サロン・ド・ショコラの一番のメリットは、色々な店のチョコレートがあの会場で一度に買えること。しかし、それと同時に、ショコラティエ本人が行うセミナーも魅力のひとつ。特に海外からこのために来日しているショコラティエに関しては、現地に赴くことは容易でなく、また店に行ってもシェフに会えるとは限らず、そして何より言葉という大きな壁がある。そんな弊害を一気に乗り越え、シェフの話、そして技術を真近で見られる貴重な機会なのです。セミナーの参加希望者は、年々増加。今年はたった4分でチケット配布が終了した日もあった。そこでパナデリアも1月29日(土)に参加してきました。
終わってみての感想は、とにかく短い時間のなかで本当に様々なことを習得できたということ。シェフの人柄、チョコレートに対する考え方、菓子作りの技術、チョコレートに関する知識・・・、その充実感は言葉では言い表せません。そして今回講師を務めた方全てに共通して言えることは、「伝えたい」という思いがとても強いということ。日本に比べて長い歴史を持つヨーロッパの菓子、そしてチョコレートの文化は、こうやって継承し、また広がっていったのだと実感しました。








パリの老舗百貨店「ボンマルシェ」にサロン・ド・テ、「デリカバー スナック シック」を構えるセバスチャン・ゴダール氏。ピエール・エルメ氏の後を引き継いでフォションのシェフを務めたというその経歴から、実力の高さが伺えます。しかし彼の作るお菓子は、フォションのイメージであるクラシックなフランス菓子の対極にある、近未来的なもの。チューブに入ったチョコレートペーストがあったり、板チョコのパッケージがアルミバッグだったりと、見る人を驚かせる工夫が随所に見られます。デリカバーのコンセプトは、「ラグジュアリーなつまみ食い」だそうです。

今回のテーマは、"スパイスをきかせたチョコレートバースデーケーキ"。「アイディアあふれるゴダール氏がどんなバースデーケーキを作るのか?」と、期待に胸が膨らみます。ゴダール氏の作業はひとつひとつが丁寧で、基本に忠実。作る商品のビジュアルから奇抜な作業を想像していましたが、ポイントとして説明される内容も菓子作りでの基本的なことが多く、その大切さを再認識しました。また配られたレシピの中で驚いたのは、チョコレートのビスキュイに少量のビネガーを加えていること。酸の作用により、表面が平らに焼きあがるそうです。
 

パンデピス風味のチョコレートのビスキュイを焼き、チョコレートムースとチョコレートソースを作り、最後にそのパーツを組み立てます。チョコレートムースを詰めたビスキュイにチョコレートのソースをかけ、それをのり代わりにしてバースデーケーキらしく三段に組み立て。何気なくソースを垂らしているように見えますが、均一に下に流れるソースの描く曲線にうっとり。そして手にしたのは、銀色の触覚のようなもの。最後にその触覚を飾り、ゴダール氏らしいバースデーケーキが出来上がりました。ちなみにこれは、銀色のドラジェに針金を刺したものだそう。こんなアイディア、なかなか思いつきませんね。

センス溢れる組み立てを見た後は、お待ちかねの試食。口の中ですっと溶けていく軽いムースと、パンデピスが香るビスキュイはとても良いバランス。すっと口の中で溶けていきます。またパンデピスの効かせ方はとても穏やかで、洗練された印象を受ける配合。これはゴダール氏のオリジナルブレンドだそうです。

 一時間の予定で始まったセミナーは、約30分オーバーで終了。この限られた時間と設備の中でアントルメを作ってくれたゴダール氏。2ヶ月前にはパリに2店舗目「ドゥーバー」をオープンしたそうです。「いつかは日本にも店を持てるといいな」とのことでしたが、本当にそれを望んでいるのは私達日本のショコラ好きなのかもしれません。