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取材・文 下園 昌江 |
9月に開催されたパレスホテル東京のクリスマスケーキ&ブレッドの発表会。 毎年華やかなクリスマスケーキと共に注目を浴びているのがクリスマスブレッドの数々。 発表会の際には各テーブルにペストリーとベーカリーシェフが来て下さり、質問やお話をする機会がありました。 |
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星敏幸シェフ | シュトーレンをはじめとするクリスマスブレッド |
その際ベーカリーの星敏幸シェフとのお話で、今年は約3000本のシュトーレンを準備する予定だということ! しかもそれを1本1本手成形するということを伺いました。
通常の仕事をしながらそれだけ多くのシュトーレンを手成形で作り上げることは並大抵のことではないと驚いたパナデリアスタッフ。是非シュトーレン成形の様子を見せていただきたいと取材を申し込みました。 |
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シュトーレン成形はスタッフ全員で行う |
取材当日ホテルの地下にある厨房へ伺うと、スタッフが中央にある作業台を囲んで一斉にシュトーレンの成形を始めていました。 通常の仕事ではそれぞれの担当している作業をするそうですが、シュトーレンの成形に関しては数が多いこともあって、ほぼすべてのスタッフで一気に成形していくそうです。 作業台の上には棒状に伸ばしたマジパンとシュトーレン1台分の生地が番重にいくつも並んでいます。 |
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生地を薄くのばし、マジパンを巻き込んでいく |
生地を細いめん棒でのばし、棒状のマジパンを巻き込んで腰高に成形していきます。
あまりにも素早く作っているので成形しやすいしっかりした生地なのかと思いましたが、実際はそんなことはなく室温に戻した状態の柔らかい生地だそうです。ドライフルーツの含有量も多く扱いにくい生地だと思いますが、生地にストレスを与えないように素早く成形するために、何度も繰り返し体で覚えた技術なのだと感じました。 この後、2次発酵し焼成という流れになります。 |
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シュトーレン用の漬け込みドライフルーツ |
今回成形作業を見せていただいたのは毎年登場している定番のドライフルーツ入りのシュトーレンです。 昨年まではキルッシュ(さくらんぼを原料とする蒸留酒)に漬け込んだドライフルーツを使用していましたが、今年はキルッシュとパスティスをブレンドして漬け込んでいます。 パスティスはフランスのリキュールで、スターアニスやハーブの風味がつけられた個性的な味が特徴です。このリキュールを使用することにより爽やかな香りが増すと同時にドライフルーツの美味しさを引き立ててくれます。 漬け込んだドライフルーツを試食させていただきましたが、キルッシュの華やかさとパスティスのハーブやスパイスの香りが合わさり、爽やかな風味がありつつ複雑で奥深さのある味わいでした。 |
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冷たいバターをなめらかに練り、マジパンと混ぜ合わせる |
シュトーレンの生地にはバターとマジパンを練りこんでいます。 バターを冷たい状態で保ちながらミキサーで攪拌しなめらかな状態にしてから、マジパンを加え混ぜ合わせていきます。この作業がシュトーレンの焼き上がりの食感に影響し、サクッとした軽い食感がでてくるそうです。そのため生地を仕込む際の温度管理が重要になってきます。 このバターとローマジパンを、中種(粉や酵母、水分などを合わせた生地)と合わせて、ドライフルーツを加え1次発酵、分割、成形、2次発酵、焼成という工程を経てシュトーレンが焼きあがります。 焼いて完成ではないところがシュトーレンの特徴で、通常は澄ましバターに漬けて表面に砂糖をまぶします。それをここでは、澄ましバターではなく焦がしバターを使用することでバターの持つ甘い香りや香ばしい風味を活かしているのが特徴です。 |
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焼きたてのシュトーレンをスライスする星シェフ |
焦がしバターにさっとくぐらせ、表面に砂糖をまぶしたらすぐに冷凍します。 バターは生地に染み込ませるためではなく、生地の表面をコーティングして被膜を作りさっくりした食感や香りを保つために使います。バターにくぐらせてから時間が経つと生地がバターを吸って柔らかくなってしまうので、できる限り素早く砂糖をまぶし冷凍することが重要です。 また型ではなく手で成形するのは、型よりも直接天板にのせて焼いたほうがオーブンの熱の入り方がよくサクッとした食感が出るからということで、美味しさや食感を優先した製法でした。 星シェフのいう、「さくみのある食感(サクッとした歯切れの良い食感)」をだすために、仕込みの生地温度の管理、手で成形すること、焼成後の仕上げをした後すぐに冷凍にすることなど細かい工夫がなされている事がわかりました。1つのパンに対してこれだけの工夫がされているということは、他のパンも同様にその生地に合わせた素材選びや仕込み方、焼成など星シェフならではのこだわりがあるのだろうと思います。 シュトーレンの食べごろは解凍後1カ月ほど熟成してから。 フルーツと生地がほどよく馴染んできたころが美味しいそうです。 |
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焼きたてのシュトーレンからは甘くスパイシーな香りが漂ってきます |
しかしながら「焼きたてのシュトーレン召し上がってみませんか?」と星シェフからの意外な提案で、焼き上がりまだ温かい状態のシュトーレンを試食する機会に恵まれました。
食べる前からドライフルーツの芳醇な香りやマジパンのコクのある香りが漂ってきます。 口に含むと、バターや生地、ドライフルーツ、マジパンそれぞれの個性が活きていて、熟成して一体感が出たシュトーレンとは全然違う味わいに驚きました! 焼きたてならではのそれぞれの素材が突出した味わいと、鼻腔を抜ける心地よい風味は、まるでデセールのような感覚です。これは熟成させたものとは別の美味しさがあり新しい発見でした。 時間を経て味わいの変化が起きるシュトーレンはまさに生きたパンだな、と感じました。 |
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最後にスタッフの皆さんで記念撮影。 スタッフは現在14名が在籍し、ホテル内のレストレン、ショップ、宴会などで提供されるパンを大小合わせ40〜50種も作っているそうです。 通常の仕事をしながらクリスマスブレッドの準備が加わるため、これから非常に忙しい時期となりますが、星シェフの仕事に対する考え方を伺うと、「まず、第一に美味しいものを作る事。」そして「そのために必要な時間や発酵のコントロールをしっかりし、効率よく仕事を行う事。」という回答が。 そのためには、スタッフの育成も重要な課題となってきます。スタッフにはできる限り多岐に渡り仕事を覚えられるよう、一定期間で担当を変更して数年で一通りの仕事ができるように指導しているそうです。 |
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今年の新作シュトーレン「プラリネ シュトーレン」 |
また今年の新作シュトーレンは、初めて商品開発をスタッフに任せるなど、スタッフの育成についても日ごろから考えている星シェフ。
すでに来年のシュトーレンのアイデアも出ていて、「○○を使おうかと思っているんですよ。今酵母を育てているんですが、これがまた面白くてね」と楽しそうな笑顔で話してくださいました。本当に酵母の世界、パンの世界がお好きなシェフなのだと感じた瞬間でした。 パレスホテル東京のシュトーレン、今年はすでに予約が始まっています。 今年は取材した定番のシュトーレンを含め、4種類のシュトーレンが登場します。 4種類をミニサイズにした4種セットもあり、いろんな味を楽しみたい方には嬉しいですね。 パレスホテル東京のシュトーレンは年々人気が高まっていますので、気になる方はぜひお早めにご予約下さい。 |
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