第1回:食パン生地と菓子パン生地
第2回:クロワッサン生地とブリオッシュ生地



〈作るパン〉
(1) フランスパン生地
バタール、クッペ
(2) カンパーニュ生地
パン・ド・カンパーニュ
(3) 長時間発酵フランスパン生地(※前日仕込み)
バゲット



最終回はやっぱりハード系!

「ルボワ」の森先生のもと、4月からスタートした石窯パン教室も、いよいよ今回で3回目。ついに最終回を迎えました。
最後を飾るテーマは、ハード系の王道“フランスパン生地”と“カンパーニュ生地”。プロを目指すためには、絶対に欠かせないアイテムです。それと同時に、そのシンプルさゆえ、ごまかしのきかない難しいパンでもあります。
ということで、今日も気持を引き締めて、しっかり勉強していきましょう!




「おはようございます。今日は、ポーリッシュ法によるフランスパン生地と、自家製のルヴァン種を使ったパン・ド・カンパーニュを作ります」
ポーリッシュ法に自家製酵母・・・。なにやら最初から難しそうな雰囲気が漂っていますが、大丈夫でしょうか?!

溶岩窯で作るハード系、きっと
おいしいでしょうね!楽しみです


〈ポーリッシュ法〉はポーランド生まれ

「ポーリッシュ法というのは、名前の通りポーランドの製法なんです。フランスのパン屋にいた頃は、バゲットはこの製法で作っていたんですよ」
名前はポーランドですが、フランスでも非常にポピュラーな伝統製法なのだそうです。




「バゲットの作り方には、〈ストレート法〉、〈ポーリッシュ法〉、〈オートリーズ法〉という3種類の作り方があります。前日に発酵させておいた種を使って生地を作るのが、ポーリッシュ法。やわらかなクラムと口当たりの軽いクラストが特徴です」
という訳で登場したのが、先生が前日の夜10時に作っておいてくれた種。粉と水、インスタントイーストを混ぜて、約12時間発酵させたものです。

白くてトロッとしたポーリッシュ種。プクプクとした発酵の気泡がたくさん見えています

しっかり発酵を取ったこの種が入るのですから、ストレート法とはひと味もふた味も違う、深みのある味わいになりそうですね。


ミキシングにも流行あり。今は“やや強め”がポイントです!

「では、ミキシングしていきましょう」
すべての材料をボウルに入れて、ミキシングスタートです。
「少し前までは、ミキシングの時間を抑えるというやり方が主流でしたが、最近はわりと短めになっています。私の場合は、ミキシングをやや強めにして、その分、水を多めに入れるような作り方にしています。水が多いと生地はしっとりやわらかめになり、クラストも薄くできるんですよ」

伸ばした際に、薄い膜ができるのが見極めのポイント。
左は、まだミキシング不足の状態


そこで配合量をチェックしてみると、水分量は70%で平均(65〜68%)よりわずかに多い程度。ミキシングの強さ(長さ)も、標準より1分半ほど少ないだけです。このわずかな差が食感に大きく影響するのですから、やはり繊細な生地と言えるでしょう。
「作り方次第で、クラストの軽さも変えられるんですよ。私は、サックリしていて中がふんわり、という食感を目指しているんです」

ミキシング終了


ミキシングを終えたら、10分ほどおいて〈つき丸め〉をします。これは、軽いパンチのようなものですが、生地の二酸化炭素を出し酸素を取り込むことで、生地に強さが出るそうです。

つき丸めの作業。軽くたたんでバンジュウに戻したら、ホイロへ。60分後に一度パンチをして、さらに30分おきます



長時間発酵は、甘くてカリッ!

そこに、今ミキシングしたのとは別の生地が登場。これは、何の生地でしょうか?
「実は、今日のお昼に食べられるようにと思って、昨晩仕込んできた低温長時間発酵の生地なんです。低温長時間発酵は、イーストの量を減らし、低い温度で発酵時間を長く取るという製法のこと。この方法で作った生地は、“甘みの強さ”と“カリッとしたクラスト”がポイントです。配合はほぼ同じで(※イーストをのぞく)発酵の取り方が違うだけですが、その差を感じてもらえると思いますよ」
長時間発酵の場合はイーストが0.1〜0.2%なのに対し、普通の生地は約0.6%と多いですが、粉の量や種類はまったく同じ。これだけで、味や食感に違いがでるのでしょうか? ちょっと疑問です。

さっきまで冷蔵されていたので、生地はひんやり。この状態から発酵させていきます


「発酵の際には、イーストや粉に含まれる酵素が、生地中のたんぱく質を分解して糖分を出します。普通は、この糖分がイーストのエサになってしまうのですが、低温長時間発酵の場合は、イーストが糖分を食べる前に焼いてしまうので、甘みが残るんです」
発酵のメカニズムはなかなか難しいですが、“甘みの強さ”のポイントは、イーストが食べてしまう前に焼くことだと、よくわかりました。



そしてもうひとつ、カリッとしたクラストの秘密が気になります。
「これはグルテンがポイントなんです。グルテンが伸びきる前に焼いてしまうので、皮がバリッと厚くなるんですよ」
なるほど。必要最低限のイーストを、発酵するギリギリの環境に置くことがポイントなんですね。ポーリッシュ法と低温長時間発酵、実際にどれくらいの違いが出るのか楽しみです!




とにかく「張る」! なにをおいても、「張る」が一番大切です!

発酵もさることながら、バゲット作りの難関のひとつが成形。これがうまくできないと、焼き上がった時にうまくクープが出なかったり、食感が悪かったりと、おいしさにも影響してしまいます。


いつも的確なアシストでレッスンを支えてくれている「石窯ガーデンテラス」の神宮さん。秤を使っての分割・計量もお手の物です

そこで、今日は成形の大特訓!先生、よろしくお願いします。
「では、やりますよ。成形の際は、とにかく“皮を張る”ことだけを考えてください」
今までのレッスンでも、丸めや成形の際に重要なポイントだった“皮を張る”という意識。今日は、今まで以上に、“張る”に集中して作業していきます。
「キレイな面を上にして軽くガスを抜き、皮を張ることを意識して折込みます」



わー、先生!早くてわかりません。
「じゃあ、もう一度やりますよ」
なるほど!指でグッと押し込む際にも、生地が引っぱられて張っているのがわかります。折りたたみながら、生地を張らせるということなんですね。
「・・・長くするときは、指を丸めるようにして台につけ、手と台の間から生地が逃げていくような感じで。伸ばすのではなく、プレスするイメージです」


奥から手前に生地を持ってくるときも、“張る”ことを意識


指で押えるときは腹の部分で。もちろん、“張る”ことを意識しながら!
2つに折った生地を手のひらの付け根部分で止めていきます。もちろん“張って”


確かに、丸めた指が台についています。プレスして伸ばすイメージ!


パンパン、クルクル・・・と瞬く間に出来上がる細長い形。先生の手を見ていると、なんとも簡単そうなのですが、これが本当に難しい!

成形の特訓中!


先生のようにはいかないまでも、しっかりと指を丸め、"張る"ことに集中した結果、皆さんかなり上手に成形ができました。ぷっくりとした張りが感じられます!




特徴は、田舎らしい風貌!

続いては、カンパーニュ生地です。
「フランスでは、上に粉をふった飾りのあるパンはカンパーニュと呼ばれていました。お店によって配合はまちまちで、天然酵母のところもあれば、イーストのところもあります」
かなりザックリとした分類ですが、確かに“カンパーニュ”とはフランス語で“田舎”の意味。大きくて素朴なパン=田舎風という定義なのでしょう。
「今回作るのは、自家製のルヴァン種を使ったカンパーニュです。フランス専用粉に内麦シリアルという粗挽きの小麦を少し入れて、ガリガリっとした食感を出すようにしています」
配合は自家製ルヴァン種40%で、イーストはゼロ。基礎コースでは、初の天然酵母パン! 楽しみです。

内麦シリアル


味を決めるルヴァン種

「これが、ルヴァン種です。水、レーズン、蜂蜜で作った原液を、石挽粉、石挽ライ麦でつないでいくという方法で作っています。保存は1週間が限度ですね。うちでは、毎日繰り返し作るようにしているんですよ」
ところで、なんだかおいしそうな響きの“ルヴァン種”。実際には、イーストで作ったパンとどんな違いがあるのでしょうか?
「ルヴァン種の特徴は、皮の厚さと香りの良さ。ルヴァン酵母によってできる気泡粒はイーストのものより大きく、そのためグルテンの間が広くなります。それで、皮が厚く、ガリッとしたクラストになるんです。それから、クラムはやや重たい食感に。これは、イーストよりも力が弱いためです。それから、発酵で生まれる香りが良いのも特徴。そのため、酵母作りは重要です」

さっそく、気になるルヴァン種を拝見。



さっきのポーリッシュ種とはちがい、かなり固そうな質感。石臼挽き粉やライ麦も入っているので、色も少し茶を帯びています。
さっそく鼻を近づけてみると、強い酸味の裏にフルーティさを感じる独特の香り。おいしそうですが、口にするにはちょっと酸っぱそうなイメージです。



基礎コースとはいえ、すでにご自分で自家製酵母を起こした経験のある方も多く、
“どれくらいの温度がいいんですか?”
“失敗か成功かの見極めってどうしたらいいでしょう?”
・・・など、皆さん興味津々の様子でした。

では、このルヴァン種を使ってミキシングを行ないます。
「多少強めにこねて、水をたくさん入れるのがポイントです」



こねあがったら、これも〈つき丸め〉の作業。10分ほど経ったら、軽く丸めなおしてホイロに入れます。フランス生地同様、発酵はホイロで60分、パンチ、30分。さて、どんな生地になっているでしょうか?



つまんで、つまんで。成形は意外に簡単?

一次発酵を終えた生地は600gに分割。かなりのボリューム感があるので、丸めの作業もちょっと難しそうですが・・・

発酵を終えた生地。1.5倍くらいでしょうか?
ふっくらとしています


「こうやって、周りをつまんで・・・。はい、出来上がりです!」
先生の手つきを見ていると、確かに簡単そう!どこかあんパンの成形にも似ています。



さらに、1時間ちょっとベンチタイムをとったら成形。これも、同様につまんで丸めていきます。



「このときにも、表面を張らせる意識が大切です」
成形したものを見てみると、確かにプリッと張りがあって、高さも生まれています。簡単そうで、コツのいる作業なんですね。



キャンバスマットの上にライ麦粉をたっぷりと振り、綴じ目を上にして並べます。



クープ入れは思い切って!

それぞれ最終発酵を終え、フランス生地もカンパーニュ生地も、ほどよいふくらみが出てきました。ハード系の場合、膨らみ方が控えめなのいで見極めには勘も必要になります。

左のカンパーニュ生地のふくらみはごくわずか。発酵を終えた生地は、酸味臭がなく、マイルドで丸みのある香りに変化していました!


そして、今回の焼成のポイントは、なんといってもクープ入れです。

“スッ、スッ”。パン・ド・カンパーニュのような成形のクープ入れは、深さを調節することも大切です


「クープナイフは思い切りの良さが大切。スッ、スッと入れてください」
見るからにやわらかそうな生地だけに慎重になりがちですが、そこは潔く!やさしすぎると、表面がつれてしまいます。

うまくクープが出ますように!


窯に生地を入れたら、“プシュー”と蒸気を注入します。蒸気をたっぷり入れると表面にツヤが出るのですが、森先生はあえて抑え目に。
「少しマットに仕上げたいので、あまり入れないようにしています」
なるほど。風合をコントロールするのもプロの技なんですね。ちなみに、入れすぎるとベーグルのようにピカピカになるそうです。



ランチはもちろん、焼立てバゲット

一足早くオーブンに入っていた低温長時間発酵のバゲットが焼き上がり、そろそろランチタイムです。そして、森先生のレッスンの、もうひとつのお楽しみが、奥様 葵さんのスペシャルランチ。パンとの相性の良さもさることながら、野菜たっぷりでヘルシーなのも魅力。実は、「ルボワ」でもパンに合うサラダやスープを販売したいとの想いから、現在、パンに合うメニューを開発中なのだそうです。

低温長時間発酵のバゲットと一緒に。今日のメニューは、エビとアボカドのサラダとヴィシソワーズ。ヴィシソワーズはヨーグルトとレモンが隠し味になっていて、爽やかな味わいです


焼き立てのバゲットは、周りがカリッと香ばしく力強い甘み。とても濃くて深い味わいです!

これこそまさに、プロのバゲット! 大きな気泡とツヤのあるクラムが、おいしさを物語っています!



パチパチパチ。バゲットのおいしそうな音が聞こえてきます

窯に入ること約30分。いよいよ、焼き上がりです。



香ばしい焼き色がなんともおいしそう!
耳を澄ますと、“パチパチパチ”というパンの声(爆ぜる音)がかわいらしく聞こえてきてきます。それにしても、こんな立派なパンができたなんて、本当にみんなに自慢できますよね。



全てが焼き上がり、最後は恒例の復習&勉強タイムです。
3回目ということもあるのでしょうか。今回は、ビタミンCや粉、塩など、素材に関する細かい質問も多く、皆さんのレベルがぐっと上がっていることが感じられました。充実したレッスンでしたが、パンの世界はまだまだ奥の深〜いもの。これをきっかけに、ますますパン作りを楽しんでもらえれば、パナデリアとしても嬉しい限りです。

森先生、本当にありがとうございました!
そして、応用コースでもよろしくお願いします



秋からは、応用コースがスタートします。応用コースでは、より個性のあるパン作りや素材使いについても学んでいく予定ですので、どうぞお楽しみに!



今日作ったパン


フランスパン生地

バタール、クッペ

少し太めの成形に3本のクープを入れたバタールは、ふっくらとしたクラムの食感が特徴。発酵の違いはもちろんですが、成形でもかなり印象が変わることがわかりました。皮はパリッと薄めで、どこかみずみずしさを感じる、正統派のおいしさです。




長時間発酵フランスパン生地(※前日仕込み)

バゲット・カンパーニュ

仕上げに粉を振り1本クープで仕上げたバゲットは、名前こそ“田舎風”ながら、どこかスタイリッシュ。上のバタールやクッペとほぼ同じ配合の生地ながら、ずいぶん印象が変わります。一番は粉の甘みの強さ。厚めのクラストの噛み応えやクラムの弾力などには、力強さが感じられます。発酵の威力を感じさせる生地。
断面比較。左がバゲット・カンパーニュ、右がバタール。左は気泡が大きく、色が黄色っぽい。右は、キメがこまかく、ソフトな質感。色も白い。


カンパーニュ生地

パン・ド・カンパーニュ

これもある意味、発酵の力を感じさせる生地。手間隙かけて作ったルヴァン種から生まれる、独特の香りの良さが楽しめます。種の段階では酸味のしっかりした香りでしたが、発酵とともに丸みが生まれ、焼き上がり後はふくよかな香りに変化。イーストに比べ、発酵力が弱いので、ずっしりした重ための食感です。








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