第1回:食パン生地と菓子パン生地
第3回:フランスパン生地とカンパーニュ生地



〈作るパン〉
(1) クロワッサン生地とそのアレンジ
クロワッサン、パン・オ・ショコラ
(2) ブリオッシュ生地とそのアレンジ
ブリオッシュ・ア・テット、ブリオッシュ・ナンテール、
ラ・ムーナ
※今回のレッスンではあらかじめ用意した生地を使い、一部差替えで作業を行ないました



2ヶ月ぶりの再会

本来は3月に開催予定だった、基礎コース2回目。3月11日の東日本大震災の影響で、1ヶ月延期しての開催となりました。2ヶ月ぶりの再会となりましたが、皆さんお元気そうで何より!さぁ、今日もがんばりましょう。




2回目のテーマは、クロワッサン生地とブリオッシュ生地です。
パン屋には欠かせない基本中の基本の生地ですが、意外に自信がある人は少ないかもしれません。というのも、温度や折り込み、成形に発酵・・・と各工程にポイントがあるから。なかなか難易度の高い生地といえるでしょう。
「クロワッサンは、折り込みや温度管理などが難しい生地ですが、まだ涼しい今の時期に覚えれば練習もできます。今日、しっかりと覚えてください」
と森先生。確かに、夏場のクロワッサンは、プロでも思うようにいかない作業。この時期なら、特訓もできますね。


パリで出会ったクロワッサンの衝撃

ところで、森先生は、特にクロワッサンには並々ならぬ想いがあるのだそう。
「まだ若い頃ですが、パリで朝食にポワラーヌのクロワッサンを食べたんです。それが本当においしくて。頭をガンと殴られたような衝撃を受けました」




実はこのときまで、実家(金沢)のパン屋を継げばいいいという、やや軽い気持でパン職人を目指していたという森先生。クロワッサンを食べたその瞬間、パン作りへの想いを新たにしたのだそう。
「その時、本当に真剣にパンを学びたいと思ったんですよね。こんなクロワッサンを作りたい、食べた人をアッと驚かせてみたいって」
一念発起した森先生は、その後、ストイックにパン道を歩むことになるのですが、そんな、先生にとって最も想い入れの強いクロワッサンだけに、習うのも食べるのも楽しみです!



〈冷やす〉が肝心!

では、まず生地作りから。
“ガラガラ”
ん?何の音?と思ったら、森先生が氷に水を注いでいます。
「クロワッサン生地の基本は、“冷たい温度”と“低速”なんですよ」
ミキサーボウルに中力粉(モンブラン)とグラニュー糖、塩、脱脂粉乳、インスタントセミドライイーストを入れたら、まだ氷が溶け残っている冷水を投入。ミキサーを低速で回します。



「普通のパンの生地は、ゆっくり発酵を取ってグルテンをつなげ、発酵でできたガスを閉じ込めます。でも、クロワッサン生地の場合は、まだグルテンがつながっていないところでミキシングを止めるのがポイント。そうすると、パイのような、サクサクとした食感が生まれるんです」
ミキサーからは、ときおり“ガラガラ”と氷が当る音が聞こえてきます。家庭の場合と違い、業務用の大きなミキサーの場合は、ミキシングによって生まれる摩擦熱が大きいので、しっかり冷やす必要があるそうです。このまま低速で約4分半、ミキシング。すると・・・



まとまってはいますが、モロモロとしていて、なんだかつながりが弱そう。いつものツヤツヤなめらかな生地とはぜんぜん違います。ちなみに、温度は14℃ほど。もう少しミキシングしたい気もしますが、サクサク感のためにはこれで我慢。表面をなめらかにしてバンジュウに入れ、休ませます。




バター使いはメリハリをつけて

ところで、クロワッサン生地やパイ生地の場合、生地の方にもバターを練りこむことが多いですが、先生のレシピを見ると折り込み用のバター以外には油脂が入りません。これには意味があるのでしょうか?



「フランスで修業していた店では、どこも生地にバターを入れていませんでした。バターは温度の変化で形状が大きく変わります。クロワッサンの生地は冷凍して使うので、バターが入っていると、カチンカチンで伸びないし、温度が上がるとたちまちゆるんでしまう。バターを入れない方が扱いもしやすいし、パン・オ・ショコラなどにも合うので、私はすべてこの配合でやっています」
確かに、温度管理の行き届いたパイルームでもない限り、厨房での温度管理は難しく、失敗につながりかねません。といっても、もちろん味に妥協するわけではありません。折り込み用のバターは、ベーカーズパーセントで60%と、とてもリッチな配合。合理性と味へのこだわり、このバランスが大切なんですね。


叩いて、叩いて!ちょっと乱暴な(?!)バターへの愛情

「折り込み用のバターは、よつ葉の発酵バター(ポンド)を使っています」
業務用のシートバターも多く登場していますが、森先生が使うのは普通のポンドバター。でも、ポンドバターを薄く伸ばすのって難しそうですよね?



「そこで、この布を使って、バターを伸ばします」
登場したのは厚手の布。そして、麺棒です。
「こうやって、布にたっぷり打ち粉をしてバターを挟み、麺棒で叩いていきます」



“バンッ、バンッ、バンッ!!”



そう言って、おもむろにバターを叩いていく森先生。ちょっと乱暴なようですが、こうして一度バターのつながりを壊すことで、伸展性が良くなり、キレイな層ができるのだとか。伸ばしたバターはもう一度折りたたんで、また叩きます。

「最後は厚手のビニールなどを使って、きれいな正方形にしてください」
なるほど! キレイなシートバターができあがりました。




休み休み、が大切!

そしていよいよ、折り込み作業です。



プロの厨房に欠かせないマシンのひとつが、このシーター。ローラーが、生地を均一に薄く伸ばしてくれます。巨大なパスタマシンのようなものといったら、わかりやすいでしょうか?
まずは、冷凍しておいた生地を薄く伸ばし、バターを包みます。

辺の部分は生地が重なるため、麺棒で薄く調整します。かなり繊細な気配りが必要なんですね!


生地とバターをしっかり接着するため、麺棒で“ギュッギュッ”と押えたら、再度シーターへ。5mmまで薄くしたら、3つ折りにします。
「この3つ折を1時間半おきに3回繰り返します。しっかり冷やして寝かせることが大切なので、お店では、1日目に3つ折3回を終え、2日目に成形、3日目の朝焼くというスケジュールにしているんですよ」
なんと、3日がかりで作られていたとは驚きです。

3つ折り終了。冷凍庫で休ませてから、
2回目の3つ折りを行ないます



大切なのは、重さと手早さ!

3つ折を3回終え、しっかり寝かせたら、次はカットです。
普通は、ここで定規が登場し、○センチ×○センチという形にカットしていくのですが・・・。

迷いのない包丁さばきに、「さすが!」と
生徒さんから声があがります


「目安は1コ50gです」
と、目検討で“サクッサクッ”と手早くカットしていく森先生。え? 定規で測らなくて大丈夫なんですか??
「大丈夫ですよ。量ってみましょうか?」



ということで、量ってみると、なんと1枚50gちょうど!! 毎日の作業なので、体が覚えているんですね。さすがです。



〈ひっぱりながら巻く〉が、美しさのポイント

そして、成形。美しいクロワッサンのためには重要なポイントです。
「まずは、三角の部分を下にして持ち、辺を左右にひっぱります。さらに、縦にもひっぱります。こうして層の中心部分を少し薄くしてあげると、火通りや食感が良くなります」



そして、クルクルと巻いたら、頂点の部分が底にくるよう微調整。このとき、左右の端部分の生地断面が上を向いているのがポイント、と先生。
「こうすると、焼成時に層からバターが流れでるのを防げるんです。あ、それから、層をキレイに出すために、断面に手で触れないよう気をつけてくださいね」



左右の断面が上にくるように気をつけつつ、三角部分は底に・・・。あ、断面に触れちゃった!・・・と一筋縄にはいかない成形ですが、1つ、また1つ、と繰り返すうち、生徒の皆さんもかなり上達してきた様子。
どうです、なかなか上手に成形できたでしょう?




パン・オ・ショコラにも挑戦

そして、パン・オ・ショコラ用には、長方形にカットした生地を使います。ここで、生徒の方から質問が。
「先生、パン・オ・ショコラって、どうしてみんな、あの形なんでしょうか?」
うーん、確かにそうですね。三日月型クロワッサンにチョコレートを巻き込んだものなんて、あんまり見かけないし・・・。森先生、教えてくださ〜い!
「フランスのパン屋さんでは、毎日、大量のパン・オ・ショコラを作るんです。だから、今日やる日本の作り方とは違い、もっと長い長方形の生地にショコラをずらっと並べて巻き、最後に1コ分のサイズにカットしていく。そういう意味では、あの形が欠かせないのかもしれませんね」
なるほど!フランス人のパン・オ・ショコラ好きが、あの形にさせたのかもしれませんね。

パン・オ・ショコラの味の決め手となるチョコレートは、“ベルコラーデ”を使用。このまま食べてもおいしそうです。


成形は、2本のチョコレートを巻くように。この時も、閉じ終わりが底にくるように注意します。もちろん、断面に触るのは厳禁!





〈サク〉がポイントのブリオッシュ

そして、今日習うもうひとつの生地は、ブリオッシュ。これも、バターたっぷりのリッチなパンです。
「ブリオッシュに使う粉は、超強力粉(ゴールデンマンモス)と薄力粉(オルガン)です。もちろん、強力粉1本でもいいのですが、あえて薄力粉を入れるのは食感のため。サクッと、歯切れのいい食感になるんです」
しっとりしているけれど、サクッと歯切れがいい・・。確かに、おいしいブリオッシュの条件かもしれません。
「それから、砂糖は上白糖を使います。グラニュー糖でもいいですが、しっとり感を出したい場合には上白糖がいいですよ」
前回の食パンに続き、またまた上白糖の登場です。クロワッサンのようなサクサクの生地にはグラニュー糖、しっとり生地には上白糖というルールがわかってきました。

同じリッチな生地でも、ブリオッシュはしっかりミキシングと発酵を取る生地作り。約10分ミキシングして生地を作ってから、バターを少しずつ投入します。
「バターの油脂は、グルテンを壊す働きがあります。なので、あるていど生地が出来あがってから加えるようにしてください」
小さくカットしたバターは、ベーカーズパーセントで50%!こんなにたくさん入っているなんて、罪なパンですね。




ミキシング終了。ツヤのある、キレイな黄色の生地が出来上がりました!

写真右はバターを入れた後の生地。写真ではわかりにくいかも知れませんが、伸展性が生まれ、キレイな薄い膜ができるようになっています。

どんな感触なのか、生徒のみなさんも手で触れて確認します。改めて実感したのは、時間の目安はあっても、生地の状態は、その日の気候や室温、素材の状態によって微妙に変わるということ。先生も10秒、20秒という微調整を行なっていました。やはりパン作りには、生地の状態を見極める感覚とセンスが必須ですね。

ツヤのあるキレイな黄色の生地が完成しました



アレンジ自在のブリオッシュ生地

さて、ブリオッシュ生地で作るのは、定番のブリオッシュ・ア・テット、パムニール(木のケース)に入れたブリオッシュ・ナンテール、そしてオレンジピールを練りこんだ生地を使ったラ・ムーナの3種類。ベースは同じ生地ですが、成型や練りこむものでずいぶんと雰囲気が変わります。
「ブリオッシュの生地はバターがたくさん入っているので、しっかり冷やしておくこと。成形が楽にできるようになりますよ」

計量は、小さいものなら倍量を量って、手で半分に。こうして、両手で丸めるとかなりのスピードアップになります


ところで、皆さんはブリオッシュ・ア・テットの最大のチャームポイント、“頭(テット)”の成形をご存知でしょうか?
まず、手の側面で生地の一部にくびれを作り、本体となる生地の部分にグッと押し込む・・・のですが、これがなかなか難しい。頭が大きかったり、伸びたり、傾いたりと、かっこよく決めるのは至難の業なのです。(どんなふうに焼き上がったかは、後でのお楽しみに!)

くびれを作ります マラカスのような形に
頭をつまんで、型に入れ・・・
グッ、グッと指で頭の周りの生地を押し、キレイな位置に収めます
完成!


一方、ブリオッシュ・ナンテールはというと・・・。

生地を丸めます ひたすら丸めます
もちろん、両手で!
パムニールを用意し
紙の上にキレイに並べ、
パムニールに入れます



最後は、ルボワでも人気のお菓子パン、ラ・ムーナ。オレンジピールがたっぷり入っています。


麺棒で。手前1/3程度を折り、奥から1/3程度折り返します 半分折って、伸ばしたら・・・
クルリと巻いて、綴じ目を
キレイに。裏返して完成です



いよいよ焼成!

バターの多い生地でもうひとつ注意したいのが、発酵の温度。バターが溶けてしまわないよう、27℃以上にならないように気をつけます。
1時間ほど発酵させた生地は、ふっくら大きくなって、焼成を待つばかり。

ブリオッシュ・ナンテールの生地。
見事、ふっくら膨らみました


ラ・ムーナは表面にマカロン生地を塗り、あられ糖とアーモンドでお化粧。焼き上がりが楽しみです


最後に刷毛で卵をそっと塗り、いざオーブンへ。

前回も習いましたが、意外に忘れがちだったのがこの作業。ポイントは、刷毛の元の部分を指2本で持つこと! こうすると、適度な力加減でやさしく塗ることができます



今日だけはカロリー無視!おまちかねのランチタイム

パン職人の基本は、何よりも生地の状態を優先させること! ランチは、作業のスケジュールや焼き上がりに合せていただきます。とはいえ、時計の針はそろそろ2時半を過ぎ、すでに空腹感は最高潮。芳しいバターの香りに包まれる中、次々と焼き上がるクロワッサンが、誘惑の眼差しを投げかけてきます。




「では、この辺でお昼にしましょう」

今日のランチは、ソラ豆、アスパラガス、さやえんどう、ジャガイモ、キャベツなど、春野菜たっぷりのサラダ。サーモンのピンク色も春らしさをグッと高めてくれています。アシスタントに来ていただいている「石窯ガーデンテラス」の神宮さんも絶賛のドレッシングは、森さんの奥様 葵さんの特製。パンとの相性も抜群です!




もちろんパンは、焼き立てのクロワッサン、パン・オ・ショコラ、ブリオッシュ。自分の焼いたものの中から、好きなものを好きなだけ! という夢のようなスタイルです。パリパリッとした小気味良い食感とフワッと立ち昇るバターの香り・・・。ちょっぴりカロリーが気になりつつも、みなさん、焼き立ての贅沢を堪能したようです。



復習&質問タイムで手順をおさらい

ランチを終え、残すパンの焼成などを終えたら、復習&質問タイム。レシピや作業の確認をしながら、今日の復習を行ないます。



ちなみに、今日勉強した成形で一番難しかったのは、ブリオッシュ・ア・テット。
わかるでしょうか? 先生の作ったのは、頭がポコンと形良く出ています。頭部分の押し込み方が弱いと、周りの生地と一体化してしまいます。それから、頭の大きさも見た目を左右する大きなポイントになります。

先生の作ったブリオッシュ やや頭が埋没気味のブリオッシュ
ちょっと頭の重た
そうなブリオッシュ


それにしても、今回もたくさんのパンが焼きあがりました!



これが今回作った一人分です。そうそう、ランチに食べた分もあるので、作ったのはもう少し多かったはず。しかも、お店で買うのと遜色ない焼き上がりですよね。これは、家族やお友達にも自慢できそうです。みなさん、壊れないようにケーキ箱などに入れて、大切に持ち帰りました。



今日作ったパン


クロワッサン生地とそのアレンジ

クロワッサン

サクサクッとした食感と、口の中にフワッと広がるバターの風味が絶品。嫌なしつこさや重さがないのは、生地にバターが入っていないからかもしれません。リッチさの中にも、シンプルなおいしさがあり、毎日食べたいと思わせる味わいです。


パン・オ・ショコラ

同じ生地ながら、チョコレートと成形の違いで、かなり印象が変わります。成形は簡単に見えましたが、巻くときの力の入れ方(締め方)や巻き終わりで、かなり焼き上がりの表情に違いがありました。



ブリオッシュ生地とそのアレンジ

ブリオッシュ・ア・テット

薄力粉を入れた効果で、サクッとした歯切れよさが生まれていました。卵とバターの香りが上品な生地は、しっとり感があってきめ細やか。口の中でほのかな甘さが広がります。シンプルながら、成形にも作り方にも奥深さを感じる一品。


ブリオッシュ・ナンテール

パムニールに入れるだけで、こんなに違う表情に。お店に並べても、存在感があって魅力的なアイテムになりそうです。ちなみに、パムニール使いのポイントは、使用前に木のケースをさっと水につけること。目に見えない木屑のようなものが取れ、嫌な匂いがなくなるそうです。


ラ・ムーナ

本当はたっぷり粉糖をかけてお化粧するのですが、今日はスッピンでのご紹介。上にかけたマカロン生地のサクッとした食感が楽しく、生地に練りこんだオレンジピールも爽やか!お店に並べれば華やかさが増す上、ちょっとした手土産用アイテムとしても、かなりの威力を発揮してくれそうです。







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