取材・文 佐々木 千恵美  


スイーツの魔術師 ジル・マルシャル氏が再びパリからやってきた。

現在(2017年10月5日〜11月30日)、新宿の「ハイアット リージェンシー 東京」で開催されている「ジル・マルシャル フェア」、みなさんもう行かれましたか?

昨年秋、大好評だったフェアが今年も実現することになり、ファンの一人として期待に胸膨らませていました。

今年もオープニングに先立ち、来日したジル・マルシャル氏ご本人が、プレスのための試食会でたくさんのお話をしてくださったので、フェアの内容とともにご紹介したいと思います。

参考までに昨年の様子はこちら→
http://www.panaderia.co.jp/event_report/gillesmarchal_fair/index.html

会場は同ホテルの宴会場。ジル氏は今年もまた自ら選んだ音楽「Voyage Voyage」にのって登場しました。

ジル・マルシャル氏。1966年フランス・ロレーヌ地方生まれ。パティシエになることを夢見て15歳でこの世界に入り、2年間でパティシエ、ショコラティエ、グラシエの国家資格を取得。28歳の若さでパリの一流ホテル、「プラザ・アテネ」のシェフ・パティシエに抜擢。1999年には「ホテル・ル・ブリストル・パリ」のシェフ・パティシエに。2007年には「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」のクリエイティブディレクターに就任。その後はコンサルティング業をこなし、2014年11月、モンマルトルに自身の名を冠したお店Pâtisserie Gilles Marchalをオープン。


パリ、モンマルトルにあるPâtisserie Gilles Marchal


「今年もハイアット リージェンシー 東京とコラボレーションができ、素晴らしい仕事ができたことに感謝します。テーマも新たに、パティシエとして歩んだ25年の軌跡を味わっていただき、喜びをみなさんと分かち合いたいと思います。」

挨拶のあと、壇上の席に着くとこれからいただくデザートを紹介してくれました。

私たちがこの日いただいたのはロビーフロア・2Fにある「カフェ」で提供されるコース形式の「ジル・マルシャル スイーツセット」。1994年〜1999年のホテル・プラザ・アテネ時代から1999年〜2007年のホテル・ル・ブリストル・パリ時代の創作を、今のタッチで表現したここでしか味わえないコースです。

「ジル・マルシャル スイーツセット」 ¥3,921(税サ込み)


最初に供された<アミューズ>は、リンゴとライム、バジルのソルベ パイナップルのジュレ。

「これは15年くらい前、プラザ・アテネ時代のもの。塩気の料理とデザートの間をリセットするために考えました。」とジル氏。

緑とイエローのグラデーションに見とれてしまったヴェリーヌグラス。口の中に運べば色のイメージそのもの。パイナップルの食感、とろりとしたリンゴ。ふたつの甘酸っぱさをバジルが引き立て、ライムの爽やかでビターな後味が大人っぽい。

<アミューズ>リンゴとライム、バジルのソルベ パイナップルのジュレ。リンゴのピュレにライム果汁、フレッシュバジルを合わせたソルベとパイナップルのジュレのハーモニー。グリーンとイエローの色彩に赤のワンポイントが映える。


2品目<アヴァンデセール>は、アルレットと軽いバニラのクリーム フランボワーズ。

「アルレットという伝統菓子を、現代的なタッチで表現した一皿です。ロール状にスライスしたブルボンバニラ入りフィユタージュをごく薄く延ばし、キャラメル状に焼き上げるアルレットは、作るのに時間もかかるし難しい。だから現代では忘れられつつあります。私はそういったお菓子をもう一度、今にあったやり方で作っていきたい。クリーム無しのアルレットはお店でも大人気なんですよ。」

熱の入るジル氏の説明は、運ばれてきたお皿を一口食べれば即納得。ケーキの王道、ミルフィーユをさらに繊細に仕立てたフィユタージュとクリーム、甘酸っぱいフルーツが重なり、バニラ、キャラメリゼ、パリパリ、なめらかといった香りや食感のコントラストも美しく心に響き渡ります。ごく薄く延ばしたフィユタージュをジャストな状態で焼き上げるのがどんなに難しいかは、菓子作りをする人ならご存知でしょう。少しでも焼き過ぎればただ苦いだけになってしまいます。これぞ持ち帰りのできない贅沢な一皿!

<アヴァンデセール>アルレットと軽いバニラのクリーム フランボワーズ。薄く焼かれたフィユタージュの表面はよく見ると年輪状の層、そしてバニラの粒々。デリケートな味わいは誰もが虜に。


メニューの説明をしながら佐藤浩一ペストリー・ベーカー料理長との対談が行われました。

まず、佐藤料理長の、「ジルとのコミュニケーションが、どれだけとれるのか昨年はわからなかったけれど、今年もこうして実現できて良かったです。」との話から対談がスタート。

ハイアット リージェンシー 東京・佐藤浩一ペストリー・ベーカー料理長。


佐藤氏「フェア2回目に際し、のぞむことは何ですか?」

ジル氏「自分の哲学に、人とのつながりを大切にするというのがあります。2年前に佐藤料理長からお誘いのメールをいただき、私も長年ホテルで働いていたこともあり快諾しました。昨年の成功で、職人としてすばらしい関係をさらに高めたく、今年もテーマを変える形でお受けしたのです。今年も春に仲村シェフがパリに来て、ルセットの打ち合わせをしたのですが、本番にほぼ同じものが出来上がっていて素晴らしい。もちろん材料の進化もあります。25年位前だったら、フランスと日本では小麦粉など材料の性質が大きく違っていたので、パリと同じようにはできなかったかもしれません。しかし今回アルレットもほぼ同じに仕上がりました。」

軌跡をたどる旅というテーマには、材料の進化も人とのつながりも、すべてこめられているのですね。

続いて佐藤氏からは、こんな質問が。
「ところでパリでは今、新しいお店が次々に出来ていますね。昔は新店を出すのはとても難しかったと思うのですが、この変化をどう思いますか?」

ジル氏「おっしゃる通り、ここ5年ほど、パリは新店ラッシュです。これにはいくつかのことが考えられます。世界で最も評価されているパティスリー・フランセーズですが、今から10数年前、スペインのエルブリによる分子ガストロノミーの登場によってスペインの菓子が注目されるようになり、コンクールでは日本も上位に評価されるなどで、フランスの存在が少し薄れてきました。それからメディアやネット社会になって、裾野がどんどん広がっていきました。ガストロノミーのキャピタルであるパリに、ビストロクラスのレストラン数が今、増え続けています。こうして若い世代が次々にお店を出すようになりました。ところで日本は今、パティシエがいないと聞きますが、オープン3年目の私のお店には、2年間修業するアプロンティを一人募集したら120通もの応募があったのです。何故ならフランスの製菓学校は超満員で、なかなか働き先がないのです。料理のテレビ番組が増えましたし、パティシエは注目の職業なんですよ。フランスでは22歳まで無料で教育を受けられるというのも理由のひとつ。でも現実は甘くないですけどね。」

情報社会とニューオープン、そして現実と、フランスも日本も似たような現象が起こっているのだなと聞き入りました。それにしてもPâtisserie Gilles Marchalの人気たるや、働くにも狭き門なのですね!

興味深い対談はフランスの教育制度にまで発展。


そうこうしているうちに最後の品<グランデセール>サバイヨンショコラとなめらかなキャラメル、グラン・マルニエのグラス、エキゾチックフルーツのネクターが目の前に。

「このサバイヨンは今でもホテル・ル・ブリストル・パリにオンリストされています。とてもシンプルだけれど基礎がないと出来ない難しいデザートなんです。」

トンカ豆香るキャラメルソースの下にはカカオ70%の濃厚なチョコレートムース、底に隠れたアーモンドのカリカリに心も弾むヴェリーヌ。別に添えられたグラン・マルニエのグラスとエキゾチックフルーツのネクターと交互に口にすれば、フルーティーな香りの変化が楽しめます。

この後スイーツセットには<プティ・フール>とコーヒーまたは紅茶がつきます。

<グランデセール>サバイヨンショコラとなめらかなキャラメル、グラン・マルニエのグラス、エキゾチックフルーツのネクター。3つのグラスの中身を合わせて食べたり別々に味わったり、好きに楽しむ一品。


また同ホテル1Fにある「ラウンジ」では「ジル・マルシャル スイーツプレート」を展開。ラ・メゾン・デュ・ショコラ時代のスイーツをアレンジしたものから現在までの6種類のスイーツをドリンクとセットでいただけます。
ジル氏のスイーツをお家に持ち帰りたい方は「ペストリーショップ」で。4種類の生菓子と2種類の焼き菓子が用意されています。
エクレールやタルトショコラはパリのラ・メゾン・デュ・ショコラで必食だったので、懐かしくてテンションも上がります。シンプルな見た目なのに病みつきになる、磨かれた味わいはさすが。懐かしさでいえばケークマルブレもおすすめ。普遍的なフランス菓子とは何か、ジル氏の哲学が感じ取れる一品です。

「ジル・マルシャル スイーツプレート」¥3,208(税サ込み)では、(写真左から)タルトショコラ、エクレールショコラ、ノワイエ、シャルロットマロン、カヌレ、ケークマルブレの6種類が味わえる。

「ペストリーショップ」では、ラウンジの「ジル・マルシャル スイーツプレート」でも登場のシャルロットマロン(写真・奥)、ノワイエ、カヌレの他、タルト ブルダルー(写真・手前左)、オペラ(写真・手前中央)、ババ アナナス(写真・手前右)が購入できる。また、ジル氏のレシピによるクリスマスケーキも予約受付中。


しめくくりの挨拶がはじまろうとした時、会場の照明が落とされました。そうです。ジル氏の誕生日を祝って、今年もバースデーケーキが登場したのです。昨年はショートケーキでしたが今回はオペラ。ジル氏への感謝を込めたこのお祝いのケーキ、これこそジル氏が大切にしている人とのつながりですね。こちらまで胸の鼓動が高まりました。

10月1日ジル氏の誕生日を祝ってサプライズのオペラ登場。金箔が大好きというジル氏にふさわしい風格のケーキに、会場からも大きな拍手が。

最高の盛りあがりを見せたセレモニーの後、ジル氏はこんな風に語りました。

「今年も緻密で丁寧な仕事をしてくれるハイアット リージェンシー 東京のみなさんと一緒に仕事ができてうれしく思います。パティシエは正直きつい仕事です。でも自分の仕事に疑問を持ったことはありません。毎日毎日厳しい仕事に取り組んできました。今回お出ししているのは修業時代を振り返ったレシピです。私の軌跡をみなさんと分かち合えたらうれしいです。」

ジル・マルシャル フェアは11月30日まで。深まる秋のアフタヌーンに、スイーツの魔術師が辿った道、哲学を味わってみてください。

詳細は下記のホテルの公式サイトでご確認ください。


ハイアット リージェンシー 東京 レストラン&バー
 http://www.hyattregencytokyo.com/restaurant/tabid/100/Default.aspx

Pâtisserie Gilles Marchal(パティスリー ジル マルシャル)
 http://gillesmarchal.com




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