ウェーデン南部のレポート。今回は素敵なチョコレート屋さんを紹介します。


そのお店は、マルメからローカル列車で1時間弱、イスタYstadという駅で下車し、バスに乗り換えて30分の小さな村にありました。のどかな畑と住宅が続く通りに四角い吊るし看板が見えたら、そこがÖsterlenchoklad fabrik & butik(エステリンホクラード)。

バス停から歩いて5分ほどで看板が見つかる。 元学校だから敷地も広々。


レンガ作りの建物に一歩足を踏み入れると、白と木目と黒を基調にしたシンプルでしゃれた内装に、センスの良いチョコレートやチョコレート菓子類が並び、ガラス越しにはチョコレート工房と、わくわくする空間が広がっていました。こんな田舎にこんなにテンションが上がるチョコレート店があるなんて! やっぱりヨーロッパの食は都会だけ見てもはじまらない。

店内はシンプルでスマート プラリネはミルクとダークの上掛けで20種類ほど。

何気ないチョコレートバーのディスプレイがおしゃれ。


地元のテイストと世界のテイスト、手書きのプラリネのメニュー。

ショーケースのチョコレートと壁に掛かったメニュー表をじっと見ていると、お店の若い男性が私に声をかけてきました。

「失礼ですが日本人ですか? でしたらちょっと待っていてください。」

すると奥から若くてチャーミングな女性が出てきました。

「はじめまして。ウリカといいます。日本語でどうぞ。私の母が日本人なので、日本語はなんとかわかります。」

お店のオーナーの一人、ウリカ Ulrikaさんはスウェーデン人と日本人のハーフ。彼女に出会えたことで、お店の訪問がとても充実したものになったのです。

ウリカさんとフレドリックさん。


実際伺ってみるまで、どんなところなのか全く情報がなかったので(webサイトも現在のものより簡素だったので)、日本語でお話しを詳しく聞くこと、ラボを見学させていただくことができ、本当にラッキーでした。

「私たちは元々ストックホルムに住んでいました。でも田舎暮らしに憧れてここスコーネ地方に引越してきました。そして新たなビジネスとして、売りに出ていたチョコレート店を名前はそのままに、自分たちのやり方で再スタートさせたのです。」

1893年に建てられた学校が1970年代に廃校になった後、2004年にオープンした最初のチョコレートショップ Österlenchokladを、ウリカさんご夫婦が2013年に買い取り、リニューアルオープンさせたお店だったのです。最初に声をかけてくれた男性がご主人で共同経営者のフレドリック Fredrik さん。お二人はこの場所でチョコレート店を始めた3年前に結婚式を挙げました。仕事と人生の新たな一歩を踏み出す、素敵なセレモニーだったことでしょう。

入り口正面の壁に貼られた新聞や雑誌等の記事。その中には、お二人のウエディングの写真も。


すすめのプラリネ(ボンボンショコラ)をいくつかいただきながらウリカさんにお話しを伺いました。

一つ目はアップルケーキ。
口に含んだ瞬間に甘酸っぱくて懐かしいホームメイドのアップルケーキ! 思わず声に出してしまったほど、ケーキっぽいテクスチャーと風味ににっこり。果物のガナッシュなら普通にあるけれど、一歩踏み込んでケーキを表現するところに発想の豊かさを感じました。でもその感性を実現するのには、とてつもない手間がかかっていたのです。

「地元のリンゴをすりおろしてジュースにして、煮詰めてシナモンとホワイトチョコレートで調整してガナッシュにします。そこから水分を抜くのに2日間おいてから上掛けしてようやくできあがります。スウェーデン人の大好きなアップルケーキの味をチョコレートに閉じ込めることに成功しました。その甲斐あって、このプラリネは2015年のインターナショナルチョコレートアワード・スカンジナビアで金賞をいただきました。」

スタートして間もないのに金賞受賞とはすごい。

同時にローズマリーのプラリネが銅賞。そして2016年には、ニューヨークチーズケーキが銅賞を受賞しています。

右から金賞のアップルケーキ、山羊ミルクチーズ、銅賞のローズマリー。


インターナショナルチョコレートアワード・スカンジナビア2015年受賞の証。

2つ目は山羊ミルクチーズのガナッシュ。
ホワイトチョコレートとブレンドした山羊乳独特のミルキーな余韻が嫌味なく続きます。これはもう一粒と、手を出したくなる美味しさ。

「実はこのプラリネはなかなか味が決まらずに、1か月も試作を繰り返して出来た作品なのです。ずっと悩んでいるときに、アドヴァイスをくれたのが歩いて数分の場所にあるスウェーデンでもトップクラスのガストロノミーレストラン、ダニエル・ベルリンのシェフでした。そうしてようやくバランスのとれた味が出来たのです。」

まさか、この村にそんなにすごいレストランがあるなんて! スコーネ地方はスウェーデンのグルメランドなのでしょうか。このチョコレート店といい、スペッテカーカのカフェといい…きっと、そうに違いありません。

スペッテカーカといえば、ショーケースにその名のプラリネ発見!
これは食べないわけにはいきません。ミルクチョコレートのガナッシュに、スペッテカーカの卵感ある味とザクっと食感がたまらなくマッチしています。これももう一粒と食べたくなる品。

「この地方の郷土菓子スペッテカーカを、飾り色を付けずに特注し、それを粗く砕いてミルクチョコレートガナッシュにしてみたのです。スペッテカーカ自体は好きではないフレドリックも、このプラリネは気に入っているのですよ!」

その気持ち、わかります。現代では忘れられつつある伝統菓子をショコラの形で再生したら、とても面白いものが出来た…そんな気持ちも伝わる、心温まるプラリネでした。日本の伝統菓子も見直せばショコラに出来るものがありそう。(あっ、南部せんべいのチョコレートがありましたっけ。)ちなみにスペッテカーカについては、この2つ前のレポートを参照ください。
http://www.panaderia.co.jp/hokuou/034/index.html

「ラヴェンダーはカンファー(樟脳)香の少ないものを選んでガナッシュにしています。この辺でたくさんとれるアロニアは酸味と渋みを特徴に。カナディアンブランチは、友人のすすめで作ったベーコン、メープルシロップの甘い塩っぱいのユニークなフレーバーです。」


左からスペッテカーカ、アロニア、ラヴェンダー。いずれもこの地の素材を一粒にした品。

コーヒーはストックホルムにあるサードウエーヴ系・ドロップコーヒー DROP COFFEEの豆をいただくことができる。


んなにこだわっているのだから、どこでチョコレート作りを学んだのかが気になります。でもお二人ともショコラティエ修業の経験はまったくないとのこと。これまた驚きです。

「大好きなチョコレートの仕事をするにあたって、いろいろ勉強し調べました。手作りだと思っていた大部分は、ベルギー大手のチョコレートを溶かして流し固めているだけでした。フィリングのフルーツピュレも既製品が大半。自分たちの想像していた世界とは違うことに気づいたのです。だからÖsterlenchokladを引き継いだ当初、同じレシピで作るつもりでしたが考えを改め、新しいものを作ることにしたのです。私たちは本物の素材を使ってチョコレートとコンビネーションさせたかったから。」

この実情は日本でも同じ。異業種からの、まっさらな彼らだから挑戦できたのかもしれないですね。オリジナリティの表現には、手間もコストもかかるけれど、ここにしかない美味しさは作り手にとっても食べ手にとっても宝物。一緒に磨き上げていきたくなります。

その志は、カカオ豆からチョコレートを作る、つまりBean to barへとつながっていきます。二人は2014年2月にスリランカに質の良いカカオ豆を探しに行きました。そこで出会ったオーガニック農園のカカオ豆を20kg買って持ち帰り、焙煎、コンチング、タブレットへと何度も試作を繰り返しました。

そして2015年4月に同じ農園から豆を送ってもらい、タブレットチョコレートを本格的に商品化したのです。

「スヴェンスカ・カカオブラゲ Svenska Kakaobolaget(スウェーデンのカカオカンパニーという意味)というブランドで、Bean to barを立ち上げました。うれしいことに、ダニエル・ベルリンのシェフもとても気に入ってくださり、レストランで使っていただいているんですよ。」

試食したSri Lanka 70%は、心地よいフルーティーな酸味とスパイス感のあるカカオの力強さ、余韻の長さが印象的。


Svenska Kakaobolagetのコーナー。Bean to bar一号はスリランカ70%。

店内試食はフレドリックさんの持っている薄いタイプ。


ッと目をひくパッケージの紙は、ドイツ製のコットン生地の端切れから作られたエコロジーなもの。フレドリックさんのデザインをもとに、地元の専門家の協力を得て完成させました。

「夏休みにドイツ人がたくさん来てたくさん買っていったので、もう出ているだけしかなくて。」

お店の棚には本当に数枚しかありませんでした。後日ストックホルムの取り扱いカフェに行ったけれど、もうとっくに売り切れていましたから、ぎりぎりセーフでした!

スウェーデンでもこのようなBean to barは最近ポピュラーなのでしょうか?

「いえ、まだまだこれからです。一般にスウェーデン人はミルクやホワイトなど甘いチョコレートが好きなんです。日本はすごいですね。実は4月に東京・富ヶ谷のMinimal(ミニマル)に行ってきてとても刺激になりました。アメリカのBean to barにも行ったけれど、私たちには日本のほうが心地よかった。でも食感はじゃりじゃりより滑らかな方が好きなので、私たちのBean to barではコンチングをしっかりかけています(笑)。」

日本のBean to barとのひょんなつながりまで伺って、私はもうすっかりお二人とお店のファン。すると今度はラボを案内してくれることに。

元校舎だけあって、広いスペースに焙煎オーブン、破砕機、コンチングマシーン、テンパリングマシーンなど、チョコレートにするまで必要な機械や道具が並んでいました。小規模で効率よく、かつコストを抑える工夫のため、中には自作の道具もありました。

壁にはカカオ農園の写真も。元校舎だけあってなのか展示スペースがたくさん。

スリランカのカカオ豆 ロースト破砕したカカオニブ。

イタリアのテンパリングマシーンは、15分で作業開始できる優れもの。これでタブレットの型流しをする。


興味深く興奮やまないチョコレートの空間。そうこうしているうちにバスの時間が迫ってきました。アイスクリ―ムもグレッドブーラル(メレンゲのチョコがけ菓子)も食べたてみたかったけれどまた今度。親切にもてなしてくれたウリカさんとフレドリックさんにお礼をして、急ぎ足でバス停へ。イスタ駅に戻ったのでした。

グレッドブーラルは北欧の人の大好物。マシュマロのようにとろけるメレンゲがチョコレートで包まれてパリッ&とろり、美味しいお店のを食べたらはまります。


昨年末、Österlenchokladからクリスマスカレンダー・プラリネをお取り寄せしました。レギュラーフレーバーに混ざって、ジンジャーブレッド味やサフラン味など、スウェーデンのクリスマス限定フレーバーがいくつか入って楽しめました。今年も涼しくなったら、何か取り寄せてみようと思います。新たに登場した産地のBean to barタブレットも気になるじゃないですか!

日本から昨年取り寄せたクリスマスカレンダー・プラリネ。24個入りで一日一粒ずついただく楽しみがある。



Österlenchoklad fabrik & butikのサイトとfacebook
  http://www.osterlenchoklad.se/
  https://www.facebook.com/osterlenchoklad/?fref=ts

Svenska Kakaobolagetのサイトとfacebook
  http://www.kakaobolaget.se/
  https://www.facebook.com/kakaobolaget/?fref=ts






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