2010パナデリア石窯パン教室応用コース
第2回 食感


第1回「天然酵母」へ
第3回「国産小麦のパン」へ




〈作るパン〉
(1) トゥルト セーグル
(2) トウモロコシのリュスティック
(3) 豆乳・玄米ドーナッツ



パナデリア石窯パン教室、第2回目のテーマは、「食感」です。
最近では、“モチモチ” “フワフワ”など、「食感」がおいしさの重要な要素になっていることが多いですよね?
自分の目指すパンをどんな食感にしたいか、というのは、おいしいパンを作る上での大切なポイント。そこで今回は、食感をコントロールするために、どんな素材使いや技術があるのかを教えていただきます。食感をアレンジすることができれば、パン作りの幅もぐんと広がるはず!
では、栄徳先生、よろしくお願いします。

今日のスケジュールを発表。仕込、成形、焼成のタイミングをしっかりインプットします


「今日のテーマは食感です。実は、思い描く食感を出すために、かなり苦労した生地があるんです」
栄徳先生ほどの方が、苦労したその生地とはいったい・・・?
「それは・・・、ドーナッツの生地なんです」
そうです。そのドーナッツとは、“フワッ、モチッ”とした独特の食感が特徴の、「ブーランジェリー ラ・テール アトレ吉祥寺店」限定のドーナッツ。なんと、1日1000コも売れているという大人気商品なのだそうです。とはいえ、この生地の成功の裏には、徹夜を重ねて開発に取り組んだという、苦い経験があるのだとか。
苦労の上に生まれた、新食感ドーナッツの秘密・・・。ぜひ知りたいですよね!

「食感のポイントは、米粉(コシヒカリ玄米粉)です。これをα化して使います」
α化??いったいどうするのでしょうか。
「沸かしたての熱湯を玄米粉に混ぜることで、α化させます。本捏ねの前日に作って、一晩置くといいですよ」

前日にα化させておいたコシヒカリ玄米粉。
ちょっと白玉粉のような質感です


ところで、どうして事前にα化する手間が必要なのでしょう。
「米粉をそのまま入れると、そのときはモッチリしても、後で生地がパサついてしまいます。先に、米粉に含まれるでんぷんをしっかりα化しておけば、時間が経っても固くならず、もちもち感が持続するんですよ」
なるほど! このひと手間が、独特のもちもち食感のポイントになっているようです。

本捏に使う小麦粉は、“スーパーキング”と“とみざわからの贈り物”の2種類。グルテンの強い“とみざわからの贈り物”を使うのも、もちもち食感のポイント


ボウルに、α化したコシヒカリ玄米粉と粉、砂糖、イーストなどを加えミキシングスタート。
「やや固めの生地なので、ミキシング中に水を足したくなりますが、ガマンしてください!」
と栄徳先生。最初はボソボソとしていて、確かに固そう!ここでグッと我慢していると、だんだんとなめらかな状態になってきました。表面がツルッとしてツヤのある状態になったら、ショートニングを加え、さらにミキシングを続けます。
「パンというより、お餅をついているような感じになってきましたね」
約15分間のミキシングを終えると、さっきのボソボソ感がウソのような、なめらかな生地になりました。



約1時間の一次発酵を終えたら、50gに分割。ここで終わらないのが、栄徳流ドーナッツです。
「ドーナッツといってもイメージしているのは、フランスの“ベニエ”。カボチャや小豆、カマンベールといった餡を包んで揚げますが、個性や差別化をするためにもいいですよ」
確かに、最近流行のドーナッツは生地がメインのものがほとんどですよね。このひと手間が、1日1000コという人気の条件なのかもしれません。

今回は、小倉餡とカボチャ餡、そしてカマンベールチーズの3種類。50gの生地に対して30gの餡を包みます


さて、45分ほど二次発酵をとったら、いよいよ、ドーナッツ作りのメインイベント“揚げ”です!

ジャーン!フライヤーが登場です


「揚げ油には、サラッと軽くするために米油を使います。それから、生地が油を吸い込み過ぎないよう、少し表面を乾かしてから揚げるのもポイントです」
そうなんです。このドーナッツは、油っぽくないのも特徴のひとつ。必要以上に生地が油を吸わないよう、生地に少量の油脂を入れるという工夫もされています。

「180℃に熱したフライヤーで、片面2分ずつ揚げて下さい」
まずは先生がお手本を披露。フライヤーのカゴに生地を並べ、そっと滑らせるように油に入れると、プックリおいしそうに膨らんできました!

“わー、おいしそう!” “食べたーい!”と歓声が。
見ているだけでテンションが上がります!


生徒の皆さんも、次々にチャレンジ。いつもとは違う“揚げ”の作業に、多少戸惑いながらも、楽しそうな様子です。ちなみに、家庭で作る場合は中華鍋のようなものでもOK。その場合は、温度を一定に保つように注意してください。

見事なキツネ色に揚がりました


カマンベール入りドーナッツの断面は
こんな感じ。トローリチーズがおいしそう




次に作るのは、「アルチザン・テラ」で一番人気の“トウモロコシのリュスティック”。
「このパンの食感を作るのは、北海道産小麦“キタノカオリ”なんです。ミキシングで“キタノカオリ”のグルテンを最大限に引き出し、それをパシナージュで切る、という感覚で作っていきます」
北海道産のパン用強力粉“キタノカオリ”は、もっちりとした食感に加え、扱いやすいことで定評のある粉。粉本来の食感を、“いかし”て“伸ばす”、というのがこのパンのポイントです。
ちなみに“パシナージュ”とは、ある程度グルテンが形成された生地に水を加えてミキシングすることで、しっとりとした独特の食感を作り出す製法のこと。栄徳先生の得意技のひとつです。

さらに、もうひとつのおいしさの秘密が、たっぷりのトウモロコシ。
「トウモロコシの風味を生地自体でも味わえるように、熱湯で戻したトウモロコシパウダーを加えています。さらに、粒状のトウモロコシも50%加えているので、トウモロコシの風味がしっかり広がりますよ」
なんと、戻したトウモロコシパウダーと粒のトウモロコシを合せると、95%にもなるからびっくりです!

フレーク状のトウモロコシパウダーを倍量
の熱湯で戻すと、ピュレのような状態に


低速で3分間、中速で10分間ミキシングし、生地のグルテンがしっかりと出来上がったら、“パシナージュ”開始。10%の水を加えてミキシングします。
「水がちょっと浮いている感じでOKです。しっとり感ときれいな気泡を作るためには、欠かせない方法なんですよ」

わかるでしょうか? 混ざりきらない水が少し
浮いているような、みずみずしい状態です


トータルの水分は116%! フルフル、
トロトロとしたやわらかーい生地です


ところで、粒状のトウモロコシはどこで混ぜるのでしょうか?
「これは、パンチの際に2回に分けて混ぜ込みます。こうすることで、コーンがつぶれないですみますから」
練り込む“フレーク”と、形を保った“粒”。2つのコーンが楽しめるというわけです。

表面に半量のコーンをまいて・・・・

巻き込むように、生地を折りたたみ、パンチします

さらに、折りたたみます。一度目のパンチの段階では、かなり扱いにくそう!


「パンチは合計4回してください。横に広がりやすい生地なので、力をつけ、ダレないようにするため、パンチが必要になります。最後のパンチでグッと締めるイメージですね」
パンチといっても、生地をそっと折りたたむだけですが、これにより生地に力がつくのだそう。4回ともなると少し手間ですが、こうした思いやりと愛情が、おいしさには欠かせないのです。

4回のパンチを経て一次発酵を終えた生地。やわらかそうですが、確かに少し締まっているのがわかります


約3時間の発酵が終了。パンチで多少力がついたとはいえ、水分が多いだけに、生地はやわらかで扱いにくそう・・・。160gに分割したら、玄米粉をたっぷりと振ったキャンバス生地の上にそのまま乗せて、ベンチタイムをとります。ちなみに、玄米粉は粒子が粗く、水分が入りにくいため、こういう生地には適しているそうです。

ゆるゆるの生地は、分割して計量するのが精一杯!


そのまま35分ほど室温でベンチタイムをとったら、焼成します。



最後は、ちょっと変わったライ麦パン、“トゥルトセーグル”です。
「これは製法がすごくユニークなんです。皮を食べるライ麦パンで、驚くほど皮が厚くて固いのですが、とてもおいしいんですよ」
実は“トゥルトセーグル”は、その皮のあまりの固さに、スライスにも一苦労するという、超ハード系。「ラ・テール」のフランス人ブーランジェ直伝のレシピなのだそうですが、この食感の秘密は製法にあるそうです。

「配合は本当にシンプルなんです。でも、熱湯で捏ねるというところがポイント。ライ麦全粒粉と塩と熱湯。それに、リスドオルと水で起こしたルヴァンデュール(固いルヴァン種)を使います」
熱湯で捏ねるライ麦パンとは、確かに珍しいですよね。

使用するのは、粉末タイプのライ麦全粒粉。今回は、太陽製粉の石臼挽きオーガニックライ麦粉を使いました


「これも、粉をα化させるための技法です。ただ、ライ麦にはペント酸という糖質分が含まれていて、この扱いがちょっと難しい。ペント酸は、ネチッとしたガム状のかなり強い食感を生み出すので、これを出しすぎるとおいしい生地になりません。低速で5分ミキシングした後、最後に20秒だけ、高速でミキシングするのですが、この高速ミキシングで適度にネチッとした食感を作ることができるんです」
熱湯で捏ね上げるうえに、わずか20秒の高速ミキシング・・・。かなり高度なテクニックが要求されますが、これぞ応用コースの醍醐味です。

「ルヴァンに熱湯が直接当らないよう、まずルヴァン、その上にライ麦粉と塩を入れ、熱湯を入れてミキシングします」
ドーナッツに続き、またも登場した熱湯。しかも、これはミキサーボウルに直接、熱湯を注ぎいれ入るという、ちょっとダイナミックな手法です。

熱湯を入れてミキシング開始。しっかりα化させるため、熱湯の温度は重要な鍵になります


「生地が熱いので、気をつけてくださいね」
ボウルに熱湯を注ぎいれ、まずは低速で5分間ミキシング。“ピピピ”とタイマーが鳴ったら、高速に変えて20秒間ミキシングします。
確かに、高度なテクニックなのですが、作業としては意外に簡単。ケンミックスなどでも大丈夫とのことなので、コツさえつかめば挑戦できそうです。

捏ね上げ温度は45℃。ホカホカです


捏ね上がりの状態。やや透明感があります


捏ね上がった生地は、ボウルに入れたまま、ビニールをかけて45分間発酵をとります。実はこの45分にも大きな意味が。
「熱湯を入れることで、死んでしまうルヴァンもあるのですが、逆に、一部は活性化します。ですので、旨みが出て、かつ、酸味は抑えられている、という時間帯で分割してしまうのがポイントなんです」
理論としては難しいですが、作業としては比較的簡単。470gに分割して、厚さ4cmのハート型に成形したら、室温で約1時間二次発酵をとります。

薄すぎると皮だけになり、厚すぎると
火通りが悪くなるので要注意


「表情を出すために、少し生地を反らせて、ヒビを入れてくださいね」
ハートにヒビ・・・なんて、ちょっと縁起が悪いですが、あくまで表面だけなのでご心配なく。これだけで、プロの作るハード系らしい、顔つきになってくれます。

ライ麦粉をたっぷりとふって、グッと後ろに反らします


皮を厚くするため、少し乾かしてから窯へ。重たい生地なので、230℃で約1時間20分と長めに焼成します。

リバースシーターもしっかり使いこなして。
窯に生地を落としていきます


食感をテーマにした、今回のレッスン。さてさて、どんなパンが焼きあがったのでしょうか?





〈 今回作ったパン 〉



豆乳・玄米ドーナッツ
モチモチ感とプニッとした弾力が個性的なドーナッツ。粉の旨みを感じる生地は、味がしっかりとしていて、中の餡との相性も抜群。油っぽさがないので、いくつでも食べられそうな危険なおいしさです!



トウモロコシの
リュスティック
 
焼いている時から、コーンの甘い香りに包まれていた“トウモロコシのリュスティック”。薄くカリッとしたクラストに包まれた生地は、しっとりモチッと、そして柔らかな食感。口の中に、トウモロコシの風味と甘さが溢れ出します。



トゥルト セーグル 
想像通り(以上に?)固いクラストは、ライ麦の香ばしさがギュッと凝縮していて、濃厚な味わい。対して、中はムチッとしつつも、しっとりやわらかな食感です。ライ麦の深い旨みとコクが非常に強く、病み付きになるおいしさ!




焼立てを試食。もちろん、チーズとの相性も抜群です




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