取材・文 佐々木 千恵美  


昨年6月、イオンタウン吉川美南敷地内 アクアイグニス吉川美南にオープンした「LE CHOCOLAT DE H 吉川美南店」が、1周年を迎えると同時に、店舗内に設置されたカカオロースタールームが本格的に動き始めました。辻󠄀口博啓シェフの長年の夢であるカカオ農園から1枚のタブレットショコラへ一貫して手掛ける「FARM to BARショコラブティック」が、6月3日(金)に始動、お披露目となったのです。

昨年オープン時のレポート


2022年6月3日、アクアイグニス吉川美南にて開催されたプレス向け新作発表会にて。辻󠄀口博啓氏(左)とイオンタウン株式会社代表取締役社長 加藤久誠氏。


今回の内覧会では、ペルーに自社農園を取得したこと、そこから世界最高品質のカカオ豆作りを目指し、カカオ豆の栽培、発酵・乾燥、製造工程を徹底管理していること、農園の地域やカカオ品種の特色を生かした、LE CHOCOLAT DE Hの個性を感じるオリジナルなショコラを作りあげ私たち食べ手に届けることに、ショコラティエとして手ごたえを感じていると辻󠄀口氏は語ってくれました。


「ブランドを立ち上げてから19年間の蓄積の中でようやくこういう自分のオリジナルショコラを作ることができた」と辻󠄀口氏。


LE CHOCOLAT DE Hのペルー自社農園。ここではオーガニック栽培を行っている。


また、同日販売開始となったカカオ産地の異なる12種類のタブレットショコラを辻󠄀口氏の解説とともに試食したのですが、これがそれぞれに特徴的。「FARM to BAR」の文字通り、農園からタブレットショコラまでを一貫して行うことで、その土地で育ったカカオ豆のアロマを最大限に生かす製法を見出し、作り上げられたストーリーが伝わってきました。特に自社農園のあるペルーの4種類は、口に含むといきなりフルーツ農園に連れていかれたかのようなフレーバーの豊かさに驚かされます。


 第1弾 6月3日(金)より販売開始
産地を楽しむ12種類のタブレットショコラ 税込各780円  

「LE CHOCOLAT DE H FARM to BAR TABLETTE DE CHOCOLAT」


テイスティング用に供された12種類のタブレットショコラ。


当日試食した12種類の解説とともにテイスティングコメントを交えて紹介します。

1PEROU Cacao blanco 70% ペルー カカオブランコ

 ペルー北部の高品質なカカオ豆で名高いピウラ地方で採れるホワイトカカオを使った、ラズベリージュースにライム、グレープフルーツの皮、バルサミコ酢を混ぜたミックスジュースのような味わい。
フィニッシュにお茶のような渋みと黒糖のような甘さも感じ、余韻も長く複雑。

2PEROU Cacao chuncho 70% ペルー カカオチュンチョ

 ペルー南部の山間部クスコ地方で作られる希少品種「チュンチョカカオ」は、マンゴーやパッションフルーツなどトロピカルフルーツ、それにカカオ由来としては珍しいマスカット風味も感じられ、奥行きを感じる渋みにはコーヒーやナッツ、シナモンの要素も。
最初にバナナのような滑らかな甘み、そのあとすぐにパッションフルーツのようなフルーティーさとまろやかさが印象的。

3PEROU Cacao amazon nativo 70% ペルー カカオアマゾンナティーボ

 ペルー中部で栽培される希少かつ高品質なアマゾン・ナティーボ・クリオロから作られるプレミアムショコラ。柑橘系の香りとともにココナッツやアーモンドといったナッティーな含みが感じられる。シナモン、生姜、わさびなどスパイシーな印象も特徴。
ナッツの甘さの後に爽やかな柑橘系の酸味、最後にシナモンなどスパイスを感じる。

4VENEZUELA 70% べネズエラ

 ベネズエラの首都カラカスの西方にあるパタネモで栽培される希少なクリオロ種を使用。ライムやブラッドオレンジなど柑橘類を思わせる溌剌とした印象とともにレッドフルーツ、レモングラスやペッパーの辛み、かすかにアニマルのようなニュアンスがあり、ラグジュアリーでセクシーなショコラに仕上がっている。
柑橘系の酸味とスモーキーな香りが大人っぽく癖になりそう。

5MADAGASCAR 70% マダガスカル

 北西部サンビラーノ渓谷で厳密な温度管理のもとに発酵、天日干しされたカカオ豆からは酸味とレッドフルーツといったこの国のカカオの特徴を見事に表現している。シナモンやミント、土の香りもあり、スパイシーでやや強い渋みにより重厚な味わいに仕上がっている。

6Trinite-et-Tobago 70% トリニダード・トバゴ

 トリニタリオ種の名の由来となったカリブの島国で採れる高品質なカカオ豆を使用。スコッチウイスキーやギネスビールを連想させる燻したようなフレーバーで、そこから黒糖やきなこ、ほうじ茶、ゴボウなどへとイメージがつながります。柑橘類の爽やかさ、フルボディの赤ワインのような渋みも共存し複雑なニュアンスを持つ。

7EQUATEUR 70% エクアドル

エクアドル中西部海岸地域で栽培された高品質なアリバ種カカオを使用。フローラルな香りがクローズアップされやすい品種ですが、フルーツ(ライム、グレープフルーツ)、スパイス(シナモン、ペッパー)、ハーブ(ミント)、さらにはミルクコーヒーのような風味もあり渋み酸味苦みのバランスの良い上品な味わいに仕上がっている。
ヨーグルトやキャラメルのようなニュアンスも感じた。

8VIETNAM 70% ヴェトナム

 ベトナム南東部バリアブンタウはリゾート地としても有名だが、山側には小規模なカカオ農園が広がっている。この国の主要品種トリニタリオ種から作られるショコラはレモン、ライムの柑橘の味わいが特徴。また、カカオと共に植えられているペッパーやカシューナッツのニュアンスや、レモングラス、山椒、シナモン、コリアンダーといったスパイスの香りも加わり複雑な印象を与えてくれる。

9PHILIPPINES 70% フィリピン

 メインノートはアーモンドやクルミなどのナッツ類。ココナツやコーヒー、黒糖の風味も感じられる。酸味は穏やかだが、ナッツの甘みが広がり爽やかな苦みにミントとシナモンのニュアンスが複雑みを加えてくれる。

10TANZANIE 70% タンザニア

 赤道直下の南緯8度に位置するタンザニアモロゴロ州にて小規模農家たちによって作られる高品質なカカオ豆を使用。カシスやブラックベリーなどベリー系の深い味わいの中に、クローブ、シナモン、コリアンダー、レモングラスなどスパイシーなニュアンスも感じられる。

11PEROU chocolat au lait 50% ペルー

 ペルーの自社農園で栽培される希少なカカオ豆を使用したプレミアムなハイカカオミルクチョコレート。アーモンド、いちご、ヨーグルトなどの優しい香りが漂い、甘酸っぱくクリーミーでまろやかな仕上がり。

12VENEZUELA chocolat au lait 50% べネズエラ

 4番のビターな風味を生かした、柑橘類とレッドフルーツの香りが爽やかなミルクチョコレート。微かに感じられるカカオ発酵臭により、奥行きのある味わいに。


テイスティング時にサービスされたカカオティーもとても香り高くまろやか。


試食の後は白衣とキャップをして店舗中央にあるロースタールームの見学へ。
向かって左のカカオ豆を最適に保存するカカオ豆の品質管理部屋から一番右のコンチングまで、カカオ豆からショコラになるまでを一貫して手掛けるスペースとなっていて、中心に構える大きなロースターは圧巻。日本に1台しかない特注で、辻󠄀口氏のこだわりでアロマを最大限に引き出すブラジル製のカカオ専用ボール型ロースターなのです。


CONTROL 品質管理の部屋。農園から届いた麻袋入りカカオ豆は、日本の気候に合わせて豆を密閉して19℃位に保ち湿度を厳重に管理。最適な状態を保つ。


Bean to Barのショコラティエで一般的に使われているのは、熱風が回るコンベクションオーブン、もしくは筒状の回転ロースターですが、ボール型はまんべんなく熱があたる球状です。そこにガスのパワフルな火力を当て、風量や火力、時間などを細かく調整し、たどり着きたい状態を見極めながら最後は1分ごとにチェックしていきます。このボール型ロースターで焙煎したカカオ豆は明らかにコンベクションオーブンを使ったものとは味わいが違うと辻󠄀口氏はいいます。世界でもそれほどないボール型ロースターの設置は、「FARM to BAR」の実現にはどうしても外せないものだったのです。


ボール型ロースターは一度に最大60kgのカカオ豆を焙煎できる。


焙煎の次の外皮(ハスク)と内側(ニブ)に分離するウィノワ。


MIXING 混合のマシン。
ウィノワと手作業での分離工程を終えたカカオニブは、粉糖などを加え混合します。


またローストしたカカオ豆と砂糖をローラーですり潰しペースト状にするリファイナーを設置することで、BEAN to BAR では表現することが難しいなめらかさを実現。これによりコンチングも従来より短い時間で風味を損なわずに仕上げられるようになりました。


REFINING 磨砕のマシン。 ローラー同士の摩擦でなめらかなペーストに。


出来立てのローストカカオ豆そのものを味わってほしいと、新たな商品もできました。



 CACAO BEANS カカオビーンズ  6/11(土)より発売開始
税込1,620円 

CACAO BEANS(イメージ)


産地の異なるカカオ豆をそのカカオから作ったショコラでコーティング、カカオ豆とショコラ、同じ産地でも2つの異なる味わいを楽しめるカカオビーンズです。ペルーの自社農園で採れたカカオ豆や様々な産地のカカオ豆のアロマを生かした「FARM to BARショコラブティック」が作るスペシャルショコラです。


今後は出来立てすぐの発酵の香りのするカカオを使ってデザートを作っていきたいと辻󠄀口氏。新たな展開は始まったばかり。どんな風に楽しませてくれるのか、続けて注目していきたいと思います。


なお、新商品TABLETTE DE CHOCOLATのペルー産カカオの4種類は、生産量がまだ少ないため、当面アクアイグニス吉川美南のLE CHOCOLAT DE Hにての扱いとのこと。その他も他店では限定的なようなので、ぜひ一度お店に足を運んでみてください。


TABLETTE DE CHOCOLAT12種類は、ロースタールームの前に並んでいる。


辻󠄀口博啓氏コメント「FARM to BAR への想い」

カカオ農園に行って感じるのはショコラを長年作り続け、まだ知らない世界が此処にあるということでした。より深くカカオを知りたいという欲求から、品種の異なるカカオをそれぞれ育てあげるだけでなく、収穫後の発酵やその発酵後の管理により生まれる味わいを自社で研究開発する事が必要だと感じたのです。

私が自社農園をスタートする中で1番初めに選んだ地は南米ペルーです。サロン・デュ・ショコラ・パリでもショコラティエの間で非常に注目されているペルーのカカオ。アンデス山脈の豊かな水源、壮大な熱帯雨林、地球温暖化リスクにも耐えうる場所だと感じ、ペルーに的を絞り、農地を探し求めました。

ペルーの場所はまだシークレットですが、そのカカオのレベルはかなり高いものです。特にチュンチョと呼ばれる小さなカカオは香りの良さ、甘味、今まで食べたカカオの中でも濃厚な味わいを持っています。ペルーは北から南までそれぞれ特徴的な味わいのカカオが採れます。
北部ピウラ地区ではホワイトカカオ、ペルーの南部内陸ではチュンチョやナティーボが多く生息し、環境によって味わいが異なってきます。それを解読するのは難しいですが、発酵の仕方や管理によってかなりグレードの高いカカオができるでしょう。
また、カカオ農園の中に自然と生えてきた胡椒やカムカムなどの植物もこれからのショコラづくりに様々な付加価値をもたらしてくれるのではないかとFARM to BARでしかできない無限の可能性を感じています。


アクアイグニス吉川美南

 所在地:〒342-0038 埼玉県吉川市美南3丁目25-1
 https://aquaignis.jp/yoshikawaminami/

LE CHOCOLAT DE H
 https://www.lcdh.jp/




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