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取材・文 佐々木 千恵美 |
昨年10月30日と31日、東京・三宿にあるカルピジャーニ・ジェラートペストリー・ユニバーシティ(CGPU)にて、2人のイタリア人巨匠によるプロを対象としたスペシャルセミナーが開催されました。
今回で3回目となるスペシャルセミナーは、パティスリー界若手の新進気鋭のシェフ、Fabrizio Fiorani(ファブリツィオ・フィオラーニ)氏をゲストインストラクターに迎え、CGPUインストラクター Alessandro Racca(アレッサンドロ・ラッカ)氏とともに行われました。 セミナーでは、フィオラーニ氏の意欲、こだわり、情熱、想像力、鋭い感受性を表現した、自身の最近の著書“Between Dreams and Reality”(夢と現実の間)にインスピレーションを得た、この日のためのオリジナルレシピを披露。彼の哲学を存分に感じられるデモンストレーションとなりました。 |
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ファブリツィオ・フィオラーニ氏の著書“Between Dreams and Reality”(夢と現実の間)から、カルピジャーニのマシンを使ったレシピに書き直された作品がセミナーで紹介された。 |
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セミナーで披露していただいた作品はフィオラーニ氏が4品と、ラッカ氏が1品の計5品。朝10時から、夕方まで、お昼を挟んでまる一日。受講者たちも、講師の話し、手の動きに注目しながら、集中した時間を過ごしました。
‘材料にフォーカスする’をコンセプトにした1作目のテーマは「コーヒー」。コーヒーの色ではなく香りを出すということを肝に作りあげた作品です。お皿にはコーヒー豆を牛乳と生クリームで長時間アンフュゼし、香りだけを液体に移した白いコーヒーのジェラート、コーヒー豆型のシリコンモールドで冷やし固めたコーヒークレモーソ、その下には粗挽きコーヒーを加えてパン粉状に焼いたコーヒーサンド、コーヒーの苦味とチョコレートの甘みを調和させたコーヒーパウダーを盛り付け、コーヒーソースを添えます。クリームアングレーズやクレモーソには82℃まで炊き上げられるマシンを使用。プログラムを入力すれば自動で炊き上げてくれます。 |
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コーヒー豆ジェラートのためにアンフュゼした液体を濾す。デモはラッカ氏と協力してすすめる。 |
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盛り付けをしていくフィオラーニ氏。右に置いてある試験管のコーヒーソースをお客さまの前でサーヴィスする。 |
「日本で仕事をして4年がたちますが、日本人は甘さに対して敏感に感じます。だからビターチョコレートの苦味で甘さを調整します。」 そういって、お皿の上に黒いドットを描きました。 |
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「コーヒー」。 コーヒー豆型に抜いたコーヒークレモーソの上の、ゴールドを吹き付けたチョコレートの一粒がおしゃれなアクセントに。 |
まずはジェラートをよく味わってほしいとフィオラーニ氏はいいます。口どけ、なめらかさ、カリカリ、それぞれのテクスチャーとコーヒーのピュアな香りが口の中でグラデーションを描きます。試食用に用意されたお皿はパレット型。より感性に訴えてきますね。 |
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想像力を掻き立てるパレット皿に盛り付け。 |
2作目は「パッションフルーツ」。小さいけれど南米のものより甘い沖縄産のパッションフルーツの魅力を引き出したデザートは、果皮を容器にし、見た目もパッションフルーツのかわいらしい一品に仕上がりました。
生のパッションフルーツは半分にカットし、果肉を取り出して果汁を絞りシャーベットにし、種は食感を出すために使います。果皮にシャーベット、パッションフルーツクリーム、その上にシリアルボールで種を表現。銀粉でゴージャス感を添えます。 |
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パッションシャーベットの上に凍らせたパッションクリームを絞る。 |
「日本にあるレストランのほとんどはお任せメニュー。メインに牛肉フィレを食べた後、口の中をさっぱりさせたい。そんなときは酸味のあるデザートを用意したい。これは酸味、材料、フレッシュ感の3点にフォーカスしたデザートです。今日はクリーミーなコーヒー味が1品目なのはメインコースのかわりです。」 さすがレストランのシェフパティシエです。 |
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「パッションフルーツ」。沖縄産の完熟したパッションフルーツを丸ごと使った爽やかなデザート。 |
次の3品目はラッカ氏によるデモンストレーション。「甘い日本の記憶…」と題し、グローバルフードとしてのお寿司をイタリアのジェラートで表現したらと考えた、見た目もユニークな一品です。
その構成は、台にピスタチオフィナンシェ、ハニーミルクのクリーミーセミフレッド、トップに海苔とオレンジジュレを飾り、甘く味つけしたお寿司用のガリ、ワサビ入りピスタチオフィナンシェパウダーを添えたもの。海苔のトッピングにもびっくりですが、添え物のガリとワサビはさらに衝撃的。でも、食べてみるとあら不思議、ミルキーで甘さ控えめ、さっぱりしたセミフレッドが、ワサビやガリと意外と合うのです。 |
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オレンジのジュレをマシンで仕込む。回転を遅くすると気泡ができにくい。 |
「イタリアのモールドを使って重ねて作る氷菓、スプモーネの伝統も入れて創作した。」というラッカ氏のアイデアに拍手。 |
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「甘い日本の記憶…」。ひょっとして厚焼き卵のイメージなのでしょうか!? セミフレッドはやわらかいジェラートにするためのクリスタル・ジェラートのプログラムで仕込んだ。 |
4品目からは再びフィオラーニ氏が担当。「余分なものより必要なものは無い。」という哲学的な作品名は、オスカー・ワイルドの言葉から。 塩味の食事とデザートはどう違うのか? 空腹であるか嗜好であるかの違いである。つまり、余分なデザートほど必要なものはない、というとらえ方。 どんなにお腹がいっぱいでも、こんなデザートが出てきたら心が満たされます。 構成は底からカカオ46%チョコレート入りカスタードクリーム、ラズベリースプーマ、チョコレートビスケット、ラズベリーシャーベット、キャラメルチョコレートジェラート、それらを覆うようにラズベリーメレンゲを飾り、ステンシルでワイルドの言葉を作成し、エアブラシでお皿に雰囲気を作ります。何とエレガントなプレゼンテーションでしょうか! ラズベリーのフルーティーな酸味とキャラメルチョコレートの甘さ、スプーマのなめらかさ、サクサク感、食感と香りに温度違いの面白さも加わり、五感を刺激する一品でした。 |
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60℃で乾燥させた約0.3mm厚さのラズベリーメレンゲを丁寧に素早くジェラートの周囲に組み立てていく。 |
「マシンを使うメリットは、2つのパーツを洗わずに連続仕込めること。マシンがほぼ中身を出してくれるので、チョコレート入りカスタードクリームの後にキャラメルチョコレートジェラートを仕込むことが出来、洗い物の手間が省けます。」 確かにボールやホイッパーを何個も洗うには人もいるし時間もかかりますよね。 |
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「余分なものより必要なものは無い。」THERE IS NOTHING MORE NECESSARY THAN THE SUPERFLUOUS とエアブラシで描かれたプレートにのせて。 |
最後5品目は「ティラミス眼鏡」。 「世界で一番有名なお菓子は? 検索サイトで調べるとティラミスが圧倒的なヒット数なんですよ。」 イタリア生まれのティラミス。今やラズベリー風味とか、ピスタチオ風味など様々な味のバリエーションが登場していますが、フィオラーニ氏はそれらには全く興味がないと言います。 「おまかせコースのデザートの頃にはお客さんは食べる気力を失っていますから、どう興味をひくかちょっと皮肉をこめて笑わせたい。眼鏡の形でデザートが登場したらセルフィー撮影してSNSにアップしたくなりませんか。」 目を閉じて食べれば伝統的なティラミス。でも眼鏡の形なら興味をひく。だから最後に持ってきたのだそうです。 伝統的なティラミスはサボイヤルディーにコーヒーを浸すのですが、もっと軽くしたいので、ゼラチンとコーヒー、砂糖を泡立て急速冷凍したフェイクビスケットを使い、マスカルポーネジェラート、スプーマを絞ります。眼鏡はマスカルポーネとバニラナメラカをドットに絞りコーヒーサブレとミルクチョコレートでサンドイッチ。カリっとした部分ととろりなめらかな部分が同時に味わえ、思わず笑みがこぼれます。ラストの疲れが出てきた頃、私を元気づけて、という'ティラミス'の意味通りのしめとなりました。 |
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二人で手分けして作業をすすめる。 |
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いかがでしたか? 今回刺激を受けたのはレストランデセールの考え方、気遣いと想像力。もちろんそれにはベーシックな技術が不可欠ですが、どうしたらお客さんの喜ぶ顔が見られるのか、そこから逆算して材料やレシピ、使う道具を選択していくヒントをいただいた講習会でした。貴重な時間をありがとうございました。 |
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