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取材・文 佐々木 千恵美 |
実りの秋、新米の季節になりました。コシヒカリ、あきたこまち、ササニシキ等、みなさんはいつもどんなお米を食べていますか? 毎日のご飯としていただくお米と同様、日本酒の原料となる酒米にも品種と特徴があるのはご存知でしょうか? ワイン党の私は普段日本酒をほとんど飲まないので山田錦くらいしか思い浮かばず、「雄町(おまち)」という酒米のことは、先日行われたイベントで初めて知りました。
そのイベントが「岡山地酒メディアセミナー」。会場は新橋駅を出てすぐのふるさとアンテナショップ「とっとり・おかやま新橋館」。 講師は岡山在住の日本酒ライターで、SSI 認定きき酒師、日本酒学講師の市田真紀さん。地元が誇る酒米「雄町」の取材活動に注力している市田さんのお話し、飲み方、おつまみとの相性といった実践はとてもわかりやすく、初心者にもすんなり雄町で仕込んだ日本酒の魅力が伝わってきました。 そのおさらいもこめて、ここに岡山の日本酒と雄町のことを紹介していくことにします。 |
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講師の市田真紀さん。 |
まずは酒米「雄町」のこと。
誕生は江戸時代末期の1859年。なんと山田錦や多くの酒米の祖先になった原生種なのだそう。背たけが高く倒れやすい、収量が少ない、病害虫に弱いといった理由で原生種ならではの不自由さがあり、戦後の効率化事情で一度は廃れかけてしまったのだとか。 |
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岡山県の雄町という場所で発見されたことから名がついた酒米は、他の種と比べ粒が大きく背たけが高い。160cm以上になることも。 |
また、お酒を醸すうえでも軟質米の雄町は吸水性がよく、溶けやすいことから扱いが難しく、杜氏泣かせの酒米ともいわれてきました。しかしひとたび雄町のポテンシャルを上手に引き出したお酒は格別、甘みのあるふくよかな旨みで、和食のみならず洋のおつまみにも合う、酒愛好家たちの心を掴む日本酒になるといいます。 |
昭和48年には作付面積が3haまで落ち込んだ雄町ですが、岡山県内の酒造会社からの強い要望により作付け拡大の取り組みがスタート。岡山の温暖な気候風土が栽培にマッチしていたこともあり、雄町の作付面積は年々増加。平成11年をピークとして伸び悩んだものの、平成20年(2008年)から「雄町サミット」を毎年開催するようになり人気も上々、岡山県産雄町を使ったお酒の出品数も平成28年には3倍以上の194点となり、雄町の作付面積も再上昇しました。
こうして雄町は‘幻の酒米’から‘岡山の誇り’へと変貌していったのです。 さあ、ここまで知ると雄町の味わいとおつまみとのマッチングが気になります。この日セミナーに用意された雄町のお酒は2種類。いずれも備前焼で供されました。 (1) 喜平 純米吟醸 木桶仕込み(喜平酒造) (2) 酒一筋 時代おくれ 山廃純米吟醸(利守酒造) 昔ながらの木桶で仕込まれた(1) からは、ほんのり木の香りが漂い、マイルドな甘みとほんわりした酸のバランスが心地よく、(2)は独特の上品な甘みと白ワインのような酸の広がり、旨味を感じました。 「飲み比べがわかりやすいように、対照的な2種を選びました。それぞれのおつまみとの相性も印象が変わってきます」と市田さん。 |
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備前焼のお猪口でいただきます。右が(1)喜平 純米吟醸 木桶仕込み 左が(2)酒一筋 時代おくれ 山廃純米吟醸。 |
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真ん中のボトルが(1) |
そのおつまみは牡蠣のアヒージョ、蒜山ジャージーゴーダーチーズ、岡山果物語(くだものがたり)干しピオーネ、おかやま和牛肉ローストビーフの4品。いずれも岡山の特産品ですが、よく見るとこれらはすべて洋風のもの。なんだかワインのお供っぽいですよね。でもそこがミソ。実際ペアリングをすると、旨みの強い雄町は、お肉やチーズといった適度な熟成感と脂分を持つものととても合うのです。(1)はチーズの旨みを引き出し、干しピオーネと(2)を口に含めばデザートのような感覚に。ぬる燗にした(2)とローストビーフは旨みのトーンが同じでびっくり。こんなふくよかさのあるお酒なら、スイーツに合わせても、またお菓子の香り付けに使ってもいけるのではと思いました。 |
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おつまみは左から岡山果物語(くだものがたり)干しピオーネ、蒜山ジャージーゴーダーチーズ、牡蠣のアヒージョで、いずれもとっとり・おかやま新橋館のショップで販売している。 |
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おかやま和牛肉ローストビーフは、とっとり・おかやま新橋館2階のビストロカフェ「ももてなし家」の看板メニューでもある。やわらかい肉質としっかりした風味が雄町と好相性。 |
食中酒としておすすめできる雄町はまさに食欲の秋にぴったりなわけですね。雄町を愛する「オマチスト」たる人々が増加の一途というのも頷けます。
とっとり・おかやま新橋館での岡山の雄町の地酒を楽しむ「岡山地酒BAR」イベント(10月19日〜21日)は終わってしまったけれど、年明けには「備前焼で愉しむ雄町米の地酒BAR」が開催されます。(2017年1月12日、13日) 雄町のお酒が気になる方は、ぜひカレンダーにマークしておいてください。備前焼で飲むやわらかな口当たりも、美味しさに一役かっているはずですから。 |
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