? パナデリアが行く(ラショナル スチームコンベクションオーブンセミナー 製菓での"エキスパートキッチン"が開催されました ラショナル・ジャパン/菓子工房アントレ 木シェフによる製菓セミナー)
取材・文 佐々木 千恵美  


みなさんのお店ではスチコンを使っていますか?
スチコンとは、スチームコンベクションオーブンという調理機材のことで、スチームと熱風の組み合わせによって蒸す、炊く、茹でる、焼く、煮る、揚げる、炒めるといった加熱調理、真空調理を一度にたくさん、誰がやっても同じように効率よく調理できるため、今やホテル、レストラン、居酒屋、スーパーの総菜部、病院や学校給食、老人ホームなど、人手不足の業界では欠かせない存在です。
そう聞くとある程度の施設での大量生産向きで、小さな菓子屋などには縁のないものと思われるかもしれませんが、むしろ真逆なのかもしれないと、昨年10月にスチームコンベクションオーブンの世界的メーカーRATIONAL (ラショナル)主催、菓子工房アントレ・木康裕シェフによる「iCombi® Pro」のデモンストレーションセミナーを受講し、考えさせられました。

ラショナル スチームコンベクションオーブンセミナーの受講は「べんべや」(北海道札幌市)オーナーシェフ、土井大輔氏による「Self Cooking Center®」を活用した2019年のセミナー以来2回目。
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その時も焼成性能はもちろん、効率化や働き方改革、人手不足解消など、昨今の菓子業界が抱える問題をフォローしてくれる頼もしいマシンということが理解できましたが、今回は2020年に発売された最新機種「iCombi® Pro」を日頃フルに活用されている燒リシェフに、従来の平窯などとの違いや、製菓製パンで「iCombi® Pro」を使用するメリットを多彩にご紹介いただきました。


スチームコンベクションオーブン「iCombi® Pro」
https://www.rational-online.com/ja_jp/icombi-pro/


聞けば木シェフがラショナルのスチコンを導入するきっかけは「べんべや」の土井さんからの紹介があったからだとか。それまで平窯を使っていたところ、いろいろ考えた末2020年に導入。様々なテスト&トライを繰り返し、2年経った今はスチコンの数値でレシピを管理し、よりクオリティの高いお菓子を提供できるようになったといいます。


会場は千代田区猿楽町にあるラショナル・ジャパン1Fのテストキッチン。すでに愛用者と検討している多くのプロたちが木シェフの話に聞き入る。


今回のセミナーでは、受講された方が各々のお店のレシピに落とし込められたらいいのではとの想いで、普段お店で販売している基本的なメニューを実演してくださいました。


シュークリーム、ジェノワーズ、プリン、クッキー、ピーナッツパイ、林檎パイ、季節のジャム、どれも菓子店なら普通に並んでいて、パーツとしてのベースにもなるものばかり。


それでは順番にポイントをお伝えします。


シュークリーム (高木シュー)

シュー生地をブラストチラー冷凍のまま20個のせ、クッキー生地はくっつくように時間差でのせ、プログラムしたスチコンに入れるだけです。普通なら一晩解凍してから焼くとむらが出来てしまうところ、スチコンなら冷凍のままでうまく焼けるので時間短縮になります。ただ対流の関係で、天板の段すべて埋めると焼きに差が出たので、シュー生地は1段ずつ空ける方が上手く焼けるとわかったそうです。クッキーは全段使っても焼きに問題はなく、こうした工夫で使いこなせるようになると面白くなりますね。

シューは一段空けて焼成すればむらなくきれいに焼けると発見。


地元船橋の高脂肪牛乳と毎朝産みたての卵等の新鮮素材を使用し、バニラビーンズの甘い香り豊かなカスタードクリームをたっぷり詰めたシュークリーム。上はサクサク、全体はふわふわで昔ながらのシュー生地を思い出します。クッキー部分は薄いのでやさしく、親しみやすい美味しさでした。袋に記されたストーリーも読んでいただくと一層愛着がわきます。


林檎パイ

パータブリゼにクレームダマンド、紅玉りんごをのせて焼いたパイは、平窯では40分かかっていたところ、スチコンでは20分で焼きあがるし、湿度調整ができるので中のクリームもしっかり焼けます。さらに日持ちに違いがあらわれました。平窯だとクレームダマンドが焼ききれないために翌日にはりんごの水分が染みてパイが湿って売り物にできなかったところ、湿度と温度を独自の設定にすることにより、さっくりとしたりんごとサクサクのパイが翌日まで維持でき、フードロスを避けられるようになったそうです。

リンゴがつややかな見た目。さっくりしたリンゴの食感と甘酸っぱい風味がサクサクのパイとアーモンドクリームにしっくり合います。翌日とは思えないほどしっとり&サクサク。後ろのブック型ボックスは、クッキーの詰め合わせに使われているそうです。見た目からも魅力的なお菓子に見せる工夫も見どころでした。


アイスボックスバタークッキー

お店では12種類展開するクッキー。1天板に30枚のせて8段すべての段に入れて240枚がむらなく焼けるとのこと。木シェフが使用している機種「iCombi® Pro 10-1/1」は、本来は10段タイプなのですが、庫内のラックをベーカリー仕様の8段タイプに変更されています。このようにカスタマイズできるのも、使い勝手の良さかもしれませんね。外はしっかり、中は少しソフトに仕上げています。

試食したパルメザンチーズ入りクッキーは、ふわサク食感でパルメザンの香り高くクセになります。確かに外と中のテクスチャーのコントラストを感じます。


木ぷりん

卵黄多めで生クリーム入りのなめらかなプリンは、平窯の時は温度管理にプロの勘所がいる大変な作業で目が離せなかったが、スチコン導入後はプログラムセットすればパートさんでも焼けるようになったと木シェフ。さらに蒸し焼きしている間に2層に分離してしまったが、スチコンは内部の熱が対流しているので、多少のすはできてもなめらかになり、結果売り上げがのびたそうです。レシピとプログラムさえできれば、シェフの代わりを務めてくれるのは頼もしいです。

オリジナルラベルのプリンは、地元船橋の生みたての卵、搾りたての牛乳を使ったこだわりの一品。とろとろで飲めるような繊細な口当たりで、コクがあります。


ジェノワーズ、木ロール

レゴミキサーを使って仕込んだ生地を、スチコンのコンビモード(スチームと熱風)を使って焼いています。蒸気圧で素早く中に火が通るのでふんわりしっとりとした焼き上がりに。サウナでロウリュ(熱い石に水をかけ蒸気を起こす)をすると身体の芯から温まるのと同じことが生地内部でも起きているのでしょうか。

ジェノワーズの焼き上がりのふんわり感を指で確認させてもらった。


左が木ロール。右がジェノワーズ。
想像以上にふんわりした口当たりで生地は卵感を強く感じました。そのためかクリームのコク深い味わいもはっきりわかります。


ジャム

スチコンでジャム作りができるとは驚きですが、メリットは味にも作業にもありました。何といっても香りが飛ばないので、フレッシュ感あふれるジャムができるというのです。バットに砂糖、ペクチン、フルーツを入れ蓋をし、芯温度計を入れてスチコンへ。95℃まで上げ、とろみがついたら瓶詰します。瓶の加熱殺菌も中身を入れての真空殺菌もスチコンで出来てしまいます。

出来立てのジャムはフルーツの香り高くフレッシュな味わい。


ピーナッツパイ

千葉県産ピーナッツを使用した地産名物。ピーナッツを模ったパイ生地にローストピーナッツパウダーとグラニュー糖を合わせたものを塗し、生のピーナッツ、グラニュー糖をかけて焼いた日持ちのするパイ菓子は、千葉のお土産、ギフト需要に考えたもの。また、生地の端やかけた生地はバナナパイなどに再利用してフードロス対策+付加価値になっています。

厳選した地元産ピーナッツをふんだんに使ったオリジナルパッケージ入りのピーナッツパイは、元気なパリパリ音とピーナッツの風味が口いっぱいに広がるお菓子。


木シェフは2020年にコロナウィルスの第一波で店内罹患。未知のウィルスの後遺症で味覚と嗅覚異状が数か月続き、スタッフも怖がってやめていってしまったそうです。この経験から不測の事態のためにも、ラショナルのスチコンを導入出来て良かったと思っていると語ってくれました。


ジェノワーズ生地を型に流し計量するところ。


効率アップや人手不足解消になっただけではなく、数値化による実験と調理法の発見で可能性が広がったこと、フードロス解決にまで及んでいったことは大変興味深いお話しでした。おなじみのお菓子でも、スチコンの使い方次第でより個性が出せることも伝わったのではないでしょうか。


ラショナルのユーザーは、マシンのテクニカルなサポートを受けられるのはもちろんですが、世界中のラショナルのシェフたちとつながって、料理の世界が広がることも大きな魅力。


菓子工房アントレ オーナーシェフ 木康裕氏

千葉県船橋市出身。
1992年エコールキュリネール国立・辻製菓専門カレッジ卒業後、渡仏。リヨン近郊 シャンパーニュ・オ・モンドールの洋菓子店「プリンス・ド・フランス」にてMOFエマール氏のもとで修行。
帰国後、東京・神奈川のフランス菓子店にて修行し、1997年「ENTREE-アントレ-」にチーフとして父より引き継ぐ。
1999年より5年連続ベルギーモンドセレクション世界大会ショコラ・コンフィズリー・サブレ部門最高金賞。
その他、TVチャンピオン等で優勝。
人気パティシエとして「東京スイーツコレクション」に参加。
地域貢献活動にも精力的に参加し、船橋市の医療推進機関主催のイベント等でも講師を務める。
近年は長年かけて育て上げた『木チーズ』が船橋セレクション認定商品に認証。
船橋のご当地キャラクター “ふなっしー” とのコラボレーションスイーツの作成など、地元への愛で幅広く活躍。


菓子工房アントレ 本店
 千葉県船橋市海神6-8-2
 https://entree1971.com/
 https://www.instagram.com/entree_chiba/

ラショナル・ジャパン
 https://www.rational-online.com/ja_jp/home/



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