうひとつは、甘さを抑えるためにグラニュー糖を塗ったのは底の部分だけにしたのですが、脂肪分を入れることで、側面をつまんだ時にペタペタくっつかなくなるのです」。 味だけではなく、素材の働きを熟知しているからこそできるマジック。M.O.F.たる所以がそこにある! 一方の佐藤氏だって負けていない。スイスメレンゲで表面をカリッと焼き上げたマカロンは、ぷちぷちした食感とキャラメル風に甘いいちじくのフィリングと、パンチのある一体感で口の中を魅了する。そうかと思えば、ごく薄いグラスアローが口の中でほろほろ崩れるマドレーヌマロンの繊細さ、同じく脆い食感とこくのあるフィリングのコントラストが忘れられないサブレジャンドゥージャなど、パリや日本のサダハル・アオキ立ち上げに携わっているだけに、焼菓子の美味しさは圧倒的。 |
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ミニマドレーヌ型で焼いた佐藤氏のマドレーヌマロン | マカロンフィグ |
日本はまだ暑いからと、瑞々しいフルーツを使ったスイーツで、南仏の爽やかな夏を届けてくれたカンプリニ氏。片やいちじく、栗、ナッツ類といった初物で、迎える秋を楽しませてくれた佐藤氏。両者の競演〜共演〜コラボレーションに大きな拍手を送りたい。 |
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メニュー裏には、両シェフのサインが |
そして来月、旅の舞台は南仏からカカオの大地へ。
10月1日からはカンプリニ氏の真骨頂、ショコラを題材にした「カカオの大地への旅」コースがスタートします。一足先にいただいたプレデセールは、お皿の上全てがショコラ色! |
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10月のコースから、タルト・ショコラ&カカオのソルベ |
高さや断面の層、表面の金粉などから、オペラを彷彿させるルックス。けれど食べてみると、トップのキャラメルダンテルがパリパリ。これがタルトと呼ぶ理由!? パッションフルーツの酸味が口に広がり、ショコラクリームはなめらかでありながら瑞々しい。ショコラなのに後味あっさり。その秘密は、生クリームの代わりに使ったアボカドにありました。昨年のフェアでショコラチーノという冷たいチョコレートドリンクに初めてアボカドを使ったカンプリニ氏。 「昨年はまだアボカドの青っぽさがかすかに残って気になったけれど、今回は改善されました。アボカドはフレッシュ&フルーティーな側面がありますが、ショコラの味の邪魔をしません。ここがマダガスカル産カカオのエッジのきいた酸味がマスキングされてしまうクリームとの違いです」。 その通り、言われなければわかりません。森のバターといわれるアボカドには約20%の脂質があり、その成分には悪玉コレステロール値を下げる不飽和脂肪酸が含まれます。それにカカオと同じく中南米原産のパワーフードだから、食べてきれいになれそうでうれしい! 溶けにくいソルベはカカオ感たっぷり。 「日本人は、食べる前に写真をじっくり撮るから、溶けにくくする必要を感じました」。 否定できない事実だけれど(笑)、イノベーションのきっかけになったのはいいこと。 「南仏の空気感、テロワールを表現すると同時に、甘さと脂肪分には特に気をつけています。なぜならニースやカンヌなど、コートダジュールには健康と美容を気遣うセレブがたくさんいるからです」。 なるほど、コースを完食して体が楽なのは、地域や時代に即した創作がきちんとされているためなのですね。 |
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フェアの会場「カフェ」にて。クリスチャン・カンプリニ氏 |
10月コースはこの前に佐藤氏のアミューズ・サレ「アボカドのディップ メキシカン風」。 メインデセールには、ヴァニラアイスとショコラのディスクに柑橘系の温かいソースをかける「プロフィトロール・ショコラ」が登場します。 |
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〜10月のコースより〜 アミューズ・サレ「アボカドのディップ メキシカン風」 |
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〜10月のコースより〜 「プロフィトロール・ショコラ」 |
断っておくけれど、コートダジュールのブティックに行っても、カンプリニ氏のアシェット・デセールは味わうことができません。ここハイアット リージェンシー 東京だけのチャンス。“今”この時にしか味わえない貴重な限定スイーツを楽しみに、みなさんも足を運んでみては。
同期間中、「ペストリーショップ」でもカンプリニ氏のアントルメ・ガトーの販売があります。
カンプリニスイーツフェアの詳細はこちらから http://www.hyattregencytokyo.com/restaurant/event.html |
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