ジェノワーズは誰もが最初に作る基本のオーブン菓子。それだけに、簡単に済ませがちですが、
いざお店のものと比較すると違いを感じて悩むことも多いお菓子です。シンプルで誰もが知って
いるお菓子ほどレシピ、情報も多く、出来上がりは千差万別。一体どうすればいいのか・・・。
そんなお菓子作りの悩みに、解決の糸口ともいえる講習会が、去る6月24日ドーバー洋酒貿易の 講習会場にて開催されました。 菓子材料や型の通販サイト「cotta」主催の今回の講習会、微力ながらパナデリアも共催という 形でお手伝いさせていただきました。この日の講師はパナデリアでもお馴染み、生地のおいしさ に定評のある「オーブン・ミトン」の小嶋ルミシェフ。cottaの佐藤さんによれば、講習会の 講師リクエストに常に名前があがるのが小嶋シェフなのだとか。そんなファン待望の講習会と あって、募集開始と同時に午前・午後の各60席はあっという間に完売。急遽席を増やし、 70名×2回の合計140名の受講者が会場を埋めました。 さあ、「今までに食べたことのない味!」「驚くほど心地よい食感!」をめざすべく、 小嶋シェフのこだわりを追ってみましょう。 |
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「cotta」の佐藤さんが、小嶋ルミシェフを紹介 |
一品目はジェノワーズと応用のオムレツケーキ。
最初にシェフから材料や道具について細かい説明がありました。 「普段はプロ用の道具を使っていますが、今回の講習では初めての方もいらっしゃるので 家庭でも揃えられる道具を使います」。 肝心のオーブンについては、今日は会場のものを使用しますが、普段お菓子教室では 「ミーレ社」 のオーブンを使用しているとのことです。 |
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たくさんの受講者を前に笑顔で解説する「オーブン・ミトン」小嶋ルミシェフ |
「15cm一台のような、少ない量で作る場合はハンドミキサーで十分です。この場合、ボウルは
外径17pの無印良品の底が広いタイプが使いやすいですね。それから材料に関してですが、小麦粉
はバイオレットを使います。スーパーバイオレットは粒子が細かすぎるために静電気が
起き、ダマになりやすいし、国産の粉はグルテンや雑味が気になって私は好きではあり
ません。卵はこの配合では少ないと思われるけれど、しっかりと卵の味がします。だから
卵選びは重要です。魚粉を餌にしているものは、ちょっと臭みが出てしまうし、安全と
美味しさが一致するわけではないのですよ。高いけれどヨード卵光なら間違いなし」。
高級なものが必ずしもうまくいくとは限らないし、国産素材にこだわる人もいるでしょう。 安全であるという事は大前提ですが、一番大事なのは目指す味を作る材料 を選ぶこと、そのコンセプトは明確です。 |
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レシピに適切な道具を整えて |
次に手順。 流れ的に見れば基本と同じですが、温度計とタイマーは必須。卵を温める温度や、 泡立てにかける時間は感覚では誤差がでます。例えば分量の「少々」が人によって 捕らえ方が違うのと一緒ですね。だから数字はきっちりはかるべし! 小嶋シェフ のレシピには、温度、時間、混ぜる回数などの数字がこまかく指示されています。 「とにかくこの数字を忠実に守ってやってみてください」。 高速で糖類を混ぜ湯煎した卵をミキサーの高速で泡立てたら、大きな泡からきめ 細かで均一な泡に整えるために、低速に落とし1〜3分、「の」の字を書き終わった とき保っているのがベスト。持ち上げてすぐに切れる生地なら泡立て過ぎ、という 見分け方も教わりました。 |
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大きな泡をきめ細かい安定した泡に変えていく |
さて、ここからが講習会の山場。それはゴムベラの使い方。ジェノワーズ生地の
混ぜかたの極意をしっかり学びました。 粉や溶かしバターを、泡立てた卵生地に混ぜることは、出来上がりの食感を大きく 左右するポイント。 切るようにとか、グルテンを出さないようになど、頭ではわかっていても、実際 手は無造作に動いてしまいがち。小嶋シェフのやり方は、小麦粉をふるって加え、 時計の2時か2時半の位置からゴムベラを入れ、真ん中を通って、8時か8時半の 位置で出して、左手でボウルを回転させて、再び2時か2時半の位置から入れる、 これの繰り返し。しかもゆっくりリズム良く、メトロノームが刻むように、 混ぜた回数を声に出して数えます。粉のあと、溶かしバターと牛乳を加えたら、 この日は160回でいい状態の生地ができあがりました。正直こんなに混ぜても 大丈夫なことに目からウロコ・・・。グルテンが出るのは混ぜすぎではなく、 混ぜ方が問題だったのですね。 ただし、回数は個人差もあるので、あくまでも目安として必要とのこと。初めの うちは自己流になりがちなので、きっちりと計って、この通りにやってみてくだ さいとのことでした。 |
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混ぜた生地の状態を確かめる。ちなみに小嶋シェフの使っているゴムベラは一体型のイイズカのもの | ゴムベラの回転回数を声に出して数える、本日の助手、萩原さん |
ジェノワーズ生地をオーブンにいれたところで、抽選で当たった3名の受講者に小嶋シェフ直々の実践レッスンが始まりました。 |
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ゴムベラの持ち方、姿勢、角度など、細かい点も実践で伝授。ゴムベラの使い方は 受講者全員が着席のまま、持参したマイ・ゴムベラを片手に、小嶋シェフの動きに 合わせて習いました |
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当選した3人はそれぞれ一台のジェノワーズを作る。ひとりひとりに優しく指導をする小嶋シェフ |
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抽選に外れた受講者も、前に集まり手元をじっくり観察。このライブ感がたまらない |
見て聞いて納得しても、いざ自分でやるとやっぱり何かが違う。選ばれた3名はそのこと
を実感したようです。焼き上がったジェノワーズは、先生のお手本、国産小麦粉使用
のものを含め、5種類のジェノワーズを並べて試食しました。見た目の違い、食感の
違いなどが、面白いほどわかります。先生の見本は、ふわっと口の中で繊細に溶けて
いく感覚が忘れられません。同じやり方でも、国産小麦粉ドルチェで焼いたものは、
溶けるというよりもっちりしっかり目。国産小麦はグルテンが多めなのでこうなるそう。
好む人もいるでしょうけれど、オーブン・ミトンの味ではありません。そして3名の
受講者の出来は、理想に近いものもあれば、もっちり感の出てしまったものも・・・
同じバイトレットを使ったとしても、やり方が違えば三者三様です。
「私の配合は、卵に対して糖分が一般より多めです。でもね、その分細かい気泡を 作ってしっかり膨らむから、体積あたりの甘さの感じ方は変わらないのですよ。 だからもし、この配合で作って甘いと感じたら、それは失敗した、ということですね」 と、甘さでの見極めを付け加えた小嶋シェフ。 さあ、ジェノワーズが完全に冷めたところでオムレツケーキの仕上げです。 スライスしたジェノワーズにバナナ、カラメル、ホイップ等の具を順番に挟み、ラップ に包んでひと寝かせ。食べる直前に両端にホイップを施し、ナッツや粉砂糖、カラメル ソースを飾ってできあがり。 一見とても親しみやすいお菓子なのに、カラメルの苦味が大人っぽく、とても洗練された 味。ジェノワーズのキメ細かさ、口どけの良さに、誰もが虜になってしまいます。単純 なのに難しい、卵料理のオムレツと同じことがいえるのですね! |
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さて、もう一品はカシスのクランブルチーズケーキ。
ここでも大事なのは温度、時間、そして混ぜ方。 クランブル生地を作る際は、バターを溶かさないこと。ぎゅっと握ってまとめる くらいになったら、一度、冷蔵庫で休ませます。チーズ生地を作る際も、クリーム チーズはあまり温度を上げないようにして、ゴムベラの根元を持って力を入れ押し付けながら均一にまぜます。 ゴムベラから泡立て器に持ちかえて、ボウルのヘリ底にしっかり泡だて器をあて、 するように混ぜること。加えるバターは指で押すとすぐに跡がつく程度のやわらかさ、 卵もしっかり混ぜること。 固さも性質も違う材料を、均一に混ぜるには、固さをなるべく同じようにするのだけど、 それぞれに適した温度があるものです。 一般的にチーズケーキの作り方といえば、材料を混ぜるだけという単純なものが多く、 そのためクリームチーズがこなれず粒々した状態になってしまうことがありますが、 それはNG。よくすり混ぜることで空気を含んで、ふわっと夢心地の口当たりになるのですね。 |
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焼き時間も今までの常識より短い。
「オーブンの中で生地が浮くってことは、中まで火が通っている証拠でしょう。 この状態で出すと、焼きチーズなのに、中はレアチーズのような食感のままですよ」 こういった計算、丁寧な作業と見極めが、今までにない味、食感を生み出していくのですね。 |
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試食用のオムレツケーキとカシスのクランブルチーズケーキ | 小嶋シェフの完成品 |
試食タイムには、お菓子と共にリーフで淹れた吉祥寺「ティーブレイク」のウバが
ホットで供されました。丁寧に作ったお菓子には、それにふさわしい本物の紅茶を。
そのこだわり、気遣いが、また素晴らしい。
お土産には、生地のおいしさが良くわかるバニラパウンドとフィナンシェ、それに 習ったジェノワーズをすぐに復習できるようにと、バイオレット小麦粉を、わざわざお店から小分けしてきていただきました。 |
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机の上には、お土産用のお菓子と粉が用意されていました。このバイオレットを使って、 皆さん、早速今日の講習会の内容を復習してください! |
ジェノワーズひとつとっても、ただ何となく作るのではなく、どんなゴールに行きたいか、
それに向かうには、どんな材料を選び道具を使い、手順を踏むのか。レシピの行間に潜む
コツをとてもわかりやすく理論的に、実践的にみっちり教えていただきました。終わった
後はみなさんとても満足顔。本の即売会や写真撮影などで、余韻を楽しんでいました。
基本に立ち返ることで、お菓子作りがとても身近に感じた今回の講習会、改めて小嶋シェフ に信奉者が多い理由がわかった、そんな気持ちの通じ合う講習会でした。
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