ットランド島に住む職人のことを書き終えたところで、その北のオーランド島にもおいしいチョコレートを作る女性職人がいることを紹介しましょう。

その名はメルセデス・ウィンキスト(Mercedes Winquist)さん。オーランド島の北西に位置するエッケロでメルセデス・ショコラトリー(Mercedes Chocolaterie)を営んでいます。

私が彼女のチョコレートを最初に知ったのは数年前、ヘルシンキ空港内のフィンランド製品セレクトショップ(いまは撤退している)でプラリネの詰め合わせを見たときでした。ドイツ風の大きめでかわいらしいデザインとホワイトチョコのコーティングも入ったラインナップ。その時はチョコレートもお菓子もパンパンに買い込んだ後、お金はすっからかんな旅の帰路。一度は手に取ったものの、よく知らない作り手だし、店員に詳しい内容を聞きだせないセレクトショップでの買い物に勇気は出ませんでした。

そして2012年クリスマスシーズンにオーランド島を訪れたときのこと、カステルホルムのクリスマスマーケット会場でメルセデスのチョコレートを初めて口にすることができたのです。そのときメルセデスさんご本人からいただいたカルダモンガナッシュのプラリネの美味しさといったら! この黒い一粒で、私は彼女の作るチョコレートの虜になってしまいました。オーランド島に評判のショコラトリーがあることは観光局のサイトで眺めてはいたのですが、まさかクリスマスマーケットに出店しているとは! はるばる日本から来た私には最高のサプライズでした。

寒い中帽子を脱いで撮影にこたえてくれたメルセデスさん。

味見にといただいたプラリネ。

クリスマスマーケット会場〜メルセデス・ショコラトリーは屋内にありました。

今度こそいっぱい食べてみたい。大勢のお客さんで賑わう会場に所狭しと並べられたメルセデスのチョコレート。その中にアドヴェントカレンダーになったかわいい24個入りのプラリネ詰め合わせを見つけました。12月1日から、一粒一粒違う種類のプラリネを食べ、24日を迎えるカレンダーは、彼女のチョコレートを食べる機会と同時にクリスマスへの盛り上がりを楽しめる、つまりひと箱で2倍以上の魅力が詰まったもの。この日は丁度12月1日、迷わず日本に持ち帰ることにしました。

アドヴェントカレンダーチョコレートのパッケージと中身。24種類全て味が違います。中身は例えば、ジンジャー、ラズベリー、パッションフルーツ、ベイリーズミント、ブルーベリー、はちみつとオレンジ、キャラメルなどの定番の他にグロッグ(スパイスワイン)やペパルカック(ジンジャーブレッド)といったクリスマスならではのテイストも。


しい中、メルセデスさんがもうひとつすすめてくれたのが、キャラメルをダークチョコレートでコーティングしたもの。「塩コーラチョコレートよ」という彼女に、ええっ、コーラってあの??? とびっくりして聞きなおすと、「こちらでは、キャラメルのことをコーラ(kola)っていうの」だそう。またひとつスウェーデン語を覚えました。北欧の人はキャラメルが大好き。普段のおやつにはもちろん、クリスマスビュッフェにもコーラは必需品なのだそう。甘くてクリーミーなキャラメルを口にすれば凍てつく寒さが少し和らぐ気がしますね。塩コーラチョコレートは、ところどころ塗してある岩塩が刺激になり、ついもう1つと手がのびます。

明るくお話ししやすい印象のメルセデスさんですが、その風貌は一般にイメージする北欧人というよりラテン的。聞けば彼女は南米ヴェネズエラの出身。世界中のチョコレートラヴァーが憧れるカカオの産地国からやってきたのです。
ではどうして彼女はフィンランドの辺境オーランド島でショコラトリーをやっているのでしょうか? その理由は、翌夏メルセデスさんのお店とアトリエを訪ねたときにわかりました。

メルセデス・ショコラトリーの入っている建物Eckerö Post & Tullhusの看板。

メルセデス・ショコラトリーは、オーランド島のもうひとつの玄関口、エッケロ港から1kmほどのところ、クリームイエローと白の立派な建物Eckerö Post & Tullhusの一角にあります。

ロシア帝政時代の様式で建てられたEckerö Post & Tullhus。

メルセデス・ショコラトリーの入り口。

「ここは昔ロシア帝国支配下で建てられた郵便局なの。エッケロは、スウェーデン本土に一番近い港。だから通信の拠点にもなったのよ」と教えてくれたメルセデスさん。確かにストックホルムから一番近くて安いフェリーはエッケロ港行き。しかし今では港といっても南の玄関マリエハムンのような賑わいはなく、集落も見当たらない、音もなく、夜になったらきっと真っ暗で怖くてたまらない場所でしょう。
余談ですが、私は料金の安さでこのエッケロ港行きフェリー(Eckerö Linjen)を選んだのに大失敗をした経験があります。周囲の誰も下船する様子がなかったので、到着に気付かず折り返してしまったのです。そんなばかな!?って思われるかもしれませんが・・・。ここオーランド島には、歴史上の経緯で特別な協定があり、EU加盟国とオーランドを往来するクルーズ船やフェリー内において、例外的に免税販売が可能。そのため、オフシーズンのほとんどの乗船客は免税ショッピングを楽しむスウェーデン人だったのです。ご存知の通り北欧は税金の高い国。道理でアルコール類をごっそり買い込む人たちが多いなと・・・(苦笑)。ダンスや歌、食事を楽しみながら日帰り免税ショッピングができるなら、これほどお徳なプランはないですよね。

エッケロラインの船内。カートには免税ショッピングのビールがたくさん。

船内の免税ショップには、名物オーランドの黒パンも。

エッケロ港に到着したフェリー。夏は車や自転車で利用する客も多い。


バカンス客の多い夏は下船する車も多く、港は一瞬の賑わいを見せます。このフェリー到着や出発前の時間帯、ショコラトリーは買い物客でごった返すそう。それを考慮してメルセデスさんとは閉店直前に待ち合わせをしました。待ち合わせ時間までの散歩が気持良かった。

フェリーの港から10分ほど歩いたところにあった昔の港。鄙びた風情があります。

パステル模様に思わずシャッターを押した海岸の岩。

道端のリンゴンベリー。あのIKEAのミートボールに添えられているベリーが赤くなるのは9月から10月。



植えカバーにした長靴が目を引く入り口。お店に入るとプラリネ、トリュフ、ドリンキングチョコレート、タブレットなど種類も豊富。かわいさの中に大人の雰囲気を持ったメルセデスさんのチョコレートに心をつかまれます。ここにはチョコレートだけでなく、島のはちみつやハーブ、ジャム、ソーセージといった農産物、さらにコーヒーカップやキッチンクロス、バッグ等、アート&クラフト作家の作品も並べられていました。ひょっとしたらここは島全体の自然と人と暮らしを感じるお店・・・なのかも。

明るくシンプルな内装のカウンターにはさまざまな種類のチョコレートが並ぶ。

元郵便局だったことからデザインされたパッケージも。

プラリネのギフトパッケージ。

プラリネは、お気に入りをばら売りもしてくれる。


島のアーティストや生産者によるクラフトや農産物を眺めるのも楽しい。


女のプラリネ素材にもなっているオーランド島ならではの食材、シーバクソン(クロウメモドキ)のジャムやはちみつを味見させていただきながら、これまでの歩みを簡単に伺いました。

「1993年、当時ヴェネズエラのフィンランド大使館で働いていた私は、エクシビジョンのためにヴェネズエラに来ていた陶芸家のピーターと出会いました。その時から彼のことが気になり、コンタクトを続けていくうち彼の住むオーランド島に移住、そして結婚しました。以後この地で何をしていこうかと考えたとき、母の作った美味しいケーキを思い出し、私はスウェーデンの巨匠Jan Hed氏にチョコレート作りを学ぶ決意をしました。何故なら私の母国は上質なカカオ豆を産する国。そのカカオの美味しさを、伝える仕事がしたかったのです。そして2004年、メルセデス・ショコラトリーをオープンしました」。

左がクリスマスマーケットで名前に驚いた塩コーラチョコレート。

美味しいと信頼できるオーランド島の蜂蜜をチョコレートに使っている。


オーランド島の乳製品を使ったガナッシュやキャラメル、ヴェネズエラ産カカオを中心に、ヴァローナ、フェルクリン、ドモーリ等上質なクーヴェルチュールで仕上げた彼女のチョコレートからは、豊かな味覚の広がりの中に心の強さを感じます。それは母国の誇りなのかもしれません。またご主人が芸術家だけあって、もの作りのブレーンも多く、彼女のチョコレートには、島在住のアーティストをイメージしたタブレットシリーズChocochArtがあります。

ChocochArtシリーズは6種類。ビターチョコレートベースにオレンジピール&ピスターチをちりばめたものや、ジュニパーベリー入りなどマニアックな組み合わせも。

クラフト作家によるハートプラリネ柄のバッグにメルセデス・ドリンキングチョコレートを組み合わせたギフトはいかが?

バッグのモチーフなのか?ハートのミルクプラリネ。見せ方がかわいい。


「2012年までは隣でカフェもやっていました。でも疲れてしまって・・・それに製造に専念したかったから」、小さくなったけれど・・・といいながらアトリエへ。「一台しかないからエンローバーを使うのはビターだけ。ミルクやホワイトは手がけです」、彼女の丁寧な仕事ぶりを垣間見ることができました。

エンローバーでのチョコがけ作業を少し見せていただいた。

普段は作らないビスクビというスウェーデン風チョコマカロン。中はチョコレートのバタークリーム。今まで食べたビスクビの中で一番美味しい。

エッケロのお店がオープンしているのは、夏のほんの2ヶ月だけ。年間を通じて彼女のチョコレートを買えるのは、オーランド島マリエハムンのセレクトショップ数店ほか、ヴァイキングライン(ストックホルムとヘルシンキなどを結ぶフェリー)でも扱っているとのこと(詳しくはウェブサイトを)。今年からスタートしたオンラインショップは、残念ならがフィンランド国内のみの配送。うーん、いくら好きでも買いに行くには遠すぎる・・・。いつか日本からのオーダーが可能になりますように。

メルセデスさん、お忙しいところ案内をありがとうございました。


Mercedes Chocolaterie
 http://www.amorina.ax/sv/hem

オーランド島のこれまでの記事
その13
 http://www.panaderia.co.jp/hokuou/013/index.html
その14
 http://www.panaderia.co.jp/hokuou/014/index.html
その17
 http://www.panaderia.co.jp/hokuou/017/index.html
その21
 http://www.panaderia.co.jp/hokuou/021/index.html






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