木のひげ 牟田口 嘉典 氏 | ![]() |
![]() それまで僕、パン屋になりたいなんて思ったこともなかったし、焼いたことも1度もなかったので、仕事で生地をいじらされますよね。でもめちゃくちゃですよ。これはちょっと僕にはできないな、なまはんかな気持ちじゃあパン屋はできないな、って翌日から毎日のように店を辞めようかと思っていたんですよ。でも、丁度1週間経った時、ちょっとしたコツが身に付いたんですよ、パン生地を丸めていて。「力を入れたときにパンから力が返ってくるのがわかれば大丈夫だよ」って一緒に働いていた誰かが言ってて、「あ、この感覚かな」、「できるじゃん」って。それから俄然のめり込みましたね。 家具でもいいしなんでもいい。何かものを作って自分を表現したい、とずっと思っていたんですよ。「できるじゃん」と思ったときに、パンでずっとやっていかれる、自己表現ができると思いました。 ![]() そんな風に始めてきたので、実はイーストもいじったことはない。レーズンから酵母を起こして国産の小麦を使って焼いていますが、それが大変か、扱いにくいかと聞かれても「ル・ヴァン」の時からそれしかやっていないから、わからない。でも、思う通りのパンを焼けるようになるまでには時間がかかりました。最近では、パンのほうから「そろそろ発酵はおわりにしてよ」「そろそろ成形してよ」「そろそろ窯に入れてよ」と声をかけてくるんですよ。その通りやればいいだけなんです。だからあまり苦労はしていない。今、僕のパン、結構いいな、って思ってるんですよ。 ![]() 取材日 1999年 |