2010パナデリア石窯パン教室応用コース
第3回 国産小麦のパン


第1回「天然酵母」へ
第2回「食感」へ




〈作るパン〉
(1) 国産小麦比べ 〜バゲット〜
(2) 有機食パンとそのアレンジ
ミルクフランス
テラコッペ
(3) カカオのパン



パナデリア石窯パン教室、最終回となる第3回目のテーマは、「国産小麦のパン」です。
国産小麦といえば、数年前までは手に入りにくいものでしたが、最近ではすっかりポピュラーになりました。そのおかげで、北海道産に九州産、“春よ恋”に“ミナミノカオリ”など、産地も銘柄もバリエーション豊かに!・・・でも、いったいどれを選んだらいいの??なんて困った経験もあるのではないでしょうか?そこで、今まで以上に詳しく、“味”と“食感”の違いに迫ろうという内容なのです。
小麦粉に関しては、国境やメーカーの垣根を越えて、あらゆることを知り尽くしている栄徳先生。この機会に、ぜひ詳しく教えてください!


「今日は、まず小麦の勉強から始めましょう」
そう切り出した栄徳先生。なにやら、文字がギッシリの資料が配布されています。これは一体・・・?
「実はこれ、『ラ・テール』のスタッフの教育用に作った資料なんです。普段、お店では、この資料を使い、4時間くらいかけて勉強しているんですよ」
なんと、正真正銘のプロ向けテキストだったとは!中には、例えば、小麦のどの部分が粉になるのか、灰分やタンパク質の意味、さらに様々な小麦の特徴がずらりと書かれています。これさえあれば、どの粉が何に向いているか、しっかり勉強できそう。さすがは、粉博士、栄徳先生!

知っているようで、意外に知らないのが粉のこと。勉強になります!


「まずは、シンプルなバゲットで粉の違いを比べたいと思います。食感も風味も、結構違いがあるんですよ」
ということで、比べるのは、
(1) 北海道産 キタノカオリ(100%) ※有機小麦
(2) 神奈川県産 湘南小麦(50%) + モンブラン(50%)
(3) 九州産 ミナミノカオリ(85%) + 九州産 チクゴイズミ(15%)
 の3つ。
「(2)の湘南小麦というのは、ナンブコムギ(25%)、ニシノカオリ(25%)、農林61号(50%)をブレンドしたもの。灰分が非常に高いので、今回はモンブランを合せています」
実は、湘南小麦の生みの親は、今は亡き「ブノワトン」のシェフ高橋幸夫さん。現在もその意思を継ぎ、お弟子さんが作り続けています。



「今回は、粉の個性がわかりやすいよう長時間発酵で仕込んでおきました。捏ね上げて、約1時間後にパンチをしたら、15〜18時間発酵させてください」

みずみずしく、艶のある長時間発酵の生地。発酵の際は、ビニールなどに包んだ方が温度の影響を受けにくいのでおすすめです


「ボリュームの目安は2.5倍程度。ポコポコと気泡ができてきたらOKです」
さっそく、発酵が完了した3種類のバゲット生地を200gに分割していきます。

写真だとわかりにくいですが、色やボリューム感などに、結構大きな差があります。手前から、“(1)キタノカオリ”、“(2)ミナミノカオリ+チクゴイズミ”、“(3)湘南小麦”。この時点では、(1)の生地が元気でした!


さて、30〜40分ベンチタイムを取ったら成形。ちなみに、どうしてもタイムラグが生じてしまうので、成形はボリュームの順に。(1)、(2)、(3)で成形していきます。

応用コースの最終回ともなれば、バゲットの成形なんてお手のもの! それにしても、栄徳先生、手が早すぎて見えませんよ〜


ところで、上級者になっても、なかなか慣れないのが“クープ入れ”。そこで、ちょっとしたコツを教えていただきました。
「クープナイフは、刃を弓状にしっかり曲げておくこと。こうすれば、生地に対してまっすぐに刃を入れても、斜めに切れ込みが入るので簡単なんですよ」
生地に対して斜めに刃を入れるのではなく、刃自体を斜めにしておけばいいとは目からウロコ!クープ入れに苦労していた方は、ぜひ試してみてください。

刃の部分をあらかじめしならせておきます


“スッ、スッ”と入れるのがコツ


気になるバゲットの焼き上がりと味の違いは後で紹介することにして、次は“有機食パン生地”を仕込みます。
「これは、『アルチザン・テラ』の食パンと同じ生地で北海道産の“春よ恋”を使います。外国産小麦と国産小麦の違いは、なんといってもグルテンの質なんです」
灰分やタンパク質量など、粉を選ぶ上での目安は色々ありますが、大きなカギを握っているのが、グルテンの質。国産小麦のパン特有のモチッとした食感には、グルテンの質が大きく影響しているのだそう。

ポーリッシュ種は、前日に、粉と水(30℃)、インスタントイーストをヘラで混ぜ、3時間ほど置けばOK。2.5倍程度になったら冷蔵庫に保管しておきます


「国産小麦のグルテンの質をいかすためには、大きな気泡ができるような生地にして、そこにいかにガスを抱きこませるかということを、意識して作ることが重要です。グルテンには、ミキシングによって作られる縦伸びのグルテニンと、(低温長時間)発酵によって作られる横伸びのグリアジンがありますが、この縦と横のバランスがとても大切なんです」
うーん、聞いていると難しそうですが、実際にはどうすればいいのでしょうか?
「まずは、捏ね上げの目安を、グルテンのピークを少し過ぎたあたりに持っていくこと。ミキシングの回転に少し遅れて生地が追いかけてくる感じがベストです」

ピークを過ぎることでやわらかさが出て、うす〜く伸びる状態に。これで大きな気泡を維持することが可能になるのです


単にミキシングするのではなく、その意味を考えること。グルテンのコントロールができれば、文句なしの上級者です。

アメリカ産の有機の発酵バターを使用。バターが混ざったら、さらに7〜8分ほどミキシングします




そして、上級者のポイントがもうひとつ。
「成形は、気泡をコントロールするのがポイント。例えば、リュスティックだったら粗い気泡を残したいし、食パンだったらきめ細かく整った気泡を作りたいですよね?」
確かに、均一で繊細な気泡がパン・ド・ミの身上です。
「そのために使うのが麺棒。一次発酵によって出来た大きな気泡をつぶし、分散させることで、きめの整った生地ができるんです」

きめ細かくしたい場合は、ある程度
しっかりつぶしてから成形します


さらに、同じ生地を使いミルクフランスとテラコッペも作ります。
「ミルクフランスの生地は成形したらトヨ型に入れて。テラコッぺは成形して粉をたっぷり振り、低温で白く焼き上げます。実は、成形や型、焼成の温度によっても食感は変わります。今回は3種それぞれに特徴が出ると思いますよ」
食パン型、トヨ型、そして手成形のまま・・・。まったく同じ生地を使った3種のパンですが、どんな違いが出るのが楽しみです。

食パン型は、上火180℃、下火240℃で35〜40分焼成


太さが均一に焼き上がるトヨ型は便利な
アイテム。240℃で12分焼成します


手で成形しただけの生地。
180℃で12分ほど焼成します


最後は、カカオのパン。名前の通り、有機ココアが20%、有機チョコレートが30%も入る生地ですが、心配なのがボリューム。国産小麦というと、ただでさえボリュームが出にくいイメージがありますが、ココアやチョコレートのような素材を入れても大丈夫なのでしょうか?

カカオ分70%のヴァローナ社の有機チョコレート“カオグランデ”。なんと、30%という贅沢な配合!


「今回は、ホクシンとハルユタカをベースにした“Type ER(江別製粉)”を使います。この粉は、国産小麦でありながら、フランス産小麦に近い感じに焼き上がるのが特徴。それは、酵素が入っているからなんですよ」
国産小麦でありながら、バゲットなどに使うと、クープがキレイに立つ“Type ER”。これは、魅力的ですね。
「ところが、あまり混ぜないとボリュームが出ないし、混ぜすぎるとボリュームは出るけれどクープが立たない・・・。10〜20秒ほどしか“ココ!”という、見極めのタイミングがないんです。難しいけれど、そこが面白い!そういう粉なんですよね」
と、目を輝かせる栄徳先生。まさに職人好みの粉ですが、とても旨みのあるおいしい粉なので、この機会に習得したいものです。
「ミキシングは低速5分、中速3分。カンパーニュを作るときのようなミキシングをします」
刻んだチョコレートを加えたら、中速で2分ほど。捏ね上げ温度は26〜28℃に持っていきます。

少しグルテンが出てきた、という感じでOK。混ぜすぎると、ボリュームが出てしまい、味わいが薄くなってしまいます


約1時間発酵させたら、分割・成形。
「分割は、150gと20gの2種類。生地がパサつきやすいので、ベンチタイムなしで成形します」
小さく丸めた生地を上に乗せたら、手で押します。この後、2時間ほど二次発酵を取って、焼成します。

手で押して粉をまぶし、
逆さまに置きます
雪だるまのように
重ねたら・・


そうこうするうちに、パンが焼き上ってきました。



今日は、味と食感比べを兼ねたランチタイム。さて、違いは出たのでしょうか?

バゲットに合せて、生ハムとスープ
のランチ。最高の組合せです


左から、(3)九州産 ミナミノカオリ(85%) + 九州産 チクゴイズミ(15%)、(1)北海道産 キタノカオリ(100%)、(2)神奈川県産 湘南小麦(50%) + モンブラン(50%)


〜 試食の結果 〜

(1)クープがキレイに開き、ボリュームも一番。もちっとした食感で甘みを強く感じる。
(2)皮が薄く、クープはほとんど開かない。そのせいか、中がみずみずしく、もちもちとした独特の食感に。雑味のある、濃い味わい。
(3)厚めのクラストは、カリッとしていてお煎餅のような香ばしさ。もちっとしていて、食感はやや重ため。個性的なおいしさ。ボリュームは少ない。



見た目、味、食感そのそれぞれに、想像以上の違いが出た、バゲット比べ。生徒の皆さんも、“粉だけでこんなに違いが出るなんて!”と驚いたようです。
今回の国産小麦ではもちろん、良い悪いではなく、その個性や特徴をどういかすか、が問題。自分の作るパンに合せて粉を選ぶことが大切です。

今回の応用コースでは、「天然酵母」、「食感」、そして「国産小麦」という観点から、パン作りを学んできました。それを通してわかったのは、天然酵母だから、国産小麦だから、というひとつの要素ではパンは語れないということ!素材選び、酵母の相性、そして技術・・・。それぞれが、複雑にからみあって、おいしさを作り出しているのです。
それらを知り抜いたプロの職人ならではのレッスン。参加していただいた皆さんも、コツや技を習得して、着実にステップアップしていることでしょう!
なお、2011年度のパナデリア石窯パン教室は2月末からスタートします。今回の講師は、中野で人気の「ブーランジェリー ルボワ」のシェフ、森朝春さん。レッスンの様子は、このコーナーでご紹介していきますので、どうぞお楽しみに!




〈 今回作ったパン 〉



国産小麦比べ 〜バゲット〜
3種類それぞれに特徴があった、今回のバゲット。面白かったのは、味の濃さが好きだったり、甘みが好きだったり・・・と、人によって好みが分かれたところです。味も食感も個性豊かな小麦たち。ぜひ皆さんも、お気に入りの小麦を見つけてみてはいかがでしょう?



有機食パンとそのアレンジ(ミルクフランス、テラコッペ)
食パン 
フワッときめ細かく、もっちりやわらかな食感が特徴。粉の風味と甘みがしっかりと感じられます。
ミルクフランス 
トヨ型で焼き上げたミルクフランス生地は、皮の部分がサクッとして香りがよく、全体に軽さのある焼き上がり。食パンとは違う歯切れのよさがあり、これがミルククリームにぴったり合います。
テラコッペ 
型に入れず、低温で焼き上げたコッペ生地。同じ生地?と疑ってしまうほど、モチッとした食感が強くなっています。色をつけずに焼き上げた皮は非常に薄くて、やわらかです。



カカオのパン
チョコというと甘いおやつパンを想像しがちですが、これはホロ苦で大人の味わい! 甘さ控えめなので、カカオの風味が引き立っています。モチッとやわらかい生地の食感も良く、バターなどと合せてもおいしそう。





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