取材・文 佐々木 千恵美  


「Bean to Bar」という言葉が聞かれるようになって、もうどのくらいになるでしょうか。英語で示す通り、カカオ豆(Bean)から固形のチョコレートバー(Bar)になるまで、すべての工程を1つの作業所で完成されるのが「Bean to Bar」チョコレート。
それならメーカーの工場だってBean to Barなのですが、ここではアメリカ発祥であるクラフト&スモールバッチ(少量生産)スタイルのことを指します。

2007年ごろからか、アメリカでサードウェーブコーヒーが話題となり始めた頃、コーヒーと共通点の多いチョコレートにも素材や作り手のこだわりがあるもの作りムーブメントがおこり、「Bean to Bar」チョコレートが誕生。その波は瞬く間に世界に達し、現在世界中に500社近くもの Bean to Bar メーカーがあると言われています。
日本でも2014年頃から数多くの Bean to Bar メーカーが誕生。その数は現在正確には把握できないにせよ、ざっと50〜60ブランドはあるのだとか。いつの間にそんなに!?という数字です。全てをリストアップできる人がいたらそれこそ教えてほしいですね。

そんな小さな作り手のBean to Barのクラフトチョコレートを、日本国内のブランドだけでなく海外からも協力を得て、人気メーカーが一同に会する「Craft Chocolate Market 2018」が1月27日(土)〜28日(日)の2日間、東京・清澄白河にあるイベントスペースThe Fleming Houseにて開催されました。企画主催したのはダンデライオン・チョコレート・ジャパン。2016年に蔵前にオープンしたアメリカ・サンフランシスコ発のBean to Barチョコレートブランドである彼らが中心となって、同年から立ち上げ、今年で2回目を迎える日本で唯一の Bean to Bar チョコレートに特化したイベントです。

一般が参加するためには入場チケットをネットで事前、または当日その場で購入し、試食したり作り手またはスタッフと会話しながら、気に入ったチョコレートがあれば購入できるというもの。日本国内の知られざるブランドに加え、これまで日本未輸入・未発売だった海外の貴重なチョコレートも限定販売されるとあって会場はチョコレートラヴァーでいっぱい。一時入場制限をせざるを得ないほどの混雑で、その熱狂ぶりに驚かされました。SNSなど情報発信の影響力なのか、とにかくすごいことです。


町工場の多い清澄白河は今注目のクラフトショップスポット。会場は倉庫を改装したThe Fleming House。


午後には行列ができるほど予想を上回る入場者で賑わった。


そもそも自らもBean to Barチョコレートを作るダンデライオン・チョコレートが、どうしてこのようなイベントを開催するのでしょうか。趣旨を伺ってみると2つの柱がありました。
一つは日本国内において Bean to Bar を単なるムーブメントで終わらせることなく、文化として根付かせたいということ。もう一つは、海外には発信したくても、まだ規模も小さくてなかなか輸入業者が見つけられない作り手のクラフトチョコレートを、日本に紹介するきっかけ作りをしたいという思いです。


今回参加したクラフトチョコレートメーカーは国内16、海外13の計29。

国内クラフトチョコレートメーカー
 Artichoke chocolate (東京都)
 CHOCOZEYO (高知県)
 green bean to bar CHOCOLATE (東京都)
 love lotus (石川県)
 サンニコラ (石川県)
 Artisan Chocolate 33 (千葉県)
 BENCINY (京都府)
 カカオ研究所 (福岡県)
 CACAO SALON A-fuku (東京都)
 chocolat&lee (香川県)
 ChocoReko (埼玉県)
 CRAFT CHOCOLATE WORKS (東京都)
 imalive chocolate  (三重県)
 Salagadoola (東京都)
 sweets ESCALIER (新潟県)
 八幡屋礒五郎 (長野県)

海外クラフトチョコレートメーカー
 Chequessett Chocolate  (アメリカ)
 MAROU, Faiseurs de Chocolat (ベトナム)
 PANA CHOCOLATE (オーストラリア)
 Hogarth Craft Chocolate (ニュージーランド)
 Hunted + Gathered (オーストラリア)
 Mirzam Chocolate (アラブ首長国連邦)
 Parliament Chocolate (アメリカ)
 Pipiltin Cocoa (インドネシア)
 The Smooth Chocolator  (オーストラリア)
 Soklet (インド)
 Svenska Kakaobolaget (スウェーデン)
 The Wellington Chocolate Factory (ニュージーランド)
 Dandelion Chocolate (アメリカ/日本)


メーカーの方が直接対応するブースでは、少しお話しを伺うこともできました。Bean to Barチョコレートの特徴かもしれませんが、作り手はお菓子関係の出身者ばかりではなく、異業種から転身、もしくは兼業も珍しくはありません。

千葉県市原市でもともとカフェをやっていてチョコレート製作&販売は33歳の時にスタートした「Artisan Chocolate 33」。産地別タブレットの他に、地元の卵や食材を使ったチョコレートマカロンやガトーショコラも作っています。コーヒーとカカオは共通点があるからつながりやすい。コーヒー畑からBean to Barに興味を持ち始める。これが最もよく聞くケースですね。


「Artisan Chocolate 33」のBean to Barチョコレートと地元卵を使ったチョコレートマカロン。


高知県の「CHOCOZEYO(チョコゼヨ)」は、オーナーがアフリカ専門旅行会社を経営、同時に撮影コーディネーターであるネットワークを生かし、現地農家からカカオ豆を直接仕入れて加工。そのチョコレートは、砂糖の代替として、ステビア、ヤーコン、メスキーテの3種類を使用。きっかけはボディビル大会に向けて減量するため。栄養価も高く健康にいい理想の糖質制限チョコレートがあればと始めたそうです。

CHOCOZEYO(チョコゼヨ)」のブースでは、オーナーがチョコレートとともに甘味原材料の説明、試食も行っていた。 左からステビア、ヤーコン、メスキーテ。



石川県の「love lotus」は、ベトナム産の無農薬カカオで非加熱のRAWチョコレートを作っています。カカオ産地での児童労働問題等に向き合った活動もするというコンセプトで、金沢の特産品である棒茶や塩をブレンドし、あえてテンパリングをせずザクザク感を残した古代製法のチョコレートの他、加賀棒茶とカカオ豆の皮をブレンドしたカカオ棒茶も製造。チョコレートを単なる食べ物としてとらえるのではなく、社会的観点から発信するメーカーも増えました。こちらはそのひとつといえますね。

金沢で日常飲まれる棒茶とカカオ皮をブレンドした「love lotus」のカカオ棒茶。


同じ石川県にある「サンニコラ」。こちらは元からパティスリー&ショコラティエ。大手メーカーの使い勝手の良いクーヴェルチュールを使えば、お菓子もショコラもある意味自由に表現できる現代において、あえてBean to Barをやる覚悟とは何でしょうか。現場を見に行ってやりたくなったということと、金沢という伝統工芸と茶文化、菓子文化の地域性と、Bean to Barというクラフトマンシップは通じるものがあるというお話しになるほどと思いました。何年後かにチョコレートも金沢の伝統文化になればという思いがこめられているのですね。

「サンニコラ」のBean to Barはシングルオリジンの種類も豊富。

ジャンドージャなどのフィリングを詰めたバールショコラ。チョコレートのカバーはBean to Barをバランスよくブレンドしたもの。


ここからは海外メーカーを少し。
アメリカ東海岸、マサチューセッツ州ケープコッド発の「Chequessett Chocolate」は、漁師でカフェを営むカップルKatieとJosiaが始めたBean to Bar。主にコスタリカ産のカカオを使い、プレーンやミルク、海塩、ベリーやナッツ、スパイスなどを合わせ、バラエティー豊かなラインナップ。ブースを飾っていたブイやパッケージの海図などから、彼らのアイデンティティを読み取ることができます。

「Chequessett Chocolate」のラインナップ。

ブルーのパッケージは海図をイメージ。


そしてスウェーデンからはPanaderiaの北欧お菓子&パンの旅日記でも紹介した Svenska Kakaobolagetがやってきました。
4年前にスタートした時は、スリランカ産カカオ1本だったのが、タンザニア、ペルーと産地も増え、ブレンド、ミルク、カルダモン、ペパーミントなどフレーバーと合わせたものが登場。産地別の個性的味わいはもちろん、ブレンドものはスウェーデンの味そのものが表現されていて興味深い。

「Svenska Kakaobolaget」のラインナップ。スウェーデンのミルクを使ったオリジナルブレンドやカカオ100%も登場。

オーナーで作り手のウリカさん。


アラブ首長国連邦の「Mirzam Chocolate」。アラブのお菓子らしいローズやカルダモンの香り、デーツ入りのタブレットから、フェネル、フィグ、カルダモンなどを組み合わせたユニークなシングルオリジンのタブレットなどを紹介していました。外国人居住者のほうが多いドバイならではのチョコレート文化なのでしょうか? 女性の手によるデザイン、コーディネートもとても素敵です。

様々なクラフトチョコレートメーカーの品が並ぶダンデライオン・チョコレートのブース。「Mirzam Chocolate」は手前中央。


大賑わいすぎてお話を伺えなかったメーカーもたくさん。

東京の「green bean to bar CHOCOLATE 」

ベトナムの豆で発信「MAROU, Faiseurs de Chocolat」は日本未発売のボンボンも限定販売。


小さな力も集まれば大きな力に。情報交換が発展と成長に。一般参加者にとっては、作り手の考え方や商品の内容を詳しく聞けるし、そうしていただくチョコレートは一層味わい深く感じることができるというもの。それが人伝に広まって、Bean to Bar の文化がじんわり浸透していけばいい。

ダンデライオン・チョコレートのドリンクコーナー。カカオニブ・コールドブリューは、ダンデライオン・チョコレートのカカオニブとコーヒーを水出ししたドリンク。相性のよいコーヒーとカカオですっきりした味わい。


誰もが子供の時から親しんでいるチョコレートは、世の中を変えるきっかけ作りに結びつきやすい。それぞれのクラフトチョコレートにこめられたものを伺い、ふとこれからのことを考えさせられたイベントでした。


ダンデライオン・チョコレート
 http://dandelionchocolate.jp/

Craft Chocolate Market
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